星座館の人々 登場人物 岩崎 蝶児 (22)大学生 水無月 美枝子(22)大学生 如月 純 (22)大学生 三嶋 香 (22)大学生 葵 卿紅 (63)星座館:主(魚座の間) 葵 深月 (27)星座館:卿紅の娘(水瓶座の間) 葵 三津子 (享年43)星座館:卿紅の妻(故人) 内藤 継人(29)星座館:執事(山羊座の間) 今村 宏史(28)星座館:運転手(射手座の間) 詩堂 加美(28)星座館:女医(蠍座の間) 上原 勇介(27)星座館:料理人(天秤座の間) 緑川 遼子(27)星座館:メイド(乙女座の間) 平島 麻衣子(26)白馬村病院院長 栗原 京子(18)白馬村病院受付嬢 東山 零(29)栗原真由美の代理人?   1:星座館 鹿児島県・S市・鬼渡り山(朝)、蝶児、美枝子、純、香、鬼渡り山の山道を、大 きなリュックを背負いつつ歩き続けている。 蝶児「やれやれ、まだ着かないのか?星座館とやらには…。」 蝶児、延々と続いている山道を眺めつつ言う。 美枝子「ちょ、ちょっと休ませて…お願いよ。」 美枝子、その場にしゃがみ込んで弱々しい声で言う。 純「み、美枝子ちゃん、大丈夫?」 純、美枝子の傍にしゃがみ込んで息を切らしつつ言う。 香「何よ何よ。だらしがないわね〜。まだ歩き始めて1時間も経ってないのよ?」 香、美枝子と純の横を通り過ぎて言う。 蝶児「チッ!しょうがねえなぁ〜。オイ、香!待てよ!少し休む事にしようぜ。」 蝶児、山道の端にリュックを置いてその場に座り込む。 香「アンタ達、少し運動不足気味なんじゃないの?私なんか全然平気なのに…。」 香、ため息交じりに山道の端に座り込む。 美枝子「で、でも遠いわよ…ね?大分歩いてきた筈なのに…。こんな山道の先に、星座館 なんて本当にあるの?」 美枝子、息を切らして言葉を途切れさせつつ言う。 純「ま、まさか…あの葉書の内容は…デタラメだったんじゃ…。」 純、ギョッとした表情で言う。 蝶児「ここまで来てそんな事があってたまるか!俺達は絶対に星座館に行かなきゃならな いんだよ!どんな馬鹿野郎があの葉書を出したのか。を確認する為にな!」 蝶児、憤慨しつつ山道の先を眺めて言う。 香「なんでもいいから、さっさと行こうよ。私はあの葉書をもらってから、一刻も早く差 出人を殴りつけて罵倒する事ばかり考えてんだからね。ホラッ!!」 香、純の背中を叩きつつ言う。 純「イテテ!で、でも…。」 蝶児「さあ行こうか。純の泣き言を聞いているだけ、時間の無駄だからな。行くぞ!」 美枝子「え、ええ…。」 美枝子、蝶児につられて立ち上がる。 鹿児島県・星座館・1階・応接室(朝)、深月、豪華な置物や壁画の目立つ応接室 のソファ−に腰掛けて、正面のソファ−に腰掛けている継人と会話を交わしている。 深月「内藤さん、そろそろお客様のお迎えを出した方がよろしいのではないでしょうか? 鬼渡り山で遭難してしまいますわよ?」 深月、紅茶のティ−カップを取り、紅茶を注ぎながら言う。 継人「判りました。今村にそろそろ行ってもらいます。で、お嬢様はどうなされますか?」 継人、深月の紅茶を飲む様を眺めながら問う。 深月「無論、お客様が到着次第、私もご挨拶に伺います。そうですね、食堂で晩餐会を催 す筈ですから、その頃に合わせてご挨拶しましょうか…。」 継人「かしこまりました。上原も緑川も晩餐会の準備に余念がありません。久々のお客様 のご来訪とあって、気合が入っているのでしょうね。」 深月「結構な事ですね。ですが、あの様な事件を繰り返さない様、気を付けて頂きたいも のですが…。」 深月、紅茶をテ−ブルに置き、静かな表情を浮かべながらも、冷たい視線を継人 に向けている。 継人「…お嬢様…私は…あの事件とは…。」 継人、深月の視線から逃げる様に、深月の置いたティ−カップに視線を移す。 深月「もう水掛け論になるだけですね…。内藤さん、そろそろお仕事に戻って下さい。」 継人「は、はい…。」 継人、ソファ−から立ち上がり、深月に一礼してから応接室を出る。 深月「そう…お客様がいよいよこの館を訪れる。何年振りになるのでしょうね?お母様?」 深月、応接室の1枚の壁画に視線を送りつつ言う。 星座館・3階・射手座の間(朝)、宏史、大きな弓が数多く壁にかけられている部 屋の中で、ベッドに横たわっている。 ドア「コンコン。」 射手座の間のドアがノックされる。 宏史「ああ、開いてるよ。」 ドア「カチャリ。」 射手座の間のドアが開き、継人、射手座の間に入る。 継人「今村、仕事だ。お客様を迎えに行ってくれ。」 継人、射手座の間のソファ−に腰掛けつつ、宏史に言う。 宏史「おお、今日が例のお客様が来る日だったっけ?俺に仕事が回ってくるなんて何年振 りなんだろうな?」 宏史、ベッドから勢いよく起き上がり、継人の前のソファ−に腰掛ける。 継人「恐らく、鬼渡り山の山道を歩いている最中だろう。お前はそのお客様を見付け、こ の館まで運んできて欲しい。」 宏史「すぐに判るかな?」 継人「判るさ。あの鬼渡り山を登ってくる者なぞ、他に誰が居る?」 宏史「ハッハッハッ!そりゃあそうだな!判った、じゃあ行ってくるぜ。」 宏史、車の鍵を壁掛けから取りつつ、射手座の間を出る。 継人「さて、上原と緑川の様子でも見に行くかな?」 継人、射手座の間を出る。 星座館・3階・蠍座の間(朝)、巨大な蠍の像が窓際に置いてある部屋で、加美、 腰掛椅子付きのテ−ブルで、コ−ヒ−を啜っている。 ドア「コンコン。」 蠍座の間のドアがノックされる。 加美「はい。」 ドア「カチャリ。」 ドアが開かれ、遼子が蠍座の間に入ってくる。 加美「緑川さん?貴方、今は晩餐会の準備で忙しいのではなかったの?」 加美、驚いた様子で遼子の顔を見る。 遼子「ええ、上原さんが『もう大分準備は終わっているから、少し休憩していてイイ。』と 言ってくれたんですよ。ああ〜疲れた。」 遼子、首を左右に振りつつ言う。 加美「だったら自室で寝ていれば良かったのに…。」 遼子「もう!詩堂さんはどうしてそんなに冷たい事を言うんですか?私の愚痴を聞いてく れてもいいじゃないですか?」 遼子、腰に両手をやって加美を眺めている。 加美「フフフ…そうね。悪かったわね。そこに座ったら?緑川さん。」 遼子「でも本当に久し振りのお客様ですね。緊張してるんですよ〜私。」 遼子、加美の前に座って言う。 加美「確かに久し振りのお客様ね。そう、5年振りかしら?あの事件以来のお客様ですも のね。」 加美、コ−ヒ−のお代わりを注ぎつつ言う。 遼子「ですよね〜、しかも今回のお客様は、お嬢様が『葉書』を出してお呼びになったお 客様だそうですよ。」 加美「へえ?初耳ね。そんなに特別なお客様なの?」 加美、興味深そうに遼子の顔を見る。 遼子「なんでも、『霧山荘事件』の関連者達だとか…。」 加美「なんですって?あ、あの事件の…。」 加美、ティ−カップをテ−ブルから落とす。 破壊音「ガシャン!!」 ティ−カップが絨毯に落ちて割れる。 遼子「ど、どうしたんですか?詩堂さん。」 遼子、割れたティ−カップの破片を拾いつつ言う。 加美「ご、ごめんなさい緑川さん。ちょっと…驚いてしまって…。」 遼子「『霧山荘事件』てそんなに凄い事件だったんですか?」 遼子、雑巾で絨毯を拭きつつ問う。 加美「貴方、知らないの?『霧山荘事件』を…。」 遼子「え、ええ…。」 加美「あの事件は、霧山荘に登山グル−プと医者と新聞記者達が遭難した時に起こった事 件。住人達を含めて15人。その内生存者は7人。内1人は服役中。1人は重傷だった。 残りの8人は全員死亡。犯人を含めてね。」 遼子「そ、そんな事件があったのですか?その生存者がこの館に?」 加美、何も言わずに頷く。 加美「一体お嬢様は何を考えているのかしら?」 加美、掃除を続ける遼子を手伝いながら言う。 星座館・1階・食堂・厨房(朝)、勇介、厨房内で延々と料理をこなしている。 継人「上原、首尾はどうだ?」 継人、厨房の入り口で勇介に問い掛ける。 勇介「内藤さんか?ああ、もうじき全部料理し終わる。お客様は来たのか?」 勇介、継人の方を一瞬向いて、すぐにフライパンに視線を移す。 継人「いや、今村が車で迎えに行った。」 勇介「そうだろうな、あの鬼渡り山を迷わずに来る事は無理だろうしね。」 継人「お前はどう思っている?」 勇介「何が?」 勇介、フライパンを勢いよく振りながら問う。 継人「今回のお客様についてだ。『霧山荘事件』の生存者達だぞ?」 勇介「…。」 継人「お前は何も疑問に思わないか?」 継人、勇介、暫く沈黙して黙っている。 勇介「ああ、少しはな。だが、お嬢様がご指名なさったお客様なんだろ?じゃあ納得する しかないだろう。あのお嬢様は変わっているからな。」 継人「口を慎まないか。聞こえていたらクビになる所だぞ。」 勇介「だがアンタも少しはそう思ってはいるんだろ?」 継人「…。」 継人、黙っている。 勇介「まあいいじゃないか。どうせお嬢様の気が済んだら帰ってもらうお客様だ。それま では歓迎してやろうじゃないか。俺達は所詮、使用人なんだからよ。」 継人「ああ、そうだな…。料理を続けてくれ。私は最後に各部屋のチェックに回る。」 継人、厨房から食堂を通り、渡り廊下に消える。 鬼渡り山・山道(夕)、蝶児、美枝子、純、香、山道を延々と歩き続けている。 美枝子「ちょ、ちょっと蝶児!ま、待ちなさいよ!」 美枝子、最後尾でリュックを背負ったまま、山道にしゃがみ込む。 蝶児「ん?どうした?美枝子。」 蝶児、先頭を歩きつつ振り返って美枝子を見る。 美枝子「もう…はあはあ…3時間も歩き続けているのよ!ど、何処に星座館はあるのよ!」 香「そうね。もう見えてもイイ頃なのに…。」 純「ちょ、蝶児君。ちょっと休憩しようよ。僕ももう限界だよ。」 純、山道の端に座り込みつつ言う。 香「だらしないのね。男のくせに…。」 香、純に一瞥をくれてから、蝶児の顔を見る。 香「どうすんの?休む?」 蝶児「日が暮れる前には着きたいんだがな…。」 蝶児、夕暮れを眺めつつ立ち尽くす。 美枝子「あ!あれは何?」 美枝子、山道の遥か彼方を指差しつつ言う。 蝶児「あれは…車だな。こっちに向かってきている様だが…。」 蝶児、山道を走ってくる車を眺めつつ言う。 車「ブロロロロロロロ…。」 暫くして1台の車が蝶児達の前に止まり、宏史が運転席から出てくる。 宏史「エ−ッと…アンタ達、星座館に向かっているのかい?」 宏史、蝶児達を一人一人眺めながら言う。 蝶児「ああそうだ。だが、まだまだ先は長そうなんだがな。」 宏史「葉書をもらったお客様かな?」 宏史、軽い口調で問う。蝶児達、ギョッとして宏史の顔を見る。 香「アンタ、星座館の人間?」 宏史「ああそうだよ。」 蝶児「どういうつもりなんだ?あんな葉書をよこしやがって!」 蝶児、宏史に掴みかかる。 宏史「お、おいおい!なんだ?待ってくれよ!」 美枝子「蝶児!」 蝶児、ハッと気づいた様に宏史の胸倉を離す。 宏史「乱暴な奴だな…。俺はお嬢様に頼まれてここまでアンタラを迎えに来たんだぜ。こ んな扱いはないよな〜。」 宏史、服装を正しながら蝶児の顔を睨んでいる。 美枝子「じゃあ、貴方は私達を星座館まで?」 宏史「ああそうだ。さあ早く乗ってくれ。」 宏史、運転席に乗り込む。蝶児達、一瞬考え込んでから、車に乗り込む。 星座館・3階・魚座の間(夕)、部屋の中、窓際にある天井まである大きな水槽の 中で数多くの種類の魚が泳いでいる。卿紅、ベッドで眠っている。深月、ベッドの傍に椅 子を持ってきて座っている。 深月「お父様、お客様がおいでになるのですが…。このご様子では今日のご挨拶は無理で すわね。」 深月、冷たい視線を卿紅に送りつつ、独り言を呟いている。 卿紅「…。」 卿紅、首を軽く動かして、静かな寝息を立てている。 深月「仕方がありませんね…。私が星座館当主代行をつとめましょう。」 深月、ため息交じりにテ−ブルに粉薬を置く。 深月「お父様、お薬はいつも通りに置いていきます。詩堂さんがまた診察に来るでしょう が、今日は安静にして頂く事になるのでしょうね。」 深月、魚座の間から出る。 卿紅「…。」 卿紅、ゆっくりとベッドから体を起こす。 卿紅「客か…。」 卿紅、粉薬をベッドの下に隠す。 卿紅「…。」 卿紅、電話をかける。 卿紅「…ああ、詩堂君、私の部屋に来てもらえるか?…ああ…頼む。」 卿紅、電話を切る。 星座館・玄関前(夕)、1台の車が山道を通って、大きな門をくぐり、広い庭園を 走り続ける。そして星座館の玄関前に止まる。 宏史「さあ着いたぞ。降りてくれ。」 宏史、運転席から言う。蝶児、美枝子、純、香、車から降りて正面玄関の前に立 つ。 宏史「そこのベルを鳴らすといい。そしたらまた中で案内する者が来る。」 宏史、運転席からそう言うと、車を車庫に向けて走らせる。 蝶児「…馴れ馴れしい野郎だな。さて、じゃあ鳴らすぞ。」 蝶児、ベルにかかった紐を引っ張る。 ベル「カラ−ン、カラ−ン。」 美枝子「綺麗な音色ね。」 香「何言ってんのよ。何しに来たか判ってる?美枝子?」 香、美枝子の腕をコツきながら言う。 美枝子「わ、判ってるわよ。ただちょっと感じたままの事を口に出して言っただけよ。」 美枝子、香の顔を見て言う。 玄関「ガチャリ!」 玄関が左右に開かれ、中から遼子が出迎える。 遼子「ようこそいらっしゃいました。どうぞ。」 遼子、深く頭を下げてお辞儀をする。蝶児達、遼子を見たまま呆然としている。 遼子「どうなさいましたか?さあどうぞ。」 遼子、館内に手を差し伸べて言う。 蝶児「あ、ああ…。」 蝶児達、館内に入り、遼子の後に続いて渡り廊下を歩く。 美枝子「え、エ−ッと…貴方は…この館の…。」 遼子「え?私ですか?私は当星座館のメイドとして仕える緑川遼子と申します。以後、お 見知りおきを。」 美枝子「…貴方は、この館の事に詳しいんですか?」 遼子「そ、それほどでもありませんよ。へ、変な事聞きますね。」 遼子、苦笑いを浮かべつつ歩いていく。 遼子「さあ、お部屋分けがあるまで、この応接室でお待ち下さい。」 遼子、応接室に向けて手を差し出す。蝶児達、応接室に入る。 遼子「では、またお呼びにあがりますので、暫くお待ち下さい。」 遼子、渡り廊下を歩いていく。 蝶児「本当にここが星座館か?」 蝶児、ソファ−にどっかりと腰掛けつつ言う。 純「そうなんじゃないかな?なんか館全体が豪華な造りだし、置いてある物も霧山荘にあ ったものよりも豪華な気がするし…。」 純、置物や壁画を眺めつつ言う。 香「ちょっと純、霧山荘の名前はもう出さないで。て言ったでしょう?」 香、キッと純の顔を睨む。 純「ご、ごめん…悪かったよ。」 純、俯きつつ言う。 美枝子「でも、なんか使用人の人達からあまり悪そうな感じは受けないわね。なんていう かその…とてもフレンドリ−っていうか…。」 美枝子、蝶児の正面のソファ−に腰掛けつつ言う。 蝶児「そんなモン判るもんか。まだ俺達はこの館に来てすぐなんだからよ。それに最低で も1人は頭のおかしい奴がいる。あの葉書を出した張本人がな。」 香「そうよ。油断はならないわよ。」 香、美枝子の傍に腰掛けつつ言う。 加美「あら?貴方がたは?」 加美、応接室に入ってきて蝶児達を見て言う。 蝶児「アンタは?」 加美「ああ、貴方がたがお客様ですね?失礼致しました。私は詩堂加美。当館の女医です。」 加美、応接室の腰掛椅子に腰掛け、蝶児達に向き合う。 美枝子「女医?お医者さん?」 加美「ええ。私は当館の主、葵卿紅のお抱えの女医なのです。」 加美、テ−ブルにあるティ−ポットからティ−カップに紅茶を注ぐ。 蝶児「葵…卿紅。星座館の主…か。病気なのか?」 加美「はい。長い間大病なさっているので、魚座の間から滅多に出る事はありません。」 加美、紅茶にレモンの輪切りを入れてかき混ぜている。 美枝子「ゴクリ…。」 美枝子、加美が紅茶を飲む様を眺めている。 加美「ん?ああ、失礼致しました。貴方がたも紅茶いかがです?」 加美、美枝子の顔を見て言う。美枝子、赤面している。 美枝子「す、すいません!喉がカラカラだったもので…。」 美枝子、ティ−カップをテ−ブルから取っている。 蝶児「俺もくれ。」 香「私も頂戴。」 純「ごめん、僕も。」 美枝子、ティ−カップを4つ取る。 加美「あの鬼渡り山を登ってくれば、酸素がふもとよりも遥かに薄いのですから、喉も乾 く事でしょうね。気遣いが足りませんでした。すみません。」 加美、4つのティ−カップに紅茶を注ぎつつ言う。 美枝子「ありがとうございます。」 美枝子、ティ−カップを各々に配る。 香「フ−ッ…生きかえるわね。」 香、紅茶を飲みつつ大きく息をつく。 純「美味しい…本当に美味しい…。」 純、両手でティ−カップを大事に持ちつつ何度も頷く。 蝶児「それで、俺達に葉書を出して招いたのは、葵卿紅なのか?」 蝶児、紅茶を一気に飲み干し、加美に問う。 加美「葉書?ああ、葉書を出して招かれたのですか?お嬢様は…。」 加美、頷きながら言う。 香「お嬢様?この館の主があの葉書を出したんじゃないの?」 加美「はい。方法は判りませんが、お嬢様が貴方がたを招いた。と私は承っております。」 蝶児、考え事をしている様な表情で、紅茶のお代わりを自分で注いでいる。 蝶児「お嬢様の名前は?」 加美「葵深月。今はこの方がほぼ星座館の現当主。といっても過言ではないでしょう。」 加美、静かに紅茶を啜りながら言う。 星座館・1階・車庫(夜)、宏史、車を念入りにチェックしている。 宏史「なんてこった!今帰ったばかりだってのに、また出かけるなんてよ。忙しくなった もんだな。」 宏史、独り言を言いながら運転席に乗り込み、車を走らせる。 星座館・3階・天秤座の間(夜)、壁に黄金色に輝く巨大な天秤がかけられており、 その部屋の中央に円形のダイニングテ−ブルがある。そのテ−ブルに継人、勇介、が着い ており、会話を交わしている。 勇介「久々の大仕事だったな。晩餐会の準備は万全だが、何故、まだ晩餐会が始まらない んだ?」 勇介、コ−ヒ−を啜りながら継人に問う。 継人「お客様がまだ今日中に来るかもしれないらしい。今村に今さっき迎えに出てもらっ た。」 継人、背広からマイルドセブンの箱を取り出す。 勇介「内藤さん、この天秤座の間でタバコはご法度だぞ。」 継人「ん?ああすまなかったな。つい忘れていた。」 勇介「料理人にとってタバコは厳禁なモンでな。」 勇介、継人がマイルドセブンの箱を背広のポケットに戻す様を見ている。 継人「じゃあ私は自室に戻るとするか。」 勇介「あれ?アンタの仕事はもう終わりなのか?」 継人「さあな…だが、お嬢様から連絡が入れば、また私も仕事をこなさなければならない んだが…。まあ部屋で待つ。」 継人、天秤座の間を出る。 勇介「お嬢様も一体何を考えているのか…。よく判らないな。」 勇介、コ−ヒ−を啜る。 星座館・2階・双子座の間(夜)、蝶児、純、ソファ−に向き合って腰掛けている。 美枝子、香、ベッドに腰掛けている。双子の天子像が窓を挟んで左右に置かれている。 蝶児「双子座の間と蟹座の間か…。しかし2階と3階は同じ様な部屋の配置だな。」 美枝子「同じなんじゃないの?だって12の星座、つまり牡羊座から魚座までのすべての 部屋が6・6に分けて配置してある。て緑川さんが言っていたから。」 美枝子、双子座の間の天井に描かれた壁画を見ながら言う。 純「でも綺麗な館だよね?全体的にさ…。なんていうかその…幻想的で…。」 香「気色の悪い事を言わないでよ!男のくせに!」 香、ベッドから飛び起きて言う。 蝶児「しかし晩餐会を催すとか言っていたな?まだなのか?」 美枝子「また呼びに来る。て緑川さんが言っていたけど、遅いわね。」 純「きっとまだお客さんが来るんじゃないかな?」 純、ボソッと呟く。蝶児、美枝子、香、ハッと気づいた様に純の顔を見る。 香「お客?私達以外に?」 蝶児「てことは?まさか…。」 純「ど、どうしたの?」 純、慌てふためいた様に3人の顔を交互に見まわす。 美枝子「あと『霧山荘事件』に関わった人。といったら…麻衣子さんと京子ちゃんと由希 子さん。」 香「でも…由希子さんは服役中。可能性があるとしたら…麻衣子さんと京子ちゃんね。」 蝶児「可能性だが…0とは言えないな。ひょっとしたらここに俺達と同じ様に呼ばれてい る可能性がある。」 蝶児、美枝子、香、3人純の顔を見たまま言う。 鬼渡り山・山道(夜)、麻衣子、京子、山道を歩き続けている。 京子「ね、姉さん、少し…休ませて…。」 京子、トランクを両手で持ちつつ歩いている。 麻衣子「駄目よ。山の夜はふもとよりも遥かに冷えるのよ。なんとしても今日中に星座館 に辿り着かないと…ん?」 麻衣子、前方からやってくるヘッドライトを眺めている。 京子「く、車!車よ!姉さん!」 京子、トランクを思わず手放す。 車「ブロロロロロロロ…。」 1台の車が麻衣子と京子の前で止まる。 宏史「アンタ達、星座館のお客様か?」 宏史、運転席から麻衣子と京子に問う。 麻衣子「ええそうよ。私達は星座館のご主人から招待状をもらっているの。」 麻衣子、葉書をポケットから出して宏史に見せる。 宏史「乗ってくれ。星座館まで案内する。」 麻衣子、京子、車に乗り込む。 星座館・1階・応接室(夜)、深月、継人、ソファ−に腰掛けている。勇介、女性 が描かれた壁画の前で立っている。加美、腰掛椅子で腰掛けている。 深月「内藤さん、上原さん、詩堂さん、ではお客様の接客がこれから始まりますが、くれ ぐれもお客様に失礼の無い様お願い申し上げます。」 継人「今村は遅着されるお客様のお出迎え、緑川はそのお客様用のお部屋、獅子座の間の 整理で、ここには来ておりませんが、その旨、伝えておきます。」 深月「ええ、お願いします。」 勇介「お嬢様、晩餐会の準備は整っておりますが、お客様があとどの位で着くのでしょう か?」 勇介、深月の冷ややかな目を見つつ言う。 深月「何故?何か不都合でも?」 勇介「い、いえ、せっかくの料理が冷めてしまっては…。」 勇介、深月の冷ややかな視線を受けて、少し視線をそらす。 深月「それは私には判りかねます。詩堂さん?」 加美「なんでしょうか?」 加美、深月に話し掛けられて視線を勇介から深月に移す。 深月「お父様のご様子はいかがですか?晩餐会に顔見せできそうですか?」 加美「今夜は体調が優れていない様ですから、なるべくならばご静養して頂きたいのです が…。」 深月「やはりそうですか…。仕方ありませんね。では私が星座館当主代行としてお客様に ご挨拶しておきましょう。それと皆さん…。」 深月、継人・勇介・加美の顔を1人1人眺める。 深月「5年前の事件を繰り返さぬ様…くれぐれもご注意を…。」 継人、勇介、加美、一瞬体を震わせる。 勇介「あ、あの事件は…。」 継人「よせ!上原!」 継人、勇介が言おうとする事を手でもって制する。 深月「ん?車が到着された様ですわね。緑川さんは今、手が離せないそうですから、詩堂 さん、お迎えにあがって頂けますか?」 加美「判りました。」 加美、腰掛椅子から立ち上がって渡り廊下を歩いていく。 深月「晩餐会にお客様が全員揃ったら、私に声をかけて下さい。私は自室に戻らせて頂き ます。」 継人「かしこまりました。」 深月、ソファ−から立ち上がり、渡り廊下に消える。 勇介「5年前の事件の事…まだ根に持ってんだな?お嬢様…。」 継人「ああ、私もさっき言われたよ。だが、今頃になって何故?」 勇介「確かに…だが…。」 勇介、ソファ−に腰掛ける。 勇介「お嬢様、俺達使用人を疑ってんだな?俺達は関係無い。てのに…。」 継人「どうしてそう言い切れる?」 勇介「内藤さん、アンタ?」 継人、ドッカリとソファ−に背をもたれかける。 継人「いや、確かにあの事件は誰がやった様にも見える。が、私は自分の仲間を疑う様な 真似はしない。しかし、お嬢様にとっては…。」 勇介「ああ、自分の母親があんな死に方をすれば、ああなってしまうのも仕方なしか。だ が、なんか嫌な予感がしないか?」 継人「嫌な予感?」 勇介「誰か…また死ぬんじゃないか?て事だ。」 勇介、継人の顔を真剣に眺めつつ言う。 継人「馬鹿な!そんな事があってなるものか!口を慎め!」 継人、勇介を睨みつつ怒鳴る。 勇介「す、すまない。考えすぎだった。だが、今回の一連の出来事は何か不自然な感じが してしょうがないんだ。」 継人「それはお前だけじゃない。私も詩堂も緑川も今村も感じている事だ。」 継人、暫し口を結んでいる。 継人「だが、死人を出す事だけは、2度とあってはならない事だ。」 継人、両目を閉じる。勇介、女性の壁画を眺めて首を振っている。 星座館・2階・獅子座の間(夜)、大きな獅子の像が窓際に飾られている。絨毯も 虎の毛皮を用いている豪華な造りが目立つ部屋の中央に、巨大なテ−ブルがある。麻衣子、 腰掛椅子に旅行カバンを置いて、ベッドに座り込む。京子、ベッドに倒れこむ。加美、獅 子座の間の入り口で立っている。 加美「では、晩餐会もすぐに催しますので、暫くこの獅子座の間でお休みなさいませ。」 加美、獅子座の間のドアを開ける。 麻衣子「待って詩堂さん。」 麻衣子、獅子座の間を出ようとする加美を呼び止める。 加美「何か?」 麻衣子「この館に他にも客は来ていますか?」 加美「ええ、若い方4人組がいらっしゃっております。」 京子「美枝子さんが!?」 京子、ベッドから飛び起きて加美の顔を見る。 加美「どうかなさいましたか?」 麻衣子「いいえ、気にしないで下さい。で、どうして私達をこの星座館にお招きになった のでしょうか?」 加美「それは星座館当主代行に聞く方がよいでしょう。詳細は私も判りませんので。」 加美、獅子座の間を出る。 麻衣子「無愛想な人ね。でもこれでハッキリしたわ。あの子達もこの館に招かれている。『霧 山荘事件』の生存者が呼ばれている。」 京子「美枝子さんが来ている…。会いに行きましょうよ、姉さん。」 麻衣子「どうせ会うならば、晩餐会とやらの場でいいでしょう。疲労困憊の様子では貴方 も余計に疲れるだけよ。」 京子「そ、そうね…。」 京子、ベッドに倒れこむ。 星座館・1階・車庫(夜)、遼子、渡り廊下と車庫の間の入り口で立っている。宏 史、運転席から出て車を整備している。 宏史「なんだって?もう一度言ってくれ?」 宏史、エンジン音の中、遼子に言う。 遼子「ですから!今村さんには明日もう一度お客様を迎えに行って欲しいんだそうです!」 遼子、口に両手をやって大声で叫ぶ。 宏史「もう全員揃ったんじゃないのか?」 遼子「いいえ!あと1人来るそうなんですよ!ですから明日…。」 宏史「判った判った!了解したよ!」 遼子「すいません今村さん!失礼します!あ、それとですね!車の整備が終わったら、晩 餐会に出席して下さいよ!」 宏史「ああ判った!」 遼子、車庫から渡り廊下を歩いていく。 星座館・2階・双子座の間(夜)、蝶児、純、ソファ−で腰掛けている。美枝子、 椅子を窓際にもっていって座っている。香、ベッドに横たわっている。 香「遅いわねぇ〜。まだなの晩餐会は?私お腹が空いてるんだけどなぁ〜。」 香、ベッドの上で両足を動かしながら言う。 蝶児「俺達を飢え死にさせる気なのかもな。」 純「ま、まさか!」 純、ギョッとして蝶児の顔を見る。 美枝子「蝶児、純君怯えてるじゃないの。やめなさい。」 美枝子、ため息交じりに外の庭園を眺めている。 美枝子「それにしても本当に広い館なのね。外の庭園の土地が全て葵家の物だとすると、 相当な資産家なのね。葵財閥は…。」 蝶児「また犯罪の匂いがしてくるな。」 純「え?」 純、表情が強張る。 美枝子「蝶児、純君怯えてるじゃないの。やめなさい。」 蝶児「多分、死人が出る。」 純「そ、そんな!」 純、肩を小刻みに震わせる。 美枝子「蝶児、純君怯えてるじゃないの。やめなさい。」 蝶児「そしてまた…。」 香「いい加減にしてよ!本当にそんな気になってくるでしょう!」 香、ベッドから飛び起きて怒鳴る。 ドア「コンコン。」 双子座の間のドアがノックされる。 美枝子「は、はい。」 ドア「カチャリ。」 双子座の間のドアが開かれ、遼子が入ってくる。 遼子「皆様、晩餐会の準備が整いました。1階に降りて下さい。食堂にご案内します。」 蝶児「飯だ。」 蝶児、美枝子、純、香、双子座の間を出て、遼子の後をついていく。 星座館・3階・水瓶座の間(夜)、部屋の片隅に大きな堀があり、その堀に水が満 ちている。その堀の中央に巨大な水瓶の像がある。部屋全体に豪華な骨董品や壁画があり、 屋根付きベッドで深月が眠っている。 電話「トゥルルルル…トゥルルルル…。」 ベッドの横の電話が鳴り響く。 深月「…。」 深月、ゆっくりとベッドから上半身だけを起こし、電話に手を伸ばす。 深月「はい…。」 電話「お嬢様、お客様に晩餐会を開催する事を伝えました。」 電話から継人の声が響く。 深月「判りました。今から準備をして食堂に赴きます。」 深月、電話を切る。 2:晩餐会 星座館・1階・食堂(夜)、数多くのテ−ブルがある中で、食堂の中央に長く大き なテ−ブルがあり、その両端に椅子が並べられている。テ−ブルには料理や酒が山程乗せ られており、キャンドル、ナプキン、フォ−ク、ナイフ、グラスと各席に置かれている。 蝶児、美枝子、純、香、並んでその席に各々着いている。 蝶児「凄い…な。」 蝶児、目の前に並べられている料理を見て、呆然としている。 美枝子「こんな料理…テレビでしか見た事ないわ。」 美枝子、蝶児と同じく呆然としている。 純「どうしてこんなに歓迎されるの?」 純、隣席の香の顔を見て問う。 香「馬鹿!罠に決まっているでしょう?油断を誘っているのよ!」 香、純の顔を見て怒鳴る。 麻衣子「相変わらず貴方は気性が荒いのね?」 麻衣子、京子、食堂に入ってくる。 蝶児「オネ−さん?オネ−さんか?」 蝶児、美枝子、純、香、席から顔を覗かせて麻衣子達を見る。 美枝子「京子ちゃん!」 美枝子、京子の姿を見て叫ぶ。 京子「美枝子さん!お久しぶりです!」 京子、美枝子の席まで走っていって叫ぶ。 美枝子「元気だった?本当に久し振り!」 美枝子、京子の手を両手で掴む。 京子「ええ、美枝子さんこそお元気そうでなによりです。」 京子、美枝子の両手に手を添える。 蝶児「お、お前、京子か?」 蝶児、不思議そうに京子の顔を見る。 京子「ええそうですが…?」 純「な、なんか雰囲気が違う気が…。」 京子「そ、そうですか?そんなに変わりました?」 京子、自分の姿を目で見まわす。 香「麻衣子さん、何をしたの?京子ちゃんに?」 麻衣子「人聞きの悪い事を言わないでくれる?ちょっとした接客マナ−と態度をこの半年 位学ばせたのよ。」 麻衣子、蝶児の正面の席に腰掛けつつ言う。 蝶児「接客?」 麻衣子「ええ、この子には白馬村病院の受付嬢をやってもらっているのよ。立派な社会人 としてやってもらっているわ。」 美枝子「それは凄いわね京子ちゃん。」 京子「ええ、ありがとうございます。美枝子さんに誉めてもらえるなんて…夢の様です。」 麻衣子「大袈裟よ京子。貴方も席に着きなさい。」 京子「は、はい。」 京子、小走りで麻衣子の隣の席に着く。 蝶児「しかし久し振りだな。半年振りだ。」 麻衣子「そうね。まさかこんな形で再会する事になるとは思わなかったわ。」 香「その割には大して驚かない様子ね?」 麻衣子「まあね。あの葉書が届いた時点で、すぐに、もしかしたら貴方達も?と推測でき たわ。」 麻衣子、葉書をポケットから出してテ−ブルに出す。 美枝子「麻衣子さん達にも届いていたのね…。」 蝶児達、麻衣子の出した葉書を眺めている。 麻衣子「悪い冗談だわ。これを差し出した張本人は何を考えているのか?それを確認しに 来たのよ。」 蝶児「どうやら、俺達は嵌められているらしいが、一向にその気配をみせないんだがな。」 麻衣子「まだ何も起こっていないからそう思うのよ。きっと何かが起こる。この葉書、一 見紳士的に書かれてはいるけど、中身は邪悪なものに満ちているわ。油断しない事ね。」 一瞬、テ−ブルに着いた全員が静まり返る。 深月「皆様、遠路はるばるようこそいらっしゃいました。」 深月、渡り廊下から食堂に入ってくる。一同、深月の方を見る。 蝶児「アンタは?」 深月「私は葵深月。葵卿紅の1人娘、星座館当主代行です。今宵は心ゆくまで晩餐会をご 堪能下さいませ。」 深月、香の正面の席に着き、ナプキンを丁寧に自分の膝元に置く。 蝶児「オイ!アンタがお嬢様か?一体どうして…。」 蝶児、喋っている最中に麻衣子、手を出して蝶児を制する。 麻衣子「葵さん、貴方はこの葉書をどういうおつもりで出したのですか?」 麻衣子、深月の前に葉書を差し出して問う。 深月「どういうおつもりで?そのままの意味ですが…何か気に入らない事がございました か?」 香「当たり前でしょ!一体どういう神経してんのよ!」 香、テ−ブルをドンと叩いて怒鳴る。 深月「…随分と乱暴な事をなさいますね?いいでしょう、お聞きになりましょう?貴方が たが不快に思っているこの葉書に対する不満を。」 香「なんですって!?」 香、席を立って両手を震わせる。 美枝子「か、香、落ち着いて!」 美枝子、香の傍に立って香を宥める。 麻衣子「『霧山荘事件で運良く命を存えた皆様、私は貴方がたに大変感銘を受けました。あ の事件を私に聞かせて欲しい。貴方がたが経験した事を私に詳細を以って教えて頂きたい。 人間が命を消す瞬間を知った貴方がたは、もう一般世間とは違った人間なのです。私と同 じ人種なのです。さあ、共に語り合いましょう。私は星座館で待っています。鬼渡り山を 行けば、私に出会えます。では待っています。』とありますね?どういうつもりでしょうか? 私には理解出来ませんでしたが…。」 麻衣子、葉書の内容を読み上げる。 深月「そのままです。私は貴方がたとこうして席を並べて食事をしながら語り合いたかっ た。今はその夢も実現出来て幸せです。」 深月、両目を閉じて天井に顔を向けている。 純「な、何者なんだ…。」 純、呆然と深月の顔を眺めている。 麻衣子「では会合はこれでお開きですね。帰りはどうしてくれるのでしょうか?下山した いのですが…。」 深月「帰る事は出来ません。」 麻衣子「え?」 深月「帰る事は出来ない。と言ったのです。」 深月、両目を開き、冷たい視線を麻衣子に送る。 蝶児「何を言ってるんだ?」 蝶児、深月を怪訝な表情で見る。 深月「この館から出る事は可能です。ですが、当星座館が有する庭園から出る事は出来ま せん。御覧なさい、庭園と鬼渡り山とを隔てる壁の高さを…楽に10メ−トルはあります。 これは鬼渡り山の落石に備えて作られていると思われがちですが、全く別の意味に私は捉 えています。それに、庭園と鬼渡り山とを繋ぐ門の鍵は私が持っていますが、この鍵が無 い以上、外に出る事は出来ません。」 深月、不敵な笑みを浮かべながら言う。 京子「じゃ、じゃあ、その鍵を使って門を開けて下さい。」 深月「お断り致します。」 美枝子「ど、どうして…。」 一同、深月の顔を凝視している。 深月「私は貴方がたと会話を交わしたのです。それをここまで来て拒絶されるなど、私に は耐え難い苦痛です。それはさせません。ですから、少々酷ではありますが、この様な方 法をとらせて頂きました。失礼を…。」 深月、深く頭を下げる。 麻衣子「始めから私達が不快に思っている事を推測した上での方法ね。さっきのとぼけた 白々しい様子は演技ですか?」 麻衣子、深月に問う。 深月「…フ…フフフフ…。なるほど…なかなか鋭いですね?さすがは『霧山荘事件』の生 存者だけの事はあるのですね。」 深月、不敵に笑う。 香「その言い方はやめて!私達をなんだと思っているの!?」 深月「そうですね…失礼致しました。三嶋さん。」 香「わ、私の名前を…。」 香、ギョッとして深月の顔を見る。深月、冷ややかな目で香を見る。 深月「三島香さん、如月純さん、水無月美枝子さん、岩崎蝶児さん、そして平島麻衣子さ ん、霧山京子さん。」 深月、視線を移すごとに1人1人の名前を言う。 麻衣子「残念ね。念入りに覚えてくれた様だけど、この子は今、栗原京子と名乗っている のよ。調べが足りなかった様ですね?」 麻衣子、京子の肩を持ちつつ言う。深月、ピクリと眉を引き攣らせる。 深月「そうですか…今は栗原の姓を名乗っているのですね?知りませんでした。栗原とい えば、貴方がたの服役中の母親がかつて偽名で名乗っていた名前ですわね。」 麻衣子「…そうよ、私達は、霧山の姓は捨てたのよ。いつか母が帰ってきたら、私達は3 人で共通の姓、円谷を名乗らせてもらうわ。」 蝶児「そうなのか…。なるほどな。」 蝶児、美枝子、純、香、麻衣子と京子の顔を見て頷いている。 深月「母ですか…。いいですわね、帰ってくる母がいるというのは…。私の母はもう絶対 に帰ってくる事はありません。殺されましたから…。」 美枝子「こ、殺された?」 一同、深月の顔を見て驚いた表情を向ける。 深月「私の母は5年前に殺されました。この星座館の1階、食堂で…。」 純「しょ、食堂?」 深月「ええ、ここで母は殺されました。それもお父様と私と使用人達の前で苦しみぬいて 死にました。」 深月、冷淡な口調で喋る。 深月「母は料理を口にしている最中に死にました。それも私の誕生日を祝う会を催してい る最中にです。突然大量の血を吐き出し、そのまま意識を無くし、他界しました。私は何 も考える事は出来ませんでした。あまりに急な出来事だったので…。」 一同、静まり返って深月の話を聞いている。 深月「母が他界するまでは、大勢のお客様を呼んではお父様がお相手していましたが、母 の死によって、約3年間は警察の介入があり、お客様を呼ぶどころではありませんでした。 それにお父様もショックからか急に体調を崩され、ここ5年ほどは寝たきりに近い状態で す。」 純「お母さんは本当に他殺だったのですか?」 深月「間違いありません。当時、詩堂さんがすぐに母の様子を診ましたが、青酸カリが検 出されました。母のグラスに青酸カリが塗ってあったのです。」 美枝子「青酸カリ…。」 深月「ですが、結局犯人は未だに捕まってはいません。当然、当館の者全員が容疑者とし て暫くの間は疑われ続けましたが、決定的な証拠も無く、ほぼ迷宮入りしてしまいました。 あまりにも目撃者が多すぎる事件でした。」 麻衣子「当時の使用人は?」 深月「当時の使用人は今現在いる使用人全員です。誰も辞めてはおりません。」 蝶児「なんだって?どうして?」 深月「私が懇願したのです。お父様に…1人も欠かさず雇い続けて下さい。と。」 美枝子「犯人を見つけ出す為…に?」 深月、暫く黙っている。 深月「いいえ…犯人などどうでも良いのです。ただ、星座館に住む者が共通して言える事 は、人間の死に立ち会った。それも1人の人間の死に…。共通した経験を持った人間が傍 から離れるのは惜しい事ですもの…。」 蝶児「アンタ正気か?」 深月「ええ、私は別に母が居なくとも、これといって感慨はありません。」 深月、冷たい視線で蝶児の顔を眺めている。 京子「そんな…嘘です。」 深月「嘘?」 深月、大きく目を見開いて京子の顔を見る。 京子「母親が無くなって何の感慨も無いなんて…そんな事がある筈がありません。」 深月、呆然と京子の顔を眺めている。 深月「フ…フフフ…フフフフフ…随分とお嬢様育ちが目にあまる人ですわね。私はそんな に甘い環境で育ってきている訳ではありません。決して温室育ちのお嬢様ではありません。 貴方の様に、母の帰りを待ちわびている1人の人間と思わないで下さいね。」 深月、不意に席を立ち上がる。 麻衣子「どうしました?」 深月「少し私は疲れました。お客様を前にして申し訳ありませんが、私は先に自室に戻っ て休ませて頂きます。」 深月、一同に背を向けて渡り廊下まで黙って歩いていき、食堂を出る。 香「なんて人なのかしら!あれでも人間なの?」 香、イライラした様子で言う。 京子「本当にあの通りの性格なのでしょうか…?」 純「え?どういう事?」 京子「私には、なにかこう…無理強いしてあの性格を演じている様な気がしてしょうがあ りません。」 麻衣子「…。」 麻衣子、黙って京子の顔を眺めている。 蝶児「この料理大丈夫か?食えるのかな?」 蝶児、目の前の料理を眺めつつ言う。 美枝子「よくこんな状況で食べ物の話なんか出来るわね?」 美枝子、軽蔑した視線を蝶児に送る。 宏史「あ〜あ…腹減った。お!さすがに晩餐会とあって豪勢じゃないか!」 宏史、渡り廊下から食堂に入ってきて、蝶児達から一番離れた席に着く。 宏史「畜生、上原の奴!普段からこの位のボリュ−ムで攻めてみろってんだよなぁ〜。」 宏史、がつがつと料理を平らげていく。 純「あ…。」 一同、料理を食べ続けている宏史の姿を眺めている。 宏史「ん?どうしたんだお客様?まだ料理に手を付けていない様だが…?」 宏史、怪訝な顔で蝶児達のテ−ブルの料理を眺めている。 麻衣子「今私達が着いている席は、決められていたのかしら?」 蝶児「いや、俺達が勝手に座った席だ。」 麻衣子「では大丈夫でしょうね。頂きましょう。」 麻衣子、ナイフとフォ−クをもって料理を食べ始める。その様子を見て、蝶児、 美枝子、純、香、京子、料理を食べ始める。 宏史「アンタ達、この星座館に来て間も無いだろうが、どうだ?綺麗な館だろう?」 宏史、ス−プを啜りながら問う。 蝶児「ああ、あの葉書がなければ、そんな余裕を持ってこの館を堪能出来ただろうな。」 蝶児、パンをかじりながら言う。 宏史「葉書?ああ、そういえば言っていたなそんな事。で、お嬢様に文句を言ったのかい?」 麻衣子「ええ、言いたい事はまだまだあったけど、お嬢様はお部屋に帰ってしまわれたわ。」 宏史「そうかい。お嬢様はきまぐれな人だからな、また明日には気分を変えてアンタ達を 出迎えるさ。」 香「お嬢様は一体何を考えているのか判らなかったわ。どういう神経してんのよ?」 宏史「随分と辛口な言い方だな。それは俺にも判らんよ。だが、大富豪の娘さんだからな。 俺やアンタ達みたいな一般人には理解し難いんじゃないかな?」 宏史、ワインを飲みながら頷いている。 京子「5年前の事件について何か詳しい事をお聞きしてもよろしいですか?」 宏史、ナイフとフォ−クの動きを一瞬止める。 宏史「…お嬢様が言ったのかい?その話…。」 蝶児「ああ。大分ご熱心に話していたな。」 宏史、ナプキンで口を拭く。 宏史「その話は、もう俺達も忘れたい話なんだがね。まあお嬢様が話したとなると、無視 出来ないのかな?」 美枝子「母を亡くしても平然とした態度をとっているあの人に、少し…。」 宏史「疑問を持ったんだろ?お嬢様のあの冷淡かつ冷静な態度に?」 美枝子「ええ…。」 宏史「あの事件以後、きっとお嬢様も変わられたんだろうな。だが、1つ俺達もあの事件 に関しては不思議な事を感じているんだよ。きっと使用人全員がな。」 宏史、首を左右に振りながら言う。 蝶児「なんだ?不思議な事ってのは?」 宏史「俺達使用人全員、葵三津子、つまりお嬢様の母親が亡くなる前日に雇われたんだよ。」 麻衣子「なんですって?」 宏史「執事、女医、運転手、料理人、メイド、この5人はその日から今まで誰1人として 辞めず、今現在に至っている。その理由は…。」 宏史、少し沈黙する。 宏史「金だ。俺達はご主人様から莫大な金をもらってこの館に引き止められたんだ。俺は どうせ殺してはいないし、犯人探しの為に引き止められたのなら、美味しい事だ。と思い、 俺はこの条件で居座ったがね。」 宏史、薄笑いを浮かべて料理を口に運ぶ。 蝶児「しかし奇妙な話だな…。使用人を5人同時に雇って、その翌日に葵…三津子…か? その女が殺されるとは…。」 香「何故殺されたの?」 宏史「さあな、犯人すらも見つからないのに、動機なんて判らないだろうからな。」 麻衣子「葵三津子さんはどういう人だったの?それも判らないかしら?」 宏史「性格までは判らなかったが、大層な美人だったな…。そういえば、応接室の壁画の 1枚が、葵三津子の肖像画だったろうから、外見だけなら判るんじゃないか?」 宏史、首を傾げて言う。 麻衣子「そう…。妙な事ね。どうやらこの館のご主人、葵卿紅が一番怪しいものね。」 蝶児「そうだな。使用人の雇い方、葵三津子の事を一番知っている人物でもあり、そして あの葵深月をあの様な性格に育てあげた男。疑われて当然だな。」 香「三津子さんが殺された時、卿紅さんはその場に?」 宏史「ああ、当然居たよ。なんでも1人娘の誕生日だったからな。」 蝶児「ますます怪しいな。」 一同、静まり返る。 宏史「だがご主人様は、今は大病なさって寝たきりの生活が続いているんだよ。アンタ達 が疑う気持ちは判らんでも無いが、会う事は無理だろうな。」 純「お嬢様も言っていたね。寝たきりだって。」 宏史「意識はあるそうだがね、だが、体がもう、ついていかないんだろうな。仮にご主人 様が犯人だったとしても、もう罰は受けているだろうと思うがね。」 宏史、表情を変えずに冷淡に話す。 勇介「何の話だ?」 勇介、渡り廊下から食堂に入ってきて、宏史の正面の席に座る。 宏史「よう上原、今日の料理は最高じゃないか?普段からこの位にしてくれよ。」 勇介「話題を変えるな。なんの話をしてるんだ?と聞いているんだよ。」 勇介、仏頂面で宏史の顔を睨む。 宏史「冗談の通じない奴め。お客様からの質問に答えていたんだよ。」 蝶児「アンタは?料理人だな?」 勇介「はじめましてお客様、私は当館の料理人、上原でございます。」 勇介、蝶児達に頭を下げる。 宏史「何堅苦しい挨拶をしてんだよ。」 勇介「馬鹿野郎!接客マナ−を忘れたのかお前は!」 宏史「料理人風情が偉そうに接客マナ−を語るなよな。」 勇介「な、なんだと!」 勇介、席から立ち上がって宏史を睨んでいる。 継人「やめないかお前達!お客様の前だぞ!」 継人、渡り廊下から食堂に入ってきて宏史と勇介を怒鳴りつける。 勇介「内藤さん…。」 宏史「ふう…いい所に来てくれたぜ。これで俺はゆっくりと飯が食えるな。」 継人、蝶児達と宏史・勇介との間の席に1人で席に着く。 継人「お騒がせして申し訳ありませんでした。なにぶん接客も久々なもので…私は星座館 の執事をやらせてもらっている内藤と申します。なにか不都合な事がございましたら、私 にお気軽にお声をかけて下さい。」 継人、頭を下げつつ言う。 蝶児「執事か…ん?そういえばこれで俺達は使用人全員と面識を持った事になるな。」 麻衣子「私と京子はまだメイドさんには会ってはいないけどね。どんな人なの?」 継人「緑川にはすぐに会えますよ。お客様の身の回りのお世話は緑川がほとんどする事に なるのですから…。嬉しいですね、星座館の使用人に面識を持つ気になるなどとは。」 麻衣子「勘違いしないで下さいね。私達は半ば強引にこの館に来させられた。その事を充 分にふまえて頂きたいのですが…。」 継人「そうでしたね。ですが、お嬢様は悪気があってそんな事をする方ではありません。 どうか悪い様には受け取らないで頂きたいのです。」 継人、ワインを啜りながら言う。 香「受け取るわよ!あんな内容の葉書をもらえばね!」 継人「申し訳ない事ですが、私にも見せて頂けますか?その葉書を。」 麻衣子、継人に葉書を差し出す。 継人「…確かに…お嬢様の性格を知らない方がこの葉書を読んだのならば、気分を害され るでしょうね。申し訳ありませんでした。」 宏史「なんて書いてあるんだい?」 継人「あの者達にも見せてもよろしいでしょうか?」 継人、麻衣子の顔を見て言う。麻衣子、コクリと頷く。継人、葉書を宏史に回す。 宏史「どれ?」 勇介「俺にも見せろ。」 宏史、勇介、葉書を黙読している。 継人「貴方がたは、『霧山荘事件』の…そうでしたか。だからお嬢様が興味を持ったのです ね。」 麻衣子「今初めて知ったのかしら?」 継人「ええ、私は葉書の事までは聞いてはいませんでしたので…。」 継人、ナイフとフォ−クを持って料理を口に運ぶ。 蝶児「アンタにも一応聞いておくか。5年前の事件については、どう受け止めているんだ?」 蝶児、継人に問う。継人、勇介、ギョッとして蝶児の顔を見る。 勇介「5年前の事件…。」 継人「もうその事について知っているのですか?お嬢様が貴方がたに話したのでしょう か?」 蝶児「ああ、だが、途中でお嬢様は部屋に戻ってしまったがな。」 継人「…。」 継人、勇介、口を閉ざしたまま黙っている。 蝶児「どうした?何かまずい事を聞いたのか?」 蝶児、黙っている継人・勇介を注意深く見続ける。 星座館・3階・蠍座の間(夜)、部屋に蠍の標本が数多くあり、窓際には蠍の像が 構えている。棚には薬瓶が多く揃えられており、部屋の中央に大きなテ−ブル、部屋の隅 にベッド、もう片隅に豪華なデスクがある。加美、遼子、テ−ブルで紅茶を啜っている。 遼子「なんか…申し訳ないんですけど…いつ来てもお部屋の模様替えをしてもらいたいな ぁ〜と思うんですけど…。」 遼子、気味悪そうに蠍の標本を眺めつつ言う。 加美「そうね、でも私はこれが気に入っているのよ。ごめんなさいね。」 加美、平然と紅茶を啜っている。 遼子「詩堂さんは普段から部屋に人を招かないですから、それほど気にならないかもしれ ませんけど…やっぱり同僚としては…。」 加美「貴方の言いたい事は判るわ。でもこれは私の数少ない趣味なのよ。判って欲しいわ ね。緑川さん。」 遼子「え、ええ…。そういえば、詩堂さんは晩餐会には出席しないんですか?」 加美「私は大勢で会話をする事は好ましくないのよ。落ち着いた雰囲気がないから…。」 遼子「そ、そうですか…。」 遼子、ティ−カップを手にとって俯く。 加美「貴方は出席しないの?」 遼子「私はメイドですから…内藤さんに言われたんです。『エプロン姿の君がお客様と一緒 に食事をさせる訳にはいかないな。』て。だから私は余った料理を頂きます。」 遼子、ため息交じりにいう。 加美「酷い事を言うわね内藤さんは。私達使用人に階級はない筈でしょうにね。」 遼子「いいんですよ。晩餐会に出る程、テ−ブルマナ−も詳しくは知らないし…。それに 詩堂さんも出ないと聞いて少しは浮かばれます。」 加美「貴方はプラス思考でいいわね。」 電話「トゥルルルル…トゥルルルル…。」 内線電話が鳴る。 加美「…はい、詩堂です。」 加美、電話に出る。 深月「詩堂さん、晩餐会には出席なさらないのですか?」 受話器から深月の声が響く。 加美「ええ、私はあの様な場に慣れていませんので遠慮させて頂いております。どうかな さいましたか?」 深月「今日は安眠したいので、睡眠薬を頂きたいのですが…。」 加美「判りました。ただいまお持ち致します。」 加美、受話器を置く。 遼子「お嬢様ですか?」 加美「ええ、睡眠薬が欲しい。ですって…。きっと慣れない接客で疲れているのでしょう ね。」 加美、薬瓶から睡眠薬を探す。 遼子「私が持っていきましょうか?」 加美「そう、じゃあお願いしようかしら。」 加美、遼子に錠剤の入った紙袋を手渡す。遼子、蠍座の間を出る。 星座館・1階・応接室(夜)、蝶児、美枝子、ソファ−に腰掛けて座っている。純、 香、腰掛椅子に座って、紅茶を啜っている。京子、三津子の肖像画を眺めている。麻衣子、 窓の外の庭園を眺めている。 麻衣子「確かにあの壁を越える事は出来ないわね。それにあの門はなんて頑丈な造りをし ているのかしら?皮肉なくらいに…。」 麻衣子、チッと舌打ちしつつ言う。 香「もう諦めたら?どうせお嬢様のご機嫌が直るまで、私達は出られそうにないんだから さ。」 香、落ち着き払って紅茶を啜りながら言う。 蝶児「何を見てんだ?京子。」 京子「葵三津子さんの肖像画です。確かに美しいですね。それも若い頃の絵ですし…。」 純「でも、どうして殺されたんだろう?」 一同、考え込んでいる。 美枝子「ティ−カップに青酸カリが塗られていた。と言っていたわ。でも、一番怪しいの は料理人の上原さんじゃないかしら?」 蝶児「あまりにストレ−ト過ぎるだろう。やはり葵卿紅だと思うがな。」 香「でも内藤っていう執事も怪しいわよ。結局事件の事に触れたら黙ってずっとやりとお したし…。」 麻衣子「過去の事件に触れるのはその位にしておいたら?今はどうやってこの館を抜け出 すか?それが大事だと思うけど?」 香「そ、それもそうね。でも抜け出せそうなの?無理だと思うけど…。」 麻衣子「鍵を盗めば可能よね。」 香「なんですって?」 蝶児「冗談言うなよな。」 麻衣子「これは立派な監禁罪に当たるのよ。どんな強引な手を使って脱出しようと、私達 に分があるわ。」 一同、静まり返る。 美枝子「で、でも、まだ危害を加えられていないし…そんな強引な事をしなくても…。」 麻衣子「甘いわね。私達は何かに利用されようとしているのよ?そんな事も気付かない の?」 純「り、利用されている?」 麻衣子「少なくとも5年前の事件に関係あるかどうかは判らないけれども、私達は全く関 係が無い部外者よ。なのにこの館の人間は私達に対して大層なもてなしを見返りなしにし ている。どう考えてもおかしいわ。となると…。」 蝶児「俺達を躍らせておいて、その隙に…。」 麻衣子「いいえ違うわ。何か狙いがある筈、きっと私達の知らない何かが…。」 麻衣子、外の庭園を眺めながら言う。 3:青酸カリ 星座館・1階・食堂(夜)、広い食堂の中、晩餐会の後、宏史、勇介、ビ−ルを飲 みながら会話を交わしている。 宏史「フウ…しかし久し振りに労働した気がするよな?ええ?」 宏史、ジョッキを空けつつ言う。 勇介「お前大丈夫か?明日はまたお客様を迎えに…行くんだろ?」 勇介、両目をすわらせつつ言う。 宏史「フッ!俺は酒に強いんだ!この位で…。」 宏史、ビ−ルをジョッキに注ぐ。 勇介「それくらいにしておけ、明日二日酔いで仕事にならなかったら…。」 宏史「仕事にならなかったらなんだ?俺がクビになるってか?ハッハッハッ!そんな事あ るものか!わざわざ俺達を大金払ってまで引き止めているこの館がよ…。俺にとっては楽 園だぜ、労せずに金が入ってくる。」 宏史、ジョッキを持って天井に掲げる。 勇介「まあそれはそうだが…。俺はもう控えるぞ、明日の朝も早いからな。」 勇介、席を立つ。その時、宏史が天井に掲げていたジョッキをテ−ブルに落とす。 破壊音「ガチャン!!」 ジョッキが割れ、テ−ブルがビ−ルで濡れ、ガラスの破片が散る。 勇介「それ見ろ!もうお前もやめておけ!」 勇介、ため息交じりに宏史の顔を見る。 宏史「グッグウゥゥゥゥ!?」 宏史、口から大量の血を吐いている。 勇介「オ、オイ!どうした!」 勇介、驚愕の表情を浮かべて宏史の顔を見続ける。宏史、喉に両手を当てて吐血 し続ける。 宏史「な…なんだぁ〜…グガァァァァ…ァァァ…。」 宏史、血溜まりにしたテ−ブルの上に顔から倒れこむ。 勇介「い、今村!今村−ッ!!」 遼子「ど、どうしました!?」 遼子、渡り廊下から走ってきて食堂に入ってくる。 遼子「キャッ!キャアアア!!」 遼子、両膝から崩れ落ちて悲鳴をあげる。 勇介「緑川!詩堂さんを呼んできてくれ!急げ!」 遼子「…。」 遼子、呆然と両目を見開き、崩れたまま動かない。 勇介「オ、オイ!聞いてるのか!早くしろ!」 勇介、遼子の様子を横目に怒鳴る。 遼子「は、は、はい…。」 遼子、全身を震わせつつ四つん這いで渡り廊下を進んでいく。 星座館・1階・応接室(夜)、蝶児、美枝子、純、香、ソファ−に腰掛けている。 麻衣子、京子、加美、腰掛椅子に座っている。継人、勇介、遼子、暖炉の前で立っている。 継人「…お客様、先ほど、当館の運転手、今村宏史が食堂で亡くなりました。皆様も緑川 の悲鳴を聞き、食堂に来られましたが…見ての通りです。」 継人、表情を強張らせながら言う。一同、誰1人喋らずに継人の顔を凝視してい る。 勇介「…。」 勇介、カタカタと肩を震わせながら継人の隣に立っている。 継人「…緑川、上原をそこの安楽椅子に座らせてやれ、悪酔いしている様だ。」 遼子「は、はい…。」 遼子、真っ青な顔をして勇介の傍にいき、勇介を安楽椅子に誘導し、毛布をかけ る。 蝶児「で、あの男、どうして死んだんだ?」 継人「詩堂、何か判ったか?」 加美「いいえ、詳しい事はここの設備だけではよく判らないですけど、毒殺されている事 だけは判りました。それも青酸カリで…。」 加美、紅茶を啜りながら言う。 継人「せ、青酸カリ…だと…。」 継人、驚愕の表情で加美の顔を見る。 遼子「そ、そんな…。」 勇介「う…うわ…あ…。」 勇介、毛布の上からでも判るくらいに震えている。 麻衣子「青酸カリというと…三津子さんが殺された時に用いられた毒と同じですわね。」 麻衣子、傍にいる加美に問う。 加美「そうです…。しかし、私の部屋、蠍座の間には、青酸カリはないのですが…。」 純「じゃあ…自殺の可能性は?」 継人「…今村には自殺する動機が無いでしょう…。あの男が自殺する筈がない。今の生活 に満足していた様でしたので…。」 京子「じゃ、じゃあ…やっぱり犯人は…。」 継人「…残念ながら…この館に居る誰かが…今村を…。」 一同、静寂する。 香「じょ、冗談じゃないわ!どうしてこんな目に遭うのよ!」 香、頭を両手で抱えて叫ぶ。 麻衣子「そういえば…深月さんはどうしたのですか?ここに居ませんが?」 加美「お嬢様は水瓶座の間でもうお眠りになっているのでしょう。今日は安眠したい。と おっしゃってましたので、睡眠薬を服用した筈ですが…。」 麻衣子「確証はありますか?」 加美「確証?」 加美、キョトンした目で麻衣子の顔を眺めている。 遼子「あ、あの、私がお嬢様に睡眠薬をお届にいったんですけど…。」 麻衣子「貴方は?」 オドオドしている遼子に麻衣子が問い掛ける。 遼子「わ、私は、メイドの緑川遼子です。」 麻衣子「そう、で、お嬢様は睡眠薬を飲んだ所を見たの?」 遼子「い、いいえ…。」 遼子、震えながら答える。 麻衣子「お嬢様の様子を確認する必要があるのではなくて?それと当主の葵卿紅さんも …。」 継人「そ、そうでした…私が行ってきます。」 遼子「私も行きます。」 継人、遼子、渡り廊下に飛び出していく。 麻衣子「かなり動揺している様ね。」 香「アンタが落ち着き過ぎなんじゃないの?皆、恐怖に戸惑っている状態なのに…。」 香、化け物でも見る様な目で麻衣子の顔を見る。 麻衣子「ろれつが回ってないわよ。憎まれ口をたたくならハッキリ言いなさい。」 香「クッ!」 香、震える唇で紅茶を啜る。 蝶児「だが、アンタの予想通りになったな…やっぱり何か起きやがった。」 麻衣子「私達もこれからうまい事踊らされるのでしょうね…犯人の思う様に…。」 加美「…。」 麻衣子「詩堂さん、貴方は比較的落ち着いていますね?他の使用人はあれほど落ち着きを 失っているというのに…。」 麻衣子、毛布にくるまって震えている勇介を眺めつつ言う。 加美「そうでしょうか…。私も恐怖は感じております…ただ、医者である以上、いかなる 時でも落ち着いておかなければ。と信条においておりますので…。」 麻衣子「立派なものですね?」 加美「これからも負傷者が出ないとは限りませんものね…。」 加美、紅茶を啜りながら呟く。 麻衣子「…。」 麻衣子、加美の顔を食い入る様に眺めている。 蝶児「オイ、アンタ!アンタ見たんだろ?あの男の今わの際をさ?」 蝶児、震えている勇介に問い掛ける。 勇介「…。」 勇介、両目を開きつつも絨毯を見たまま震えている。 蝶児「オイ、聞いているのか?見たんだろ?」 勇介「…み、見た…アイツ…突然苦しみ出して…ビ−ルを飲んでいる最中に…。」 麻衣子「ビ−ルに青酸カリが含まれていたのかしら?」 勇介「い、いや…それはない…俺も同じ瓶のビ−ルを飲んでいたから…。」 美枝子「じゃあ、ジョッキに?」 加美「いいえ、死体を少し見ましたが、大量のアルコ−ルを飲酒していた事が明らかでし た。ジョッキに青酸カリが塗られていたならば、飲み始めに今村は死んでいたでしょう。」 蝶児「待てよ、じゃあいつあの男は青酸カリを?」 加美「判りません。」 一同、考え込み沈黙する。 星座館・3階・魚座の間(夜)、ベッドで卿紅が眠っている。その傍に継人、遼子、 立っている。 継人「どうやらご主人様はここでずっと眠っていた様だな。」 遼子「無事で良かったですね。」 継人「ではお嬢様の様子を見に行こう。」 継人、遼子、魚座の間を出る。 遼子「お嬢様はきっと眠っていると思いますが…。」 遼子、継人の後から渡り廊下を歩きつつ言う。 継人「当然だろう、睡眠薬が効いているのだからな。」 継人、水瓶座の間の前で立ち止まりドアをノックする。 ドア「コンコン。」 継人「お嬢様、眠っていらっしゃいますか?」 暫く沈黙が続く。 継人「眠っている様だな。なんの返事も無い。」 遼子「よろしいのですか?」 遼子、渡り廊下を歩いていく継人に問いかける。 継人「無断でお嬢様の部屋に入る訳にはいくまい。」 遼子「そんなものですか?」 継人「そんなものなのだよ。」 継人、遼子、渡り廊下を歩いていく。 継人「だが、あの平島さんというお客様は、さすがは『霧山荘事件』の生存者だな。こう いう事態に慣れている様な印象を受けないか?」 継人、階段を下りながら言う。 遼子「凄く冷静な方だなぁ〜と思いますけど…私は少し怖いですけどね…。」 継人「お嬢様とは正反対の性格の持ち主だと思うな。同じ攻撃的な性格が目立つが、矛先 が違う気がするんだ。」 遼子「矛先?」 継人「ああ、お嬢様は幻想的、平島さんは現実的。」 遼子「???」 遼子、首を傾げつつ聞いている。 継人「君には難しかったかな?今言った事は忘れてくれ。」 遼子「はあ…?」 継人、遼子、1階の渡り廊下を歩いていく。 星座館・1階・応接室(夜)、蝶児、美枝子、純、香、ソファ−で紅茶を啜ってい る。麻衣子、京子、加美、テ−ブルに着いて会話を交わしている。勇介、安楽椅子で毛布 に包まって震え続けている。 加美「そろそろ眠たくなってきませんか?もう夜中の1時を回っています。お客様は平気 なのですか?」 加美、麻衣子の顔を見つつ言う。 麻衣子「私も人間ですからね。ですが、人が殺されました、身の危険を感じるあまり眠気 も吹き飛びますよね?詩堂さん。貴方にとっては今村さんは同僚でしょう?」 麻衣子、加美の顔を見たまま動かない。 加美「…平島さんですよね?貴方は私に敵対心を燃やしているのですか?どうも先ほどか ら私に対して棘のある言い方をなさいますね?」 加美、平然とした口調で麻衣子に言う。 麻衣子「詩堂さんのあまりに平然とした態度はいくら理由をつけても納得出来ないもので …、まるで今村さんが死ぬ事を事前に知っていたかの様な…。」 加美「私が?」 蝶児、美枝子、純、香、麻衣子と加美のやりとりをソファ−から息を殺して見守 っている。 京子「ね、姉さん!」 京子、麻衣子の肩を掴む。麻衣子、その手を振り解く。 麻衣子「詩堂さん、どうなのですか?貴方はこの事件に何か関係があるのでは?」 加美「私は全く関係ありません。と言っても信じては貰えないでしょうね。」 加美、平然とティ−カップをとって、ティ−ポットから紅茶を注ぐ。 麻衣子「では今村さんに恨みはありませんでしたか?」 加美「いいえ、あの方は陽気でいい方だったと思います。」 加美、両目を閉じて紅茶を啜る。 勇介「嘘だ!アンタは今村を憎んでいた!俺は知っているぞ!」 勇介、安楽椅子から立ち上がって怒鳴る。 加美「上原さん、どうかなさいましたか?酷く興奮している様ですが…。」 加美、勇介の顔を平然とした顔つきで見る。 勇介「アンタは昔アイツに襲われそうになったんだ!それを根に持ってアンタが…。」 加美「いい加減にして頂けますか?お客様の前で!」 加美、テ−ブルにティ−カップを叩きつける。一同、加美と勇介の間で交互に視 線を送っている。 継人「どうした?二人とも?」 継人、遼子、応接室に入って来る。 遼子「詩堂さん?」 遼子、加美の傍に腰掛けて加美に声をかける。 勇介「内藤さん、あの女が殺したんだ!間違い無い!」 勇介、加美を指差して怒鳴る。 継人「何を言っているんだ上原?落ち着け。」 継人、勇介の肩を持って宥める。 勇介「あの女だ!あの女が!」 継人「上原!いい加減にしないか!そんなにお客様を混乱させたいのか!」 継人、勇介の頬をはたく。 継人「お前はもう少し静養する必要がありそうだな?もう暫くそこで休んでいろ。」 継人、勇介を安楽椅子に腰掛けさせ、毛布をかける。 継人「お客様がた、申し訳ありませんでした。お見苦しい所をお見せしてしまいました。」 継人、蝶児達に頭を下げる。 継人「詩堂、すまなかったな。気にしないでくれ。」 加美「ええ、気にしてはおりません。」 加美、平然と紅茶を啜る。麻衣子、横目で加美の顔を見ている。 遼子「詩堂さん…絶対に気にしちゃ駄目ですよ。私は詩堂さんが犯人だなんて思っていま せんからね。」 遼子、加美の目の前で口調を強くして言う。 加美「ありがとう緑川さん。本当に気にしてはいないから大丈夫よ。」 加美、口元で笑って言う。 蝶児「待ってくれ。悪いが料理人さんよ。アンタの話を聞きたいな。」 蝶児、静寂の中、声を発する。 継人「?」 継人、応接室の中央に立ち、ソファ−に腰掛けている蝶児の顔を凝視する。 継人「お客様、上原は今酷く興奮しています。少し遠慮して頂けますか?」 蝶児「この状況じゃ、もう客も使用人もないだろ?なあ料理人さんよ、さっき言いかけた 『今村があの女医さんを襲った事がある。』この話をもっと詳しく教えてくれないか?」 蝶児、ソファ−から立ち上がり、安楽椅子に腰掛けている勇介の前まで行って言 う。 継人「お客様!」 継人、蝶児の肩を背後から掴む。蝶児、その腕を振り解く。 蝶児「うるせえな!これ以上の死人が出ても構わないってのか?」 継人「…。」 蝶児、継人、お互いに視線を合わせたまま動かない。麻衣子、加美の顔を気付か れない様に横目で見ている。 継人「…判りました。仕方がありませんね。ですが、上原から話を聞く前に、詩堂、君は 部屋に戻ってもう寝ていてくれないか?緑川、詩堂を部屋に送ってやってくれ。君ももう 明日に備えて寝ていいぞ。」 遼子「わ、判りました。では、皆様、お先に寝させて頂きます。さあ詩堂さん行きましょ う。」 遼子、一同に深くお辞儀する。加美、先に応接室を出て、渡り廊下を歩いていく。 遼子、加美の後を追いかける。 継人「…さあ、思う存分聞いても結構ですよ。」 継人、加美の座っていた椅子に腰掛けてため息を付く。 蝶児「ああ、さて…料理人さん、さあさっきの話を聞かせてもらおうか。」 蝶児、勇介の前で中腰になって言う。 勇介「あれは2年前だったな…俺と今村は今夜の様に酒を飲み交わしていたんだ。それで 詩堂さんの話になったのさ。今村が詩堂さんに気が合ったのは薄々勘付いてはいたんだが、 アイツ何をトチ狂ったか、夜這いをかける。と言い出したんだ。それで…。」 勇介、首を左右に振って黙る。 蝶児「どうした?」 勇介「い、いやなんでもない。それからアイツは蠍座の間の詩堂さんの部屋に行ったんだ。 俺は心配でアイツの後をつけて様子を伺っていたんだ。そして詩堂さんが部屋のドアを開 けるや否や、アイツは詩堂さんを襲ったんだ。」 美枝子「酷い…。」 美枝子、口を両手で押えて勇介の顔を見る。 勇介「それで、詩堂さんは泣き叫んだ。だが、今村は止めなかった。それどころか今村の 笑い声が聞こえてきたんだ。アイツは喜んでいた。」 勇介、両手で頭を押えて言う。 香「最低!どうして詩堂さんを助けなかったのよ!」 京子「酷い!酷すぎます!貴方も同罪です!」 香、京子、恨みのこもった視線で勇介を見る。 勇介「だが、突然、今村の悲鳴が聞こえてきたんだ。凄まじい声だったな…。内藤さんや 緑川、お嬢様までもが部屋から出てきた位だからな。」 蝶児「どうなったんだ?」 勇介「今村は額を割っていたんだ。眉間辺りから大量の血をながしてね。必死に抵抗して いた詩堂さんが蠍の標本を投げつけたらしい。釘の一本が額を…。」 麻衣子「哀れな人…。」 継人「その一件から、詩堂は感情が冷え切ってしまったな。お前達のくだらない姦計のせ いで…。それまでは緑川とよく会話をして笑っていたあの詩堂が…。」 勇介「…俺は…。」 蝶児「そんな事があったのか。で、アンタはあの女医を犯人だと?恨みを持っていたから あの男を殺したと?」 勇介「そうだ!アイツがやったに決まっている!これ以上人が殺される前に…。」 衝撃音「バキッ!!」 蝶児、勇介の顔面を殴り飛ばす。 勇介「ウワッ!」 勇介、安楽椅子から転げ落ちる。 蝶児「すまねえな。アンタにそんな事を言う権利はないと思うがな。もしアンタの言う通 りだとしても、アンタが殺されて事件は解決だろうな。」 勇介「う…う…。」 継人「上原、大丈夫か?」 継人、勇介に肩を貸して起こす。 蝶児「…。」 継人「お客様、もう堪忍してやって下さい。もう2年前に解決した事です。」 継人、勇介を安楽椅子に座らせつつ言う。 麻衣子「どうしてそんな事をした今村さんをクビにしなかったんでしょうね?ご主人様 は?」 麻衣子、継人に問う。 継人「…情状酌量の余地があったんでしょう。今村も酔いをさましてから詩堂に謝罪を致 しましたから…。」 麻衣子「そうでしょうか?もっと別の理由があったのでは?」 継人「判りませんね。では、お客様、今夜はもうお眠り下さい。今夜の事件は明日にでも 警察に来てもらって解決を待つ事に致しましょう。」 麻衣子「警察が明日に来る?何故今は来れないのですか?」 継人「連絡はしたのですが、警察がこの館に来るには私達の案内がなければすぐには来れ ないのです。ですから、私が明日にでも警察に出向き、警察を連れてきます。」 麻衣子「…。」 継人「さあ、皆様、お部屋にお戻り下さい。部屋には内線電話があり、各部屋に繋がりま す。何かありましたら、早急に私にご連絡下さい。私の部屋は山羊座の間です。」 一同、応接室を出る。 星座館・2階・乙女座の間(夜)、部屋の4隅に裸身の女性の像が配置されており、 部屋全体が桃色に染まっている。絨毯も柔らかい羽毛で、小さなちゃぶ台が部屋の中央に ある。加美、遼子、ちゃぶ台でお茶を啜っている。 加美「緑川さん…私はもう大丈夫だから…。」 加美、両手で湯呑みを持ちつつ、俯いている。 遼子「しかし酷いですよね。私、上原さんの事、軽蔑してしまいましたよ。詩堂さんを疑 うなんて…自分の事は棚にあげておいて!」 遼子、イライラしている様にお茶を一気飲みする。 加美「もういいのよ…。」 遼子「今村さんが死んじゃいましたけど、天罰ですよ。きっと神様が罰を与えたんです!」 遼子、自分の湯呑みにお茶を注ぐ。 加美「…。」 遼子「詩堂さん、今日はこの部屋に泊まっていってくれませんか?あんな事があったばか りですし…本当は1人では怖くて…。」 加美「…緑川さん…貴方は私を疑ってはいないの?あんなに上原さんが私を犯人扱いして いたのに…。」 加美、冷静な目つきで遼子の顔を見る。 遼子「もう5年の付き合いじゃないですかぁ〜。星座館では私が一番詩堂さんの事を知っ てますよ。私は詩堂さんをこれっぽっちも疑ってはいません。当たり前じゃないですか!」 遼子、笑いながら言う。 加美「…ありがとう緑川さん。嬉しいわ…。」 加美、目頭を熱くして顔を下に向け、涙をこぼす。 遼子「や、やだなぁ〜泣かないで下さいよぉ〜。じゃ、じゃあ私はふとんで寝ますから、 詩堂さんはベッド使って下さいね。」 遼子、ベッドの横にふとんを敷き始める。 加美「私は…あの男に襲われて以来…人が信用出来なくなってしまっていた…。いつも心 の中で大きな壁を作ってしまっていた。私は…傷つく事が…何より怖くて…怖くて…。」 加美、涙声で正座の姿勢のまま話す。 遼子「…。」 加美「周りから冷静だと言われていたけど…本当は自分が出せなくなって…本音を出せな い人間に…。悔しかった…あんな男のせいで私が…弱くなってしまった事に…。」 遼子「もういいんです。時間をかけてゆっくりと直していけばいいじゃないですか。」 遼子、ふとんを敷き終え、ちゃぶ台に戻る。 加美「…ありがとう…緑川さん…貴方の様な友人を持って…本当に私は幸せ者だわ…うう う…。」 加美、遼子の手を涙で濡れた手で強く掴む。 遼子「へへ…なんか照れますね。さ、さあ寝ましょうよ。また朝になったら警察も来て忙 しくなりそうですし…。」 遼子、テレ笑いをしながらふとんに入り込む。 星座館・2階・双子座の間の前(夜)、蝶児、美枝子、渡り廊下の手摺で会話を交 わしている。 美枝子「なんか天井はプラネタリウムみたいね?」 美枝子、天井を手摺から頭を出して眺めている。 蝶児「ああ、死人が出なきゃ、もっと余裕をもって眺めていられるだろうな。」 蝶児、手摺に背中をつけて言う。 美枝子「あの女医さん、きっと怒ってるんだろうなぁ〜。」 蝶児「いや、泣いてるんじゃないか?思い出したくも無い事を思い出したもんだからよ。」 美枝子「泣いている?あのク−ルな女医さんが?」 蝶児「いや、ク−ルな様に見えるが、内面はものすごく繊細な性格なんだろう。さっきの 料理人の話を思い出してみろよ。『今村に襲われた時、詩堂さんは泣き叫んだ。』と言って いたろう?」 美枝子「そういえば…あの女医さんには想像しづらい光景よね?」 蝶児「きっとあのク−ルに繕っている性格も、今村と上原から受けた過去の苦痛からくる 後遺症なんだろう。実際にはあの通りの性格ではないはずだ。それはあの執事も言ってい たがな。」 美枝子「じゃあ、あの女医さんがやっぱり犯人なのかしら…復讐として…。」 美枝子、俯きながら言う。 蝶児「やけにあの女医の味方をしている様だな?」 美枝子「あの話を聞いたら、誰だって同情するわよ。」 蝶児「だが、仮にあの女医が犯人だとしたら、納得がいかない点が多いな。」 美枝子「え?」 美枝子、天井から蝶児に視線を移す。 蝶児「ただの復讐だったら俺達は要らないだろう?そもそも葉書を出して俺達を呼んだの はお嬢様、葵深月だ。葵深月は、あの女医と結託していたとは考えにくい。こんなすぐに 犯人が暴かれては、全く計画性が無いとは思わないか?」 美枝子「そ、そりゃあ…。」 蝶児「それにだ…俺達はまだ葵卿紅がどんな人物か知らないんだ。この館に居ながらまだ 姿を見た事がない。」 美枝子「でも葵卿紅は病気で寝たきりだって…。」 蝶児「俺達はその様を見たか?」 美枝子「え?じゃ、じゃあ葵卿紅はまったくの健康体?と思っているの?」 蝶児「だから、それも俺達は判らない。と言っているんだよ。」 美枝子「…。」 蝶児「もしあの女医が犯人ではなかったならば、犯人の目的は全く判らん。まだ惨劇が続 く可能性もあるんだ。」 美枝子「そ、そんな!」 美枝子、手摺に寄りかかる。 蝶児「今日はもう寝よう。明日の朝に俺が部屋をノックするまで絶対にドアは開けるな。 危険だからな。」 美枝子「わ、判ったわ。」 美枝子、双子座の間のドアを開き、中に入ろうとする。 美枝子「蝶児?」 蝶児「ん?」 美枝子「どうして私達、こんな殺人事件に巻き込まれるのかしら?これで2回目よ…。」 蝶児「さっさと寝てしまえ。明日になったら俺達は帰れる。」 美枝子「…うん…。」 美枝子、双子座の間のドアを閉める。 星座館・2〜3階の階段(夜)、継人、勇介に肩を貸しながら階段を上がっている。 継人「しっかりしないか上原、まだ酔いつぶれた訳ではないだろう。」 継人、自分に体重をかけている勇介に言う。 勇介「す、すまない…だが、きっと俺はあの女に狙われている…だから部屋に帰るまでは 離れないでくれ…。」 勇介、全身を震わせつつ言う。 継人「…。」 継人、ため息交じりに階段を上がっていき、やがて天秤座の間まで辿り着く。 継人「ホラ、着いたぞ。さっさと寝てしまえよ。朝食を作る仕事が朝になったら控えてい るんだからな。」 勇介「あ、ああ…ありがとよ。」 勇介、夢遊病者の様に部屋に入り込む。 継人「ふう…重症だな。」 継人、渡り廊下を歩いていく。 物音「コト…コト…。」 継人「ん?」 継人、背後に物音を聞いて歩いてきた渡り廊下を振り返る。 継人「…。」 継人、懐中電灯を使って渡り廊下を照らす。 継人「…気のせいか…私も早く睡眠を取らなくてはな。」 継人、懐中電灯を消して渡り廊下を歩いていく。 星座館・2階・蟹座の間(夜)、蟹道楽にある看板の様な巨大な蟹の像が、天井に 張り付いている。部屋全体が海をイメ−ジさせる絵で染まっており、ベッドで純、横のソ ファ−で蝶児、が眠っている。 蝶児「オイ、純、寝たか?」 蝶児、毛布に包まった状態で純に言う。 純「ん…ん?蝶児君、まだ起きてるの…。」 純、目を擦りながら寝ぼけた声で言う。 蝶児「純、お前、オネ−さんが今夜動くと思うか?」 純「動かないでしょ?…だって明日にはあの執事さんが警察を連れてくる。て言ってたし …。」 蝶児「行くぞ。」 純「…何処に?」 蝶児「水瓶座の間だ。」 純「はあ?」 純、ベッドから勢いよく起きあがる。 純「な、何言ってるの?もういいじゃん。明日にはきっと警察が…。」 蝶児「だからこそ確認する事があるんだ。今夜の間に葵深月が本当にあの部屋に居るかど うかをな。」 蝶児、ソファ−から起きあがって言う。 純「だって…執事さんだって、もう寝ているから部屋には入らなかった。て言っていたの に…。」 蝶児「判らないだろうが。魚座の間の葵卿紅の様に、中に入って確認した訳じゃないんだ からな。」 蝶児、上着を着つつ言う。 純「き、危険だよ。止めよう。」 蝶児「無理に来い。とは言わないが、もしここで確認していなかったら…なんか嫌な予感 がするんだ。」 純「…。」 蝶児、部屋の明かりをつける。 純「本当に…行くの?」 蝶児「まあ深入りはしない様にするがな。」 純「きっと鍵だって閉まってるのに…。」 蝶児「オネ−さんが動いていれば、なんとかなると思うがな。」 純「?」 蝶児「オネ−さんがこの件を放っておくとは思えない。だからこそ俺も動くべきじゃない かな?」 蝶児、蟹座の間のドアを開けて出ようとする。 純「ま、待ってよ。判ったよ行くよ。」 純、慌てて上着を羽織って蝶児の後を追いかける。 星座館・2階・双子座の間(夜)、美枝子、香、ベッドで眠っている。 美枝子「…香、寝た?」 香「ん…どうしたの…?」 香、壁に顔を向けたまま背中に居る美枝子に声を出す。 美枝子「蝶児と純君…もうおとなしく寝てるわよね?」 香「当たり前でしょう…アイツラがいくら馬鹿でも…明日警察が来るんだ。て判っていた ら…。」 美枝子「そうよね…。」 美枝子、両目を閉じて大きく深呼吸する。 ドア「コンコン…。」 美枝子「!?」 美枝子、香、ベッドから起きてドアの方を見る。 香「…誰?こんな時間に…。」 美枝子「…。」 ドア「コンコン…。」 香、ベッドのから降りてドアの方に向かう。 美枝子「香、開けないほうが…。」 香「誰?こんな時間に…。」 麻衣子「私よ。ちょっとお願いがあるのよ。」 双子座の間のドアの外から、微かに麻衣子の声がする。 香「麻衣子さん?」 香、双子座の間のドアを開ける。麻衣子、京子、双子座の間に入ってくる。 美枝子「ど、どうしたんですか?こんな時間に…。」 美枝子、ベッドから上半身を起こしたまま目を擦りつつ言う。 京子「す、すみません…美枝子さん、香さん…。」 京子、申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。 麻衣子「貴方達にお願いがあるのよ。私がこの館を探索している間、京子をここで寝かせ てあげてもらえないかしら?」 香「この館を探索する?な、何言ってんのよ!どうしてそんな危険な事をするの?」 麻衣子「どうしても今夜中に確認しなきゃいけない事があるのよ。あの葵深月が本当に水 瓶座の間に居たのかどうか…。」 麻衣子、双子座の間のドアを開いて出て行く。 香「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 麻衣子、香の声を無視して行ってしまう。香、ため息交じりに双子座の間のドア の鍵を閉める。 美枝子「京子ちゃん…。」 美枝子、ソファ−で俯いて座っている京子を見る。 京子「すみません…私がいくら『やめて。』と言っても聞いてもらえなくて…。」 京子、俯いたまま喋る。 香「まったくもう!内線電話がある。て言ってたわよね?蝶児達に連絡しなきゃ。」 香、電話の受話器を取る。 香「な、なによこの電話。牡羊座から魚座までのボタンしかないじゃないの…。」 香、蟹座のボタンを押す。 香「…。」 美枝子、京子、受話器を持ったまま立っている香を眺めている。 香「もう寝てるのかな…?出ないわね。」 香、受話器を戻し、ソファ−に腰掛けて京子の正面に座る。 京子「本当に…すみません。」 京子、香に深く頭を下げる。 香「もういいわよ…それよりも麻衣子さん大丈夫なんでしょうね?もし犯人と出くわした りしたら…。」 美枝子「香!」 美枝子、震えている京子の顔を見て、香を制する。 香「あ…ご、ごめん京子ちゃん…。」 香、頭をかいて首を左右に振る。 京子「…いいんです…私は姉さんを信じるしかありませんから…。」 京子、薄らと笑顔を作って香に言う。 美枝子「…でも、最初は驚いたわよ。京子ちゃん、半年前よりもずっと大人になってしま ったんだから…。」 美枝子、ベッドから降りて、ソファ−に座り、京子の横について言う。 京子「そ、そうですか?あ、ありがとうございます。」 京子、顔を赤らめて俯く。 香「麻衣子さんに接客のイロハを教え込まれた。て言っていたわね?きっとスパルタだっ たんじゃないの?」 香、ティ−カップを三つと、旅行カバンからスナック菓子を持ってきてソファ− とソファ−の間にあるテ−ブルに置く。 京子「ええ…最初の内はやはり厳しいものでした。私は言語障害に近い状態でしたので… ですが、受付嬢として働いている内に、なんていうかその…人と接する事の面白さに…目 覚めていき、いつしか貪欲に自分から姉さんに教わる様になりました。」 美枝子「立派だわ。」 美枝子、ティ−ポットにティ−パックとお湯を注ぎ、テ−ブルのティ−カップに 紅茶を注いでいく。 香「でも人間って変われば変わるものなのね。それも努力次第で…不思議なものだわ。」 香、紅茶と菓子を口に運びつつ言う。 美枝子「さ、久し振りの再会を祝う2次会を、ささやかにやりましょうか?京子ちゃん。」 京子「美枝子さん、香さん…ありがとう…。」 京子、嬉しそうな顔で美枝子と香の顔を眺める。 星座館・3階・水瓶座の間(夜)、蝶児、純、水瓶座の間の前で立ちつくしている。 純「…ど、どうするの?ここまで来ちゃったけど…。」 純、慌しく周りをキョロキョロしながら蝶児に囁く。 蝶児「…どうするかな?」 蝶児、水瓶座の間のドアの前で腕組して考え込む。 純「そ、そんな悠長な事言って…犯人がうろついていたら…。」 蝶児「…少し黙ってろ。勘が鈍る。」 蝶児、純の口を手で押える。 純「(ムグ−ッ!?)」 純、蝶児の手を振り解いて呼吸を荒げる。 麻衣子「何をしているの?」 麻衣子、蝶児と純のやりとりを傍に立って眺めている。 蝶児「オネ−さん、来ると思っていたぜ。」 純「はあ…はあ…。」 麻衣子「相変わらずの夜遊び好きみたいね?あまり感心できないわ。」 麻衣子、水瓶座の間のドアを眺める。 蝶児「アンタならどうする?」 麻衣子「…ノックして開けてくれるとは思えないわね。」 麻衣子、ドアに耳をつけて暫く動かない。蝶児、純、麻衣子の動作を眺めている。 麻衣子「何も聞こえないわ。中で何かをしているとは思えないわね。じゃあ…。」 麻衣子、ポケットから針金を取り出し、形を変えていく。 蝶児「このドアを開けよう。て訳か?」 麻衣子「そうよ。」 純「で、でも、そんな事をしたら…。」 純、蝶児と麻衣子の顔を交互に見て戸惑う。 麻衣子「中で何も聞こえない。という事は、眠っているか…或いは…。」 蝶児「この部屋に居ない。という事だな。」 麻衣子「その通りよ。確認したらすぐにこの部屋を出るわよ。絶対に声を出したら駄目だ から…貴方は帰った方がいいかもね。」 麻衣子、純の顔を見て言う。 蝶児「そうだな、お騒がせ男の上に、声もデカイ。危険だな。」 純「…わ、判ったよ。絶対に喋らない。」 麻衣子、軽く頷いてから、針金を鍵穴に差し込む。 蝶児「手馴れたものだな?」 麻衣子「昔の知識よ。」 鍵穴「…カチャッ…。」 軽い音と共に鍵穴から音がする。 麻衣子「…。」 麻衣子、蝶児と純の方を振り向いて、口に人差し指を当てる。蝶児、純、黙って 頷く。 ドア「…。」 音もなく、水瓶座の間のドアを麻衣子が開き、薄暗い部屋の中に3人が入ってい く。 麻衣子「…。」 ドア「…。」 音もなく、水瓶座の間のドアを麻衣子が閉める。蝶児、純、麻衣子、水瓶座の間 のドア付近から動かないで立っている。 麻衣子「!?」 麻衣子、蝶児の肩を叩く。蝶児、麻衣子の方を見て、麻衣子が指差す方向を見る。 蝶児「!?」 蝶児、部屋の片隅に配置されている屋根付きベッドを、暗闇の中、目をこらして 凝視する。 純「…。」 純、蝶児が凝視している視線の先を凝視する。 麻衣子「…居ない…様ね。」 麻衣子、静寂の中、言葉を発し、水瓶座の間の電灯を着ける。 スイッチ「カチャッ!」 水瓶座の間の明かりが灯る。 純「うわぁ〜。」 純、水瓶座の間の豪華な造りと豪華な骨董品・壁画、部屋の隅にある堀と水瓶の 像を見て声をあげる。 蝶児「やっぱり居なかったな。しかし何処に消えたんだ?」 蝶児、屋根付きベッドまで歩み寄って言う。 麻衣子「さあね、でもまだこの館に関しては把握しきっていないから、あまり色々なもの に触ったら駄目よ。私達は何よりこの館の門を開く鍵を見つけ出したら、この部屋をすぐ に出なければならないわ。」 麻衣子、クロ−ゼット、引き出しなどを次々と開けていく。 蝶児「葵深月が犯人の可能性が強まってきたな…。あの女、一体何を企んでいるんだ?」 蝶児、机の小物入れを開けて中を見つつ言う。 純「…。」 純、呆然として蝶児と麻衣子の行動を見守っている。 蝶児「何をしてるんだ純?お前も手伝えよ。」 麻衣子「いえ、いいのよ。貴方はそこで外の物音を警戒していて頂戴。誰か来る気配がし たら、すぐに私に知らせなさい。」 純「は、はい。」 純、水瓶座の間のドアに耳をつけて動かなくなる。 蝶児「無いな。鍵を何処に隠したんだ?」 麻衣子「一応、調べられる所は調べ上げたわね…。ベッドの下にも無いし…。堀の中かし ら?」 麻衣子、堀の中の水を凝視する。 蝶児「瓶の中かも?」 蝶児、瓶の中を背伸びして眺めている。 麻衣子「…無い。もしかしたら…葵深月は大事な物は身につけている習性があったらお手 上げね。」 蝶児「…無駄足か…。」 麻衣子「…これ以上この部屋に居るのは危険ね。引き返しましょう。」 麻衣子、水瓶座の間のドアに引き返し、周りを全てチェックする。 蝶児「まだ大丈夫じゃないか?」 麻衣子「その欲が身を滅ぼすわよ。失敗したと思った時はすぐに引き返すのよ。まあ、多 少の戦果はあったけどね。」 蝶児「なんだ?」 麻衣子、部屋の明かりを消し、水瓶座の間のドアを開き、渡り廊下に出る。 麻衣子「急ぎなさい。」 麻衣子、小声で囁き、蝶児と純に手振りする。蝶児と純が出た後、ドアを閉め、 針金に鍵穴を差し込む。 ドア「…カチャッ…。」 水瓶座の間のドアから音が聞こえる。 麻衣子「…。」 麻衣子、辺りを確認して針金をポケットにしまう。 麻衣子「さあ行くわよ。」 蝶児、純、麻衣子、足音をさせずに渡り廊下を歩いていく。 純「さっき言っていた戦果はあった。て、一体なんの事ですか?」 純、階段を降りつつ麻衣子に問う。 麻衣子「決まっているでしょう?あの水瓶座の間には、葵深月は居なかった。つまり、内 藤さんの見解に間違いがあったのよ。葵深月は、私達にもこの館の使用人達にも隠れて、 不穏な行動をとった。と考える事が出来るわね。」 麻衣子、2階の渡り廊下を歩きつつ言う。 蝶児「それにだ、葵深月は女医から睡眠薬を持ってくる様に頼んでいた。いかにもすぐに 就寝するかの様に更にみせかける為に。」 蝶児、腕組しながら歩いている。 麻衣子「だけど、この事実は朝になるまで口外無用よ。葵深月がこの事実を隠そうとする 動きを見せれば、尚、彼女に対する疑惑は確信に近づくわ。」 蝶児「狡猾なやり方だな。」 麻衣子「嫌な言い方ね。」 物音「…コト…。」 麻衣子「ん?」 麻衣子、背後から物音を聞いて後ろの渡り廊下を振り返る。 蝶児「どうしたんだ?」 麻衣子「…貴方達、今、何か音を立てた?」 蝶児、純、首を横に振る。 麻衣子「…。」 麻衣子、薄暗い渡り廊下の先を凝視する。 蝶児「一体どうした?何か聞こえたのか?」 麻衣子「…気のせいかしら?」 麻衣子、前を振り返り歩き始める。蝶児、純、麻衣子の後を歩いていく。 麻衣子「さて、もう今晩の散歩は終わりよ。貴方達ももう寝なさい。あまり目を腫らして 朝を迎えると疑われるでしょうからね。」 蝶児「ああ、そうする。俺もそろそろ限界だな。」 純「僕ももう眠いよ…。」 麻衣子「じゃあ私も戻るから、また朝に会いましょう。」 蝶児、純、蟹座の間に向かう。麻衣子、蝶児と純と別れて、渡り廊下を進んでい く。 星座館・2階・乙女座の間(夜)、遼子、布団に包まって眠っている。加美、ベッ ドで上半身を起こし、遼子の顔を眺めている。 加美「ありがとう緑川さん、貴方のその優しさは忘れないわ。」 加美、ベッドから降りて乙女座の間を音もなく出て行く。 星座館・2階・双子座の間(朝)、美枝子、香、京子、広いベッドで3人で眠って いる。 ドア「コンコン。」 双子座の間のドアがノックされる。 美枝子「ん…んん…は、はい。」 美枝子、両目を擦りつつ双子座の間のドアに向かう。 美枝子「…誰ですか?」 麻衣子「私よ。」 ドア「カチャリ…。」 美枝子、ドアを開く。麻衣子、渡り廊下から双子座の間に入ってくる。 麻衣子「ゆっくり眠れた?…と思ったけど夜更かししていた様ね?」 麻衣子、テ−ブルに置かれたティ−カップとスナック菓子の袋、美枝子の両目を 見て言う。 美枝子「ちょ、ちょっとだけ…お話していて…。」 麻衣子「顔を洗って、朝食を頂きましょう。もうここの使用人達は朝食の準備にかかって いるわよ。執事の内藤さんがさっき私に言ってきたのよ。朝食は洋風庭園閲覧室で頂いて もらいます。てね。」 美枝子「洋風…庭園…閲覧室?」 麻衣子「外にある庭園がいい眺めのテラス付きのお部屋なんですって。食堂ではまだ死体 があるから落ち着いて食事が出来ないでしょう?」 美枝子「…そ、そういえば…。」 麻衣子「最後の食事になるでしょうけどね。食べれればの話だけど…。京子、起きなさい。」 麻衣子、ベッドに歩み寄って声をかける。 4:遅れて来た客 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(朝)、部屋のドア側の壁を除いて、全ての壁が強 硬なガラス張りになっている。その一角にテラスに続く開き戸がある。テ−ブルの数は7 台。各テ−ブルには椅子がついている。中に5台。テラスに2台。絨毯は真っ赤な色に染 まっている。蝶児、純、テラスのテ−ブルに着いて庭園を眺めている。 蝶児「それにしてもだだっ広い庭だな。」 蝶児、周りの緑に囲まれて、車道が線を沿っている様な庭園を眺めつつ言う。 純「あれが…門だね。」 純、門の方向を指差しつつ言う。 蝶児「ああ、確かによじ登って脱出するにはちょっとな…。しかもあの壁がある。」 蝶児、壁を眺めつつ言う。 純「でも、執事さんが警察を呼んでくるんでしょ?今日であの門も開く筈だよね。」 蝶児「さあな…信用出来るのだろうかな?」 美枝子、香、洋風庭園閲覧室に入ってきて、蝶児達の居るテラスに行く。 美枝子「おはよう。昨日はよく眠れた?」 蝶児「お前、目の下にクマが出てないか?」 蝶児、美枝子の目を眺めつつ言う。 香「ちょっと盛り上がっちゃってね。京子ちゃんが居たもんだからさ。」 香、目を擦りながら席に着く。 純「あれ?麻衣子さんと京子ちゃんは?」 美枝子「麻衣子さんが料理の進行を見に行ったわ。その過程を見ないと安心して口に出来 ないからですって…。京子ちゃんはその付き添い。」 蝶児「なるほど。オネ−さんらしいな。」 美枝子、席に着く。 香「本当に今日で帰れるのかしら?でもきっと私達もこの館で滞在したんだから、警察か ら聴取とかされるんでしょうね。」 香、フウッとため息をつく。 蝶児「そんなもん大した事じゃないだろう。どうせ俺達は関係ないんだからな。」 純「そうだね。とにかく今はこの館を無事に出る事を考える必要があるよね。」 遼子、渡り廊下から料理を乗せたトレ−を運んでくる。京子、遼子の傍を歩きつ つ洋風庭園閲覧室に入ってくる。 蝶児「飯だ。」 遼子「おはようございますお客様、朝食です。」 遼子、トレ−から料理の盛った皿をテ−ブルに置いていく。 美枝子「京子ちゃん?」 美枝子、遼子の様子から目を離さない京子に問う。 京子「姉さんが…目を離すな。と言うので…。」 遼子「いいんですよお客様、私も1人では心細いので…。」 遼子、京子に笑って答える。 遼子「あ、そうそう…。」 遼子、空のトレ−を持ったまま蝶児達の方を向いて言う。 遼子「詩堂さんを見ませんでしたか?」 蝶児「ん?」 美枝子「詩堂さん。てあの女医さんの事ですか?」 遼子「ええ、今朝から姿が見当たらないんです。」 蝶児「なんだって?」 遼子「詩堂さんを見かけたら、緑川が探していた。とお伝えしてもらえますか?少し心配 なので…。」 香「判ったわ。」 京子、遼子、洋風庭園閲覧室を出る。 蝶児「あの女医が居なくなった…。まだ何かあるってのか?」 香「居なくなった。て何処に行くのよ?この館の庭から逃げられないでしょ?」 純「じゃあこの館の何処かに?」 美枝子「あの女医さんが犯人…だとしたら、逃亡したの…かしら?」 蝶児達、黙って俯いている。 継人「おはよう御座いますお客様。ゆっくりと眠れましたか?」 継人、洋風庭園閲覧室に入ってきてテラスに入るや否や、蝶児達に声をかける。 蝶児「ああ、ゆっくり眠れたよ。」 継人「今日は私が警察に出向き、警官を連れてきますので、それまでこの館で待機してい て下さい。」 継人、残りの1つのテ−ブルに腰掛ける。 美枝子「執事さん、さっき緑川さんが女医さんが居ない。て言っていましたけど…。」 継人「詩堂が?そういえば私も今朝はまだ見ていないですね。」 深月「おはよう御座います。お客様、内藤さん。」 深月、テラスの入り口でお辞儀をして声をかける。 継人「お嬢様、おはよう御座います。」 継人、椅子から立ち上がってお辞儀をする。 蝶児「葵…深月。」 蝶児達、呆然と深月の姿を眺めている。 深月「どうなさいました?私に何か?」 深月、継人の正面の席に腰掛けつつ言う。 蝶児「アンタ、昨日は睡眠薬を飲んですぐに自室で寝ていたのか?」 深月「ええ、そうです。」 純「…。」 蝶児、純、深月の顔を凝視したまま動かない。 深月「先ほど、上原さんにご挨拶をしましたが、今村さんが亡くなったと聞きました。ご 冥福をお祈りいたしましょう。」 深月、両手を組み合わせて目を閉じる。 香「それほど驚いていないみたいね?まるでもっと前から知っていたみたいに…。」 継人「お客様!」 深月「内藤さん、いいのです。」 深月、継人を制する。 純「本当に昨日はすぐに寝られたんですか?」 深月「どういう意味なのでしょう?もしや、私が今村さんを殺したとお思いなのですか?」 深月、紅茶を啜りながら、純の顔を冷ややかな視線で眺めている。 蝶児「ああ、アンタも容疑者の1人ではあるな。アンタのアリバイを誰も証明出来ないだ ろう?水瓶座の間にずっとお篭りだったんならばな?」 深月「そうですね。私は1人でしたのでそういう疑いがかけられても仕方ありませんね。」 香「アンタが殺したんじゃないの?今回の葉書騒動といい、運転手の死のタイミングとい い、落ち着き払っているアンタ。どう考えても疑われて当然でしょ。」 香、深月に挑戦的な視線を送る。 継人「いい加減にして下さい。警察が来れば判る事なのです。」 蝶児「アンタの目的はなんなんだ?いい加減に言ったらどうなんだ?」 深月「目的?そんなものはありません。私はただ、貴方がたを招き、会話を交わしたかっ ただけですが…?」 深月、冷ややかな視線を蝶児達に送りつつ言う。 美枝子「貴方は、警察がこの館に介入する事を承諾してもらえますよね?」 深月「勿論ですわ。仕方の無い事ですから。死人が出てしまいましたものね。」 蝶児「じゃあ門の鍵を執事に渡してもらおうか?この場でな。」 深月「結構ですよ。」 深月、首にかけたネックレスを外し、飾りの部分である鍵を外し、継人に渡す。 継人「…。」 継人、黙ってその鍵を受け取る。 蝶児「ネックレスにしていたとは…な。」 蝶児、純、深月の手にあるネックレスを凝視している。 深月「まるで…私が何処に鍵を隠していたのか気になっていた様ですわね?」 純「そ、そんな事はないですよ。」 深月「水瓶座の間に置いてある。とお思いだったのでしょうか?」 深月、不敵な笑みを浮かべて蝶児の顔を眺めている。 蝶児「…。」 蝶児、ギョッとして深月の冷ややかな視線を避ける。 麻衣子「さて、食事を頂きましょうか。」 麻衣子、京子、遼子、洋風庭園閲覧室に入ってきてテラスに行く。 遼子「あ、お嬢様、おはよう御座います。」 遼子、トレ−から食事の盛った皿を深月のテ−ブルに並べつつお辞儀をする。 麻衣子「葵さん、おはよう御座います。大変な事になりましたわね?殺人が起きるなんて …お悔やみ申し上げますわ。」 麻衣子、京子、蝶児達のテ−ブルに着きつつ言う。 深月「どうも、きっと警察の方達が、事件を解決してくれますでしょうね。」 継人「朝食はこれで全てだろう?上原と詩堂を呼んできてやってくれないか?緑川。」 遼子「ええ、ですが…詩堂さんが見当たらないんですよ。」 継人「ああ、だがお客様を待たせるのも失礼だろう。上原だけでも呼んできてくれ。詩堂 は後で捜せばいい。それに彼女の事だ。昨晩の事を気にしているかもしれんからな。」 遼子「はい。」 遼子、渡り廊下を歩いていく。 深月「詩堂さんが居ない?どうかしましたか?」 継人「ええ、今朝から姿が見えないそうです。」 麻衣子「!?」 麻衣子、黙って蝶児の方を見る。蝶児、コクリと頷く。 継人「きっと気分が優れなくて、自室に居るのでしょう。そっとしてあげるのが一番では ないでしょうか。」 勇介、遼子、洋風庭園閲覧室に入ってきて、深月のテ−ブルに着く。 勇介「お嬢様、おはよう御座います。」 勇介、深月に一礼してから席に着く。 深月「では頂きましょうか。それにしても気分がいいですね。普段からこれほどの大人数 で食事をとる事などないので…。」 深月、パンを千切りながら蝶児達のテ−ブルを眺める。蝶児達、食事に手を出さ ない。 麻衣子「大丈夫よ。貴方達が心配する様な事はないから…。」 麻衣子、ス−プを啜りながら言う。蝶児、美枝子、純、香、京子、黙々と食べ続 ける麻衣子の様を見て、料理に手をつける。 勇介「…。」 勇介、目の下にクマを作ったまま料理を食べている。 継人「上原、お前は寝たのか?目の下のクマが凄いぞ。」 勇介「寝られなかったよ…ずっと部屋で起きていた。」 継人「ならば朝食後に少し休むといい。疲労が溜まっている様だ。」 勇介「ああ…だが、見張りをつけてもらいたいな…。詩堂さんが俺を狙ってくるかも…。」 遼子「!?」 遼子、勇介の一言にキッと勇介を睨む。 深月「詩堂さんを疑っているのですか?上原さんは。」 勇介「い、いえ…そんな事は…。」 深月「どのような理由があろうと、仲間を疑い忌み嫌う事は、悲しい事ですわね。」 勇介「…。」 勇介、うなだれたまま料理を食べ続ける。 継人「そういえばご主人様は?今日は詩堂が診察したのでしょうか?」 深月「さあ?今日はまだお父様のお部屋を訪ねてはいませんので…。まだお休みなのでし ょう。それより内藤さん、もう1人のお客様はもうじきあの鬼渡り山を登ってきている頃 でしょう。警察に行った足で見付けて頂けますか?」 継人「え、ええ。」 香「もう1人のお客様?まだ誰かを呼んでいるの?」 香、隣のテ−ブルから深月に言う。 深月「そうです。本来ならば昨日の内に皆様と共に来てもらう予定でしたが、なにぶん多 忙な様なので、今朝方になって来てくれるそうです。」 麻衣子「その方も『霧山荘事件』の関係者なの?」 深月「直接的には関係ありませんが、間接的に関係がある方です。」 深月、黙々と料理を食べ続けている。深月以外の人間が、深月の顔を眺めて動き を止めている。 星座館・洋風庭園(朝)、卿紅、庭園の中、星座館の正面側を眺めつつ立ち尽くし ている。 卿紅「…。」 卿紅、星座館の屋根から1本のロ−プで逆さ吊りにされている加美を見ている。 卿紅「何故にこの様な事に…酷いものだ。」 卿紅、顔に手をやって俯く。 蝶児「なんだ?アンタ誰だ?」 蝶児、蟹座の間の窓から外に居る卿紅を見て言う。 卿紅「…。」 卿紅、何も言わずに加美を眺めている。 蝶児「上に何かあるのか?」 蝶児、卿紅の視線の先を見る。 蝶児「う、うおおおお!?」 蝶児、窓から後ずさりして絶叫する。 純「ど、どうしたの蝶児君?」 純、蝶児の慌て振りに驚く。 蝶児「お、おい、皆を外に呼べ!急げ!」 蝶児、蟹座の間を慌てて飛び出す。 星座館・洋風庭園(朝)、蝶児、美枝子、純、香、麻衣子、京子、卿紅、深月、遼 子、庭園の中で立ち、継人と勇介が、屋根裏からロ−プを引き上げて、加美の遺体を引き 上げている様を眺めている。 遼子「詩…堂…さん…うっううう…。」 遼子、顔を泣き崩して加美の名を呼び続ける。 美枝子「酷い…。」 美枝子、俯いて唇を噛み締めている。 麻衣子「二人目の犠牲者が出てしまいましたね。それも、昨晩に第1容疑者と疑われてい た詩堂さんが殺された。」 麻衣子、無表情で加美を眺めている深月に言う。 深月「本当に殺されたのでしょうか?」 麻衣子「間違いないでしょう。自殺ではあの様な死に方はしません。」 深月「…。」 麻衣子「それに貴方は…葵卿紅、星座館の当主ですね?」 麻衣子、深月の傍らに立つ卿紅に言う。 卿紅「…そうです。お初にお目にかかります。」 卿紅、蝶児達に向かい合って言う。 蝶児「俺が蟹座の間から外を見たら、この爺さんが立って上を眺めていたんだよ。俺も上 を眺めてみたら、あの女医さんが吊るされていた。てわけだ。」 麻衣子「詩堂さんの死体の第1発見者は貴方。という事になりますね。」 麻衣子、卿紅の顔を見て言う。卿紅、黙っている。 麻衣子「いつごろから気付いていました?詩堂さんがあそこで吊るされていたのを…。」 卿紅「その青年が私を見付けるまでの10分ほど前だったと思いますが…な。」 麻衣子「どうしてすぐに皆に知らせなかったのですか?」 卿紅、暫く黙って口を開く。 卿紅「…詩堂君は長い間私の病状を診てくれていた。私が詩堂君のあの姿を見たときは、 色々な感情が溢れましてな…。何も言わず…いや何も言えずに…その姿を暫く眺めてしま っていたのだ。」 麻衣子「貴方は大病を患っている。と聞きましたが、大丈夫なのですか?」 卿紅「普段は寝たきりですが、体の調子がいい時は、こうして庭園を散歩するのです。」 深月「平島さん、父は貴方も知っての通り、病を患っています。質問は私が受けますので、 もうよろしいですか?」 深月、卿紅と麻衣子の間に割って入って言う。 麻衣子「…。」 麻衣子、何も言わずに深月の顔を眺めている。深月、冷たい視線で麻衣子の顔を 眺めている。 蝶児「アンタは、今回の俺達の来訪は知っていたのか?」 蝶児、麻衣子と深月の横から、卿紅に問う。 卿紅「ええ、深月から聞き、宿泊の許可をしたが…。だが見た通り私は老体の上、病に冒 されている。もう客の接客は辛いのでね。深月にもう星座館当主代理としてやってもらっ ているのだよ。」 蝶児「そうか、だがもう死人が2人も出てしまっている。しかも客が来た途端の出来事だ。 何か不審に思わないか?」 卿紅「…私はもう5年も共にした使用人達を疑う様な真似はしないがね…。」 蝶児「その使用人を5人同時に雇ったな?それに5年前の事件に関しても…。」 卿紅「!?」 深月「お止めなさい!」 深月、怒りの篭った声で、蝶児の顔を見る。 蝶児「ん?」 蝶児、深月の怒声に驚いて深月の方を向く。 深月「お父様は病気なのです。それに、お父様に5年前の話をするなど、無礼にも程があ ります!」 蝶児「…そうだな…失礼した。」 蝶児、卿紅に頭を下げる。 深月「…お父様、この場を離れましょう。もう部屋に戻って休むべきです。あまり外界の 者と一緒に居ると、毒されます。」 深月、卿紅の背に手をやって星座館の玄関に向かう。 深月「貴方がたを私と同じ人種だと思ったのは…私の推測違いだったようですわね。」 深月、麻衣子と蝶児の方を振り返って言う。そしてそのまま卿紅と共に星座館に 入っていく。 蝶児「怒らせてしまったか…。」 蝶児、腰に手をやって首を振っている。 香「何よあの女。突然怒り出して…おしとやかなお嬢様ぶってたけど、結局はヒステリッ クな面を隠したファザコン娘じゃないの。」 美枝子「か、香、そんな言い方は止めなさいよ。」 純「でも、女医さんが殺された。て事は…。」 麻衣子「ますますあの葵深月に対する疑念が強まったわね。」 麻衣子、星座館の屋根裏部屋を眺めつつ言う。 京子「詩堂加美さん…可哀想な人でした。」 京子、目を閉じながら呟く。 蝶児「葵深月は俺達に嘘をついた。水瓶座の間で昨晩はもう眠っていた。と言ったが、そ れは嘘である事はもう明白だ。」 香「え?」 麻衣子「私とあの子とそこの坊やは、昨晩、水瓶座の間に忍び込んだのよ。」 美枝子「な、何ですって?」 美枝子、香、驚いて蝶児と純の顔を見る。 香「あ、アンタ達…。」 蝶児「だが、葵深月は居なかった。何処かに行っていたんだ。」 純「多分、睡眠薬も飲んでいなかったんだよ。」 麻衣子「そして今朝、詩堂加美さんが殺された。この事件、簡単な説明は出来ない複雑な 感情が入り乱れている様ね。」 麻衣子、庭園の閉ざされた門を眺めつつ言う。 星座館・1階・応接室(朝)、蝶児、美枝子、純、香、ソファ−に腰掛けて座って いる。麻衣子、京子、遼子、テ−ブルの周りの椅子に座っている。継人、勇介、応接室の 中央で立っている。 継人「では、私はこれから下山して警察を連れて参ります。それからお客様、上原、緑川 も聞いてくれ。これ以上の犠牲者が出ない様、なるべく皆で固まって…そうだな、なるべ く応接室に居てくれれば助かります。」 継人、応接室を出ようとする。 継人「では行って来ます。上原、緑川、後は頼んだぞ。」 勇介「ああ…。」 遼子「うう…えっぐ…は、はい。」 勇介、眠そうな顔で返事をする。遼子、泣き崩れつつ返事をする。継人、応接室 を出る。 蝶児「純、ちょっと任せたぞ。」 純「え?何?」 純、蝶児の顔を振り向く前に、蝶児、渡り廊下に消える。 美枝子「ちょ、蝶児!何を考えてんのよ!」 蝶児「俺もついていく。」 香「ば、馬鹿!」 美枝子、純、香、ソファ−から立ち上がって制しようとするが、蝶児の姿はもう そこにはない。 麻衣子「相変わらずの無鉄砲な子ね。まあ度胸は買うけど…。」 麻衣子、紅茶を啜りつつため息をつく。 美枝子「本当に馬鹿なんだから…。」 美枝子、がっくりと項垂れてソファ−に腰掛ける。 京子「お悔やみ申し上げます…本当に残念な事だと思います。」 京子、隣席で泣き続けている遼子に言う。 遼子「うう…詩堂さんは…どうして…うう…。」 京子「…。」 京子、黙って遼子の肩を抱く。 勇介「なんで…どうして詩堂さんが殺されたんだ…あの女が犯人じゃなかったのか…。」 勇介、安楽椅子に腰掛けつつ呟く。 遼子「絶対に詩堂さんじゃない。て言ったじゃないですか!」 遼子、椅子から立ち上がって勇介に怒鳴る。 勇介「…。」 勇介、頭を抱えたまま黙っている。 遼子「詩堂さんが夜、どれだけ辛い思いでいたか判ってるんですか!過去の事を振り返ら せられて、犯人扱いされて…どれだけ辛い思いを…うう…うううう…。」 遼子、目に涙を溢れさせつつ、絨毯に両膝を着いて泣き崩れる。 麻衣子「…。」 麻衣子、バツの悪そうな顔をして、遼子の姿を見ない様に、顔を背ける。 京子「…緑川さん、きっと犯人は捕まります。罪を償わせて、詩堂さんの冥福を祈りまし ょう。」 京子、遼子に両手を添えて、口調を和らげて言う。 美枝子「…。」 美枝子、純、遼子の姿を見て、俯いて涙を流す。 香「犯人…か…。一体、犯人の目的は…なんなの?」 香、そう呟いて、天井を見上げ、涙が零れるのを防ぐ。 星座館・1階・車庫(朝)、車の運転席に継人、助手席に蝶児が乗り込んでいる。 継人「お客様、いいのですか?友人達に抜けがけされても…。」 蝶児「構わないさ。それにアンタも1人だと大変だろ?なにかとな。」 継人、何も言わずに車を走らせる。 蝶児「しかし、運転手に続いて女医までも殺されるとはな…。」 継人「残念です。まさかこんな事になるなんて…。」 継人、庭園内を運転しながら言う。 蝶児「女医の死因は?」 継人「医者が居なくなったので、詳しい事は判りませんでしたが、何やら首に注射針の跡 がありました。」 蝶児「注射針の跡?」 継人「ええ…それも新しい感じの跡でしたが…。」 継人、車を門の前で止めて運転席を出る。 蝶児「さて、どこに鍵を差し込むのかな?」 蝶児、門の中央で鍵を差し込んでいる継人の様子を伺っている。 蝶児「おお!」 継人、門の端に行き、鉄製のレバ−を思いっきり引く。 門「ガガガガガ…。」 轟音と共に門が左右に内側に開く。 継人「さあ、行きましょうか?」 継人、運転席に乗り込んで車を動かす。 蝶児「仮にもだが、やっとこの館をおさらば出来るな。たった1日足らずだが、凄く長い 感じがしたんだよな…。」 継人「それは私も感じている事です。」 継人、車を軽快に運転しながら言う。 蝶児「なんだって?」 継人「貴方と同じ感情を持っているのですよ。私も、何故かこの館を用事で…たまに何で すが、外に出ると開放的な気分になるのです。」 蝶児「へえ−アンタみたいな、お嬢様に忠実な執事さんがねぇ…。」 蝶児、意外といわんばかりの視線で継人の顔を見る。 継人「ですが、今回は殺人事件の件で警察に行くのですから、それらの感情はありません がね。」 蝶児「ところで…アンタは誰が犯人だと思っているんだ?」 継人「…。」 継人、口を閉ざしたまま黙って運転している。 蝶児「言い辛いだろうな…。仲間の名前を出さなきゃいけないなんてな…。」 継人「違います。私はお客様の名前を出す事に抵抗を感じているのです。」 蝶児「なんだと?俺達を疑っているのか?」 蝶児、継人の顔を睨んでいる。 継人「申し訳ありませんが、運転中ですので、なるべく挑発的な事を言うのは止めてもら えますか?」 蝶児「…。」 蝶児、何も言わずに黙って運転をする継人に、視線を動かさない。 継人「ん?あれは?」 蝶児「ん?」 継人、鬼渡り山の山道で、両手を振っている男を見て、車を止める。 零「助かった!」 零、大きなカバンを背負いつつ車の運転席に駆け寄る。 継人「貴方は?」 継人、運転席の窓を開いて零に問う。 零「僕は東山零と言います。星座館に向かっているのですが、ご覧の通り迷ってしまって …。」 継人「貴方は星座館のお客様ですか?」 零「ええ、なにか葉書を頂きました。」 継人「乗って下さい。」 継人、後部座席のドアを開ける。零、大きなカバンを背負いつつ後部座席に乗り 込む。 零「フ−ッ…疲れた…。」 蝶児「アンタは…どういう葉書を受け取ったんだ?」 零「僕はこういう葉書をもらったんだよ。」 蝶児、零から葉書を受け取る。 蝶児「なになに…『栗原真由美様、貴方が服役中なのを知って残念です。貴方とも語り合 いたかった。麻衣子様と京子様を、語り合いの場にお借り致します。』だって?」 継人「ほう…お嬢様がその様な葉書を出されましたか。」 継人、運転しながら言う。 零「ええ、ですから僕が来ました。」 蝶児「アンタ?全く関係ないんじゃないのか?」 零「僕は栗原真由美さんに依頼された探偵なんです。」 蝶児「探偵?」 零「ええ、ですが、なるべくこの事は伏せておいて下さいね。ところで、どうして山を下 山しているんです?星座館は山の中腹辺りなのですか?」 零、後ろを眺めながら言う。 蝶児「ああ、警察に向かっているからな。」 零「け、警察?」 継人「申し上げにくいのですが…当星座館で、死人が出てしまったのです。」 零「な、なんですって?」 零、後部座席にドッカリと腰を下ろして声をあげる。 継人「我が館の使用人が2人…ですからこれから警察に行って…ん?」 継人、車を止める。 蝶児「どうした?」 継人「あ、あれは…。」 山道が岩の群で塞がれている。 零「そ、そんな…さっきまでは何も無かったのに…。」 継人「崖崩れだ…。なんて事だ。」 継人、ドンとハンドルを叩く。 蝶児「なんてこった。アンタが仕組んだんじゃないだろうな?」 蝶児、後部座席の零を睨む。 零「な、なんで僕が…。」 零、必死に右手を振る。 蝶児「どうする?」 蝶児、継人の顔を見る。 継人「…この岩を除去するには、相当な日数が必要だな…。連絡をとり、復旧作業をして もらうしかないですね…。」 継人、項垂れたまま運転を開始する。車はUタ−ンして、星座館に向かう。 星座館・3階・魚座の間(朝)、卿紅、ベッドで横になっている。深月、その傍ら で椅子に座って腰掛けている。 深月「すみませんでしたお父様、つい先程は感情的になってしまって…。」 深月、俯いて小声で喋る。 卿紅「いいんだ深月、お前の久し振りの人間的な感情が見れてよかったよ…。」 卿紅、弱々しい声で言う。 深月「今回、私がこの様な事をしなければ、きっと今村さんも詩堂さんも…死なずに済ん だのでしょう。あの方達には気の毒な事をしました。」 卿紅「ああ、だが、もう止める訳にはいかない。死んだ今村や詩堂君の為にもな。」 深月「はい。」 卿紅「私は眠らせてもらう。深月、後は任せたぞ…。」 深月「はい…。」 深月、一礼して魚座の間を出る。 卿紅「…。」 卿紅、ベッドから起き上がり、テ−ブルの上の錠剤を掴み、ベッドの下に隠す。 卿紅「詩堂君、君が死ぬとは思わなかった。申し訳ないな…だが、もうこうなってしまっ た以上、もっと死人が増えるだろう。深月とて…例外ではないのかもな…。」 卿紅、窓の外を眺めつつ深くため息をつく。 星座館・1階・応接室(朝)、継人と蝶児が居なくなった時と同じ場所で腰掛けて いる。 美枝子「さっき車が戻ってきたわね。もう警察が来たのかしら?」 美枝子、紅茶を啜りつつ香の顔を見て言う。 香「でも早過ぎない?」 純「まだ1時間も経ってないけど…。」 純、呆然として置時計を眺めている。 麻衣子「…。」 麻衣子、両目がうつろなまま、俯いている。 京子「どうしたの姉さん?さっきから変よ?」 京子、呆然としている麻衣子に声をかける。 麻衣子「…なんでもないわ。」 麻衣子、呆然と答える。 蝶児「参ったぜ。」 蝶児、そう言いつつ応接室に入ってくる。 美枝子「蝶児、警察は?」 蝶児「鬼渡り山が途中で崖崩れが起こっててな。警察は来れないだろう。俺達も引き返し てきたんだ。」 蝶児、ソファ−にドッカリと座りつつため息交じりに言う。 勇介「なんてこった…畜生。」 勇介、顔をしかめて悔しがる。 京子「蝶児さん、執事さんは?」 蝶児「ああ、執事は新しい客に部屋をはからってる。」 美枝子「新しい客?」 美枝子、怪訝な表情で蝶児に問う。 蝶児「東山零っつう探偵らしいぜ。なんでも栗原真由美。つまり由希子の代理人だってよ。」 麻衣子「なんですって?」 麻衣子、顔を上げつつ素っ頓狂な声で言う。 蝶児「運良くその客だけ拾って帰ってきたんだよ。」 京子「母さんが…代理人を?」 蝶児「ちょっと怪しい野郎だが、一応探偵らしいからな…おっと、そういえばなるべく伏 せておいてくれ。と言われたか…忘れていた。」 蝶児、口を押える。 麻衣子「私は聞いてはいないわよ?母さんが探偵を雇っていたなんて話…。」 蝶児「そうなのか?」 零「なんて事になっているんだ。殺人が起きたなんて…。」 零、独り言を呟き、腕を組みながら応接室に入ってくる。 零「おや?やけに大勢の人が居ますね?」 零、応接室をぐるりと見まわして言う。 麻衣子「貴方が東山零ね?何者なの?」 麻衣子、席から立ち上がり、零の前に立つ。 零「貴方は!平島麻衣子さんですね?それに貴方は栗原京子さん。」 零、麻衣子と京子の顔を眺めている。 麻衣子「貴方は…。」 零「僕はこういう者です。」 零、名刺を麻衣子に差し出す。 麻衣子「東山零、私立探偵事務所経営者。」 零「僕は、貴方達の母親である栗原真由美さんから依頼された者です。栗原さんが服役し ている間、貴方と京子さんのガ−ドを頼まれたのです。」 麻衣子「いつから?」 零「もう半年になりますね。そう、栗原さんが服役された直後からです。」 麻衣子「聞いていないわよ。そんな話は。」 零「そうでしょうね。私は常に陰ながら見守っていたのですがね。」 零、ニコニコしながら麻衣子の顔を眺めている。 京子「そうだったんですか…。どうも…。」 京子、椅子から立ち上がり、零にお辞儀する。 零「こちらこそ。」 麻衣子「京子、変な馴れ合いはしないで。この人をすぐに信用する訳にはいかないわ。」 麻衣子、警戒な目つきで零を眺めている。 零「そうでしょうね。すぐに信用してもらおうとは思いません。後々、僕の事を知っても らうつもりです。」 麻衣子「どうかしらね。」 麻衣子、椅子に戻り腰掛ける。 勇介「そろそろ昼食の準備にかからないとな。」 勇介、安楽椅子から立ち上がり、フラフラと渡り廊下に歩いていく。 遼子「…。」 遼子、怒った顔で勇介を睨みつつ、勇介の後を追う。 麻衣子「じゃあ早速仕事に入ってくれる?貴方は母から私達のガ−ドを依頼されたのよ ね?じゃああの人達を見張っててくれるかしら?食事に何も異常なく作っているかどうか をね。」 零「ええ、構いませんよ。」 零、勇介と遼子の後をつけ、応接室を出て行く。 京子「ね、姉さん、あんな言い方…。」 麻衣子「…。」 麻衣子、頭に手をやって項垂れている。 蝶児「オネ−さん、何か様子がおかしいぜ?黙り込んだり急に怒ったり…。」 蝶児、項垂れている麻衣子に視線を送っている。 麻衣子「…。」 麻衣子、椅子から落ちて、両膝を着き、頭から絨毯に倒れる。 蝶児「オイ!どうした!?」 京子「姉さん!?」 蝶児、美枝子、京子、麻衣子の傍に駆け寄る。 香「え?ど、どうしたのよ?」 純「麻衣子さんが…。」 純、香、ソファ−から立ち上がり、呆然と麻衣子の姿を眺めている。 美枝子「ひ、酷い熱だわ!」 京子「ね、姉さん!」 蝶児「だ、駄目だ!すぐにベッドに寝かせるんだ!オイ、執事を呼んでこい!」 純、香、応接室を飛び出す。 星座館・2階・獅子座の間(朝)、麻衣子、ベッドで眠っている。額には濡れたタ オルが置かれている。京子、その横でだまって心配そうな表情で麻衣子の顔を眺めている。 蝶児、美枝子、純、香、継人、京子の周りで立っている。 継人「すみませんお客様、女医が居ない今、出来る事は解熱剤を与えるくらいなのですが …、この人が拒否してしまったので…。」 継人、手に握り締めている薬を見つつ言う。 蝶児「ああ、オネ−さんの性格上、その薬は飲まないだろう。疑い深いだろうからな。」 京子「本当に申し訳ありません…せっかくの薬を…。」 継人「よいのです。気にしないで下さい。では私はこれで…。」 継人、獅子座の間を出る。 香「この人が倒れるなんて…雪でも降るんじゃないの?」 美枝子「香、そんな言い方はないでしょ!」 美枝子、香の顔を睨む。香、少し申し訳なさそうな顔をする。 純「でも、相当な熱だよ。絶対安静にしなきゃ危ない。」 京子「きっと姉さんは、心労が祟っているのです。少し休ませてあげてください。」 麻衣子「う…うう…。」 麻衣子、苦しそうな表情で薄らと目を開く。 京子「姉さん…気がついた?」 京子、麻衣子の顔を眺めつつ言う。 麻衣子「京子…私は…?」 麻衣子、ベッドから起き上がろうとする。 京子「駄目よ姉さん!今はゆっくりと寝ていて!」 京子、麻衣子の上半身を押えてベッドに寝かせる。 麻衣子「…参ったわ…ね。こんな時に発熱だなんて…。」 麻衣子、額に手の甲を乗せて目を隠す。 蝶児「…。」 蝶児、美枝子、純、香、ベッドの周りで麻衣子の姿を眺めている。 麻衣子「蝶児君…気をつけなさい。犯人は間違いなくこの館にいるわ。私は暫く動けなさ そうだけど…きっと犯人はまた誰かを狙うと思うの…気をつけて…。」 麻衣子、うめき声で囁く。 蝶児「判った。今はもう寝ていろよ。無理はするな。」 麻衣子「貴方にいたわれるなんてね…。参ったわ。」 麻衣子、苦笑いを浮かべて言う。 蝶児「さあ行くぞ。俺達がここに居たら、オネ−さんはゆっくりと休めないだろう。」 美枝子「そ、そうね。京子ちゃん、私はなるべく双子座の間に居るから、何かあったら連 絡してね。」 京子「ありがとう御座います。美枝子さん。」 京子、美枝子の方を向いてお辞儀する。蝶児、美枝子、純、香、獅子座の間から 出る。 京子「姉さん、執事の人から解熱剤をもらっているけど…。」 麻衣子「要らないわ。」 京子「そう…。」 京子、伏せ目がちに差し出した薬をしまう。 麻衣子「私は…弱くなったのかしらね…。」 京子「え?」 京子、麻衣子の一言に驚いた表情を浮かべる。 麻衣子「あの女医…私はあの詩堂さんの性格を読み切れなかった。あの悲話を聞くまで、 私はずっとあの女医を疑っていたわ。でも間違いだった。それどころか彼女は死んでしま った…。」 京子「…そうね…気の毒な人だったわ。」 麻衣子「私には…彼女の事がすごく引っ掛かっている…。凄まじい罪悪感がこみ上げてい るのよ…。」 麻衣子、悔しそうな表情をしつつ、唇を噛み締める。 麻衣子「私は自分が許せない…彼女の様な人間を疑った自分が…謝罪したいのよ…でも… もう遅いのね…。」 京子「姉さん、もう仕方の無い事なのよ。誰だって、詩堂さんのあの悲話を聞かなかった ら、私だって詩堂さんを疑っていたかもしれないわ。」 麻衣子「私は…。」 京子「姉さん、私達は死ぬ訳にはいかないわ。私達だって、詩堂さんに負けないくらい、 辛い目に遭ってきたのよ。詩堂さんは気の毒だったけど、私達がいつまでもそんな事を気 にしていたら、犯人の思う壺よ。」 麻衣子「…。」 京子「一番許せないのは、そんな詩堂さんを無惨に殺した犯人でしょう?姉さんが自虐し て苦しむ事はないわ。」 麻衣子「…京子…。」 京子「何?姉さん。」 麻衣子「…私が寝ている間、傍に居てくれる?貴方がそんなに強い人間だったなんて…今 になって知ったわ。」 麻衣子、枕に頭を沈めてため息をつく。 麻衣子「…犯人…か…何が狙いなのかしら…。」 麻衣子、両目を閉じ、暫くして熟睡する。 京子「私は絶対に姉さんを守るわ。だから安心して、姉さん。」 京子、ベッドの傍に居つつ、麻衣子の手を握り締めている。 星座館・1階・応接室(夕)、継人、勇介、零、ソファ−に腰掛けて座っている。 遼子、テ−ブルに着き、紅茶を啜っている。 零「フムフム…なるほど、大体の事情は掴めました。どうも…。」 零、手帳に何かを記しつつ紅茶を啜る。 継人「警察に電話をしようと思ったのですが…電話が通じなくなってしまって…。」 零「何故です?」 勇介「電話線が切られているんだよ。きっと犯人の仕業だ。」 零「電話線が切られた…。そうですか…参りました。では、我々で犯人を捕まえるしかな いでしょうね。これ以上の犠牲者を出さない為にも。」 遼子「ど、どうやって…。」 遼子、うろたえた様子で零の顔を見る。 零「それはまだ判りませんが、だが犯人の目的がさっぱり判らない。1人目の犠牲者、今 村宏史さんは、運転手。そして2人目の犠牲者、詩堂加美さんは、女医。いずれも星座館 に仕える使用人です。犯人は星座館の人間に恨みがあるのでしょうか?」 継人、勇介、遼子、暫く黙り込んだまま俯いている。 零「確か、岩崎蝶児君が言っていましたが、5年前の事件を詳しくお教え願いますか?」 零、継人の顔を見つつ言う。 継人「あの事件が…今回の事件と関係があるとでも?」 継人、俯いたまま言う。 零「それは判りません。ですが、全くの無関係だと…言い切れますか?」 零、継人・勇介・遼子の顔を順々に見つつ言う。 継人「…。」 零「さあ、教えて下さい。」 零、手帳とペンを取りつつ継人の顔を眺めている。 星座館・2階・蟹座の間(夕)、蝶児、ソファ−で寝転がっている。純、窓の外の 庭園を眺めている。 純「蝶児君…この事件、5年前の事件と関係があるのかな?」 純、窓の外を見たまま言う。 蝶児「ん?なんだ?急に…。」 蝶児、寝返りをうって純の背中を見る。 純「僕には、どうしても5年前の事件が頭から離れないんだ。葵三津子さんはどうして殺 されなきゃいけなかったんだろう?」 純、額に手を当てつつ考えている。 蝶児「さあな…。」 純「三津子さんは食堂で青酸カリで殺された。そして昨晩、運転手が青酸カリで殺された。 三津子さんと同じ食堂で…。そして今朝、女医が何かを首筋に注射されて殺された後、屋 根裏部屋から吊るされた。多分、注射されたのはきっと青酸カリだよ。」 蝶児「…。」 蝶児、黙って純の言葉を聞いている。 純「犯人は多分、5年前に三津子さんを殺した犯人と同一人物じゃないかな?」 蝶児「だとすれば、葵卿紅か、葵深月が怪しくなってくるな。まあ元から怪しいが、葵深 月のさっきの怒りを見たか?」 純「今朝、葵卿紅に蝶児君が、5年前の事件の事を聞こうとした時の事だね?」 蝶児「ああそうだ。あれは父親をいかに敬愛しているかの証明でもあるだろう。俺には芝 居には見えなかった。」 純「僕もそう思う。」 蝶児「葵三津子の性格が判れば…もし葵三津子がどうしようもない人間だったならば、殺 される要素がありすぎるならば、この事件も先が読める。葵三津子に殺意を抱きそうな人 間は、どうかんがえても卿紅か深月しか考えられないんだがな…。」 純「どうして?」 蝶児「鈍いな…。三津子と1日しか知り合っていない人間が、三津子に殺意を抱くか?」 純「あ!?」 蝶児「だからこそ、あの2人が怪しいのさ。卿紅か深月か…それとも両方か…。」 蝶児、ソファ−で寝返りをうちつつ天上を見上げている。 星座館・2階・双子座の間(夕)、美枝子、ベッドで眠っている。香、ソファ−の 肘掛に頭を乗せて、眠っている。 ドア「コンコン…。」 双子座の間のドアがノックされる。 香「ん?は〜い…。」 香、間の抜けた声で返事をする。 遼子「緑川です。お客様、遅くなりましたが、夕食が出来ました。」 香「え?はいはい。」 香、ドアに飛びつき、ドアを開く。渡り廊下に遼子が立っている。 遼子「ど、どうしたんですか?」 遼子、香の笑顔を見て驚いている。 香「お腹が空いて空いてしょうがなかったのよ。」 香、腹を押えて言う。 遼子「そ、そうですか…すいませんでした。洋風庭園閲覧室に用意致しましたので、行き ましょう。」 香「美枝子、美枝子!晩御飯だよ!」 美枝子、ベッドからムックリと起き上がる。 美枝子「ご、ご飯?」 美枝子、ベッドからゆっくりと降りて、目を擦りながら香に近づく。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夕)、蝶児、純、零、室内のテ−ブルの一角に着 いている。 蝶児「ああ、俺は葵深月か葵卿紅が怪しいと思うが…。」 蝶児、腕組して零に言う。 零「そうかい…どうもありがとう。だが、どうも解せないんだよね。」 零、手帳を眺めつつ言う。 純「何がですか?」 零「ああ、しかしこの館の使用人達の話を伺ったんだよ。5年前の事件の話もね。」 蝶児、純、零の顔に視線を移し、黙っている。 零「5年前の事件で殺されたのは葵三津子、当時43歳。殺された日は葵深月の20歳の 誕生パ−ティ−を催していた。」 蝶児「ああ…そこまでは知っている。」 零「誕生パ−ティ−を行った場所は食堂。集まった人数は全部で8人、葵卿紅、葵三津子、 葵深月、内藤継人、詩堂加美、今村宏史、上原勇介、緑川遼子、の8人だ。そして、死亡 したのは葵三津子。」 蝶児、純、息を殺して零の言葉に耳を傾けている。 零「その日の詳細は、上原がまず食堂の厨房に現れた。それから緑川が上原の手伝いをす る為、食堂の厨房に入る。内藤が様子を見に食堂に現れ、今村がその後から食堂に姿を現 す。そして葵三津子が食堂に現れる。葵三津子は、使用人の働き振りを見て、挨拶をして いたそうだ。」 蝶児「ふ〜ん…。」 蝶児、険しい表情で零の顔を眺めている。 零「それから暫くして内藤が食堂を出て、魚座の間にいる葵卿紅を呼びに行った。それか ら暫くして、内藤と葵卿紅が食堂に現れる。役者はほぼ揃った訳だ。料理もこの頃には全 て揃っていたそうだ。」 純「葵深月さんと詩堂さんは?」 零「落ち着いて…料理が全て揃って、いよいよ誕生パ−ティ−が始まったんだよ。そこで、 主役である葵深月が、渡り廊下から真っ青なドレスを着こみ、エスコ−トに詩堂を連れて、 食堂に現れたのさ。」 蝶児「…。」 蝶児、純、コップを取って、お互いに水を飲む。 蝶児「続けてくれ。」 零「そして葵深月が席に着き、葵深月を祝いつつ、自己紹介をこなしていき、そしてケ− キの上のろうそくを吹き消して、乾杯の音頭を取った。これからが悲劇の始まりだったん だ。」 蝶児「…。」 零「乾杯の音頭を取り終え、グラスに注がれたワインを皆が飲み干した途端、葵三津子が 急に苦しみ出したそうだ。そして約1分ほど苦しんだ後、葵三津子は生き絶えたそうだ。」 蝶児、純、零、3人、顔を見合わせて何も言わずにいる。 純「誰が殺したんでしょうか?」 零「現在残っている使用人は3人、内藤継人、上原勇介、緑川遼子、そして、葵家は卿紅 と深月。この5人の中で怪しいのは緑川遼子と葵深月、そして内藤継人かな?」 蝶児「何故だ?」 零「凶器となったのは、グラスに塗られた青酸カリ、グラスを運んだのは緑川遼子、だが、 葵三津子の隣に席を構えていたのは、内藤継人、そして葵深月だ。」 純「席が隣?」 零「一瞬だが、部屋が暗くなった時があったんだよ。」 蝶児「…ケ−キのろうそくの火を消す瞬間!」 蝶児、ハッと気付いて言う。 零「ご名答。火を消してから食堂の明かりを着けるまで、少し時間があったそうなんだ。 あれだけ広い食堂だからね。」 純「その間に隣のグラスに青酸カリを…。」 零「それか、あらかじめ自分のグラスに青酸カリを塗っておいて、隣のグラスとすりかえ た…か。」 蝶児、頷きつつ首を振る。 蝶児「なるほどな。参考になったぜ。」 零「話はこれだけではないんだ。これは使用人3人から聞いた話なんだが…。」 零、手帳を眺めつつ顔を顰めている。 純「まだ何か?」 零「葵三津子は今わの際に、深月に抱かれて居たんだが、その時、何かを呟いたそうなん だ。それは誰にも知らされていないらしくて、葵深月しか知らないんだそうだよ。」 蝶児「三津子が、深月に何かを呟いた?」 零「ああ。」 純「遺言?」 蝶児「何だろうな…。」 蝶児、純、零、考え込んだまま黙っている。 美枝子「あれ?」 美枝子、香、洋風庭園閲覧室に入ってきて零の姿を見て声をあげる。 香「ああ、そうだったわね。1人多いから戸惑ってしまったわ。」 美枝子、香、室内のテ−ブルで、蝶児達の着いているテ−ブルに一番近いテ−ブ ルに2人で着く。 香「ああ、もう食べよっと。我慢できないわ。」 香、テ−ブルに並べられた料理に手をつけ始める。 美枝子「貴方達はまだ食べていないの?」 美枝子、蝶児達のテ−ブルを眺めつつ言う。 蝶児「ああ、そろそろ食おうか。話に夢中で食べるのを忘れていた。」 蝶児、料理を食べ始める。純、零、つられて料理を食べる。 零「麻衣子さんと京子さんは?」 純「麻衣子さんが発熱で倒れて、獅子座の間で休んでいます。京子さんはその付き添いで …。」 零「そうですか…だったら後で僕が料理を運んであげましょう。」 蝶児「アンタは何処の部屋に寝泊まりするんだ?」 零「僕は牡牛座の間、だそうです。」 零、ステ−キを頬張りつつ言う。 星座館・1階・応接室(夕)、継人、遼子、ソファ−に向かい合って座っている。 継人「ご苦労だったな。これで夕食の準備も終わり、お客様も食事をしているだろう。」 継人、肩を叩きながら言う。 遼子「ええ、ですが…どうも今日は食欲がないんです…。」 遼子、俯きつつ言う。 継人「そうか…仕方が無い事だな。今村に詩堂があんな形で亡くなったのだからな…。」 継人、項垂れて言う。 遼子「きっとお客様達にとっては無関係な人ですから…でも…私にとっては…。」 継人「それはこの館の者全員が感じている事だよ。」 遼子「そうでしょうか…私には、ご主人様もお嬢様も冷たい気がします。」 継人「緑川、慎みたまえ。」 遼子「は、はい…。」 遼子、更に俯いた様子で項垂れる。 継人「そういえば、上原はどうした?」 遼子「上原さんは、夕食を自室でとる。と言っていました。もう誰も信用出来ない。と…。」 継人「困った男だ。」 継人、首を振りつつ頭を押える。 遼子「でも後片付けの際にまた降りてくる。とも言ってました。」 継人「あれほど根性の無い奴だとは…まいったものだ。」 継人、ソファ−から立ちあがる。 継人「緑川、食事に行くぞ。」 遼子「え?」 継人「洋風庭園閲覧室で、夕食をとるぞ。」 遼子「え、でも…私はエプロン姿ですから…。」 継人「そんな事を言っている時ではないだろう。さあ行くぞ。」 遼子「え、ええ…。」 継人、遼子、応接室を出る。 星座館・3階・魚座の間(夜)、卿紅、テ−ブルに着き、食事をとっている。 卿紅「三津子…また死人が出たよ。それも今回は、私によく尽くしてくれた詩堂君だ。」 卿紅、三津子が描かれた壁画の方を見る。 卿紅「深月は、お前に何を言われたのか…まだ話してはくれないよ。あれからだ、深月が 人間らしい感情が欠けていったのは…。」 卿紅、ワインを啜る。 卿紅「詩堂君が居なくなった今、私も芝居を続けていくのは難しいだろう…。だが、仕方 の無い事なのだろうな…。」 卿紅、テ−ブルから立ちあがり、ベッドに近づく。 卿紅「今まで、深月が私の為に持ってきた薬も、もうこんなになったか…。」 卿紅、上のシ−ツを引き上げ、そこに散乱する大量の錠剤を眺めている。 卿紅「病と偽りつつ、影ながら様子を見てきたが…結局は無駄だったのかもしれないな…。」 卿紅、シ−ツを戻してベッドに座る。 卿紅「私は耐えられなくなってきたよ。無関係の人間まで、次々と殺されても、表情1つ 崩さない深月にな…。どうすればいい?三津子…。」 卿紅、三津子の壁画に歩み寄り、壁画の裏から拳銃を取り出す。 卿紅「深月の為にも、なんとかしなくてはな…。」 卿紅、拳銃を持ちつつ、魚群が泳いでいる水槽に近づく。 星座館・2階・獅子座の間(夜)、麻衣子、ベッドで眠っている。京子、麻衣子の 傍に腰掛けつつ、上半身をベッドに乗せて眠っている。 ドア「コンコン…。」 獅子座の間のドアがノックされる。 麻衣子「ん…んん…?」 麻衣子、両目を擦って上半身をベッドから起こす。 麻衣子「京子…?」 ドア「コンコン…。」 麻衣子「待って。今、開けるから…。」 麻衣子、ベッドから降りて、千鳥足でドアに近づく。 麻衣子「誰?」 麻衣子、ドアに耳をつけて言う。 零「僕です。晩飯を持ってきました。岩崎君も一緒です。」 麻衣子「…。」 麻衣子、獅子座の間のドアを開く。 零「あれ?麻衣子さん、大丈夫なんですか?寝ていなくても?」 零、トレ−を持ったまま部屋に入りつつ、呆然と立っている麻衣子の顔を見る。 蝶児「寝てなきゃ駄目だろうが。」 麻衣子「よく言うわね?私は寝ていたけど、貴方達がノックしてきたから起きたのよ?」 麻衣子、咳払いをしつつベッドに戻る。 蝶児「京子も寝てるのか?」 蝶児、ソファ−に腰掛けつつ、京子の姿を見る。 麻衣子「疲れているのでしょうね。この子も大分気を張っているから。」 麻衣子、京子の頭を撫でる。 零「夕食はどうしますか?」 麻衣子「そこに置いておいて、後でもらうから。」 零、料理の盛った皿と、ワインとグラスをテ−ブルに並べる。 蝶児「面白い事が判ったぜ。5年前に関わる話でな。」 麻衣子「後にしてくれないかしら?まだ少し熱が下がっていないみたいなのよ。もう少し 何も考えずに寝たいわ…。」 零「そうですか…では岩崎君、僕達はこれでおいとましよう。」 蝶児「ああ。」 蝶児、零、獅子座の間を出る。 麻衣子「…蝶児君!」 蝶児「ん?ど、どうした?」 蝶児、麻衣子の声に驚いて振り返る。 麻衣子「…ごめんなさい。なんでもないわ。」 麻衣子、呆然と蝶児の顔を眺めている。 蝶児「変だぞオネ−さん。早く回復しろよな。」 蝶児、獅子座の間を出て、獅子座の間のドアを閉める。 麻衣子「なんだったのかしら?何か…妙な…。」 麻衣子、呆然と立ち尽くして、獅子座の間のドアを眺めている。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夜)、美枝子、香、継人、遼子、1つのテ−ブル を囲んで座っており、会話を交わしている。 美枝子「今日もまた帰れないんですか?」 美枝子、継人の顔を眺めつつ言う。 継人「門の鍵はお嬢様に返しましたので…それに、仮にあの門を出たとしても、鬼渡り山 の途中で行き止まりになっています。数日は帰れないでしょう。」 継人、顔を歪めて言う。 香「何て事…どうしてこんな事になったの…。」 香、頭を抱えつつ言う。 遼子「…でも…それは私達も一緒なんじゃないんですか?」 遼子、美枝子の顔を眺めつつ言う。 美枝子「え?」 遼子「私達は、確かにお客様をもてなすのが仕事です。ですけど、今は私だって泣き叫ん で、ここから逃げたい気持ちで一杯なんですよ!」 継人「緑川!」 継人、遼子の顔を睨みつつ言う。 遼子「あ…す、すみません…わ、私、お客様に向かって…。」 遼子、顔を赤らめつつ俯いている。 美枝子「いいんです…私も少し言いすぎました。そうですね…皆、同じ境遇に立っている 事を忘れてました。」 美枝子、継人・遼子にお辞儀する。 継人「お、お客様、本当に気にしないで下さい。」 遼子「す、すいませんでした。」 継人、遼子、お辞儀を美枝子にしかえす。 香「どうでもいいんだけどさぁ…お嬢様はどうしたの?降りてこないじゃないの?」 継人「お嬢様は自室で食事をとられる。と言っていました。」 香「へえ…私達を呼んでおいて、礼儀正しかったのは初日だけね。」 香、継人の顔を眺めつつ言う。 美枝子「香!」 香「言わせてよ。何か、本当に計画的なものを感じるわ。あの人の行動にはね。貴方達も 疑問に思わない?」 香、継人・遼子の顔を眺めつつ言う。 継人「…いいえ…そんな事はありませんよ。私は少し急用を思い出しました。失礼します。」 継人、一礼して洋風庭園閲覧室から出る。 香「じゃあ緑川さんは?」 遼子「え?」 香「貴方はこの館の使用人達の中では、私達に最も近い感じがするのよ。答えてくれない?」 香、遼子の顔を眺め続けている。 美枝子「…。」 美枝子、黙って遼子の顔を見ている。 遼子「わ、私は…ただのメイドです。何も言えません。」 香「言えない?という事は何か知っているって事よね?」 遼子「そ、そんな…。」 遼子、狼狽した様子で視線を落ち着き無く動かしている。 美枝子「言えない理由が…何か?」 美枝子、遼子の顔を怪訝な表情で眺めつつ言う。 遼子「…別に…何もないですけど…でも…。」 香「でも?」 遼子「私は、まだ死にたくありません。お願いです!許して下さい。」 遼子、お辞儀をして洋風庭園閲覧室から飛び出していく。 美枝子「…まだ死にたくない?もの凄く怯えていたわね。緑川さん。」 香「ちょっと無理強いし過ぎちゃったかな…後で謝っとこ。」 香、ため息をついて椅子に背を沈める。 星座館・2階・牡牛座の間(夜)、大きな角が壁に飾られている。絨毯は真っ赤で、 比較的、他の部屋と比べて単調な造りになっている。蝶児、椅子に腰掛けて、ベッドで寝 転んでいる零を眺めている。 零「う〜ん…犯人が全く想像出来ないなぁ〜。葵卿紅と深月のいずれかが犯人だったら、 全く単調な事件だし…。」 零、頭を掻きながら言う。 蝶児「だが、確かに説明出来ない事情があるのは間違いない筈だ。」 零「まあね。だけど、それを本人達が語ろうとはしない。しようとすれば、卿紅の具合が 悪いとか、機嫌を損ねて自室に戻るんだろう?判らないなぁ〜。」 蝶児「警察が到着出来ないってのが一番厄介な事だな。」 蝶児、貧乏ゆすりをしながら呟く。 零「ああ、数日の間は?とか執事が言っていたね。」 蝶児「じゃあ俺は蟹座の間に戻るぜ。そろそろ美枝子達が帰ってくるだろうからな。」 零「ああ、じゃあまた。」 蝶児、牡牛座の間を出る。 星座館・2階・双子座の間(夜)、美枝子、純、香、部屋の中、ソファ−に腰掛け つつ会話を交わしている。 美枝子「純君、さっきまで何処に居たの?てっきり蝶児と一緒だと思っていたのに…。」 美枝子、紅茶を啜りつつ言う。 純「ちょっと疲れていたから、僕はさきに蟹座の間でシャワ−を使っていたんだよ。もう 寝る気だったけど、1人で寝るのは怖くて…。」 香「相変わらず臆病な虫は治らないのね。本当に男なの?アンタ。」 香、冷たい視線を純に送りつつため息をつく。 純「それで、蝶児君は今何処に?」 美枝子「蝶児は牡牛座に居ると思うわよ?さっきまで東山さんと一緒だったから…。」 香「東山零か…由希子さんが代理として頼んだ。て聞いたけど、本当かな?」 美枝子「仮に嘘だとしても、東山さんには今村さんと詩堂さんを殺せないでしょ?まだ館 に到着してなかったんだから…。」 香「そうかしら?実はもっと前に到着していて、殺した後に、何食わぬ顔でこの館に入り こんだんじゃないの?」 純「無理だよ。だってこの館は門と壁に隔たれているから、一度入ったら、もう出られな かった筈だよ。」 香「む…そういえばそうね。考えすぎだったわ。『かまいたちの夜』みたいなオチはなさそ うね。じゃあ、東山零は完全なシロ…か。」 純「でも、あの人は探偵だし、信用は出来るかもしれないね。」 香「判らないわよ。犯人と共犯だとしたら…まだ100%信用する訳にはいかないけどね。」 美枝子「何が何だか判らなくなってきそうね。ああ…もう嫌になりそう…。」 美枝子、ソファ−からベッドに移り、ベッドに倒れこむ。 ドア「コンコン。」 双子座の間のドアがノックされる。 香「はあい?だあれ?」 蝶児「俺だ。」 純「蝶児君だね。」 純、ドアに行き、ドアを開く。蝶児、双子座の間に入ってきて、ソファ−に腰掛 ける。 美枝子「蝶児、危ないじゃないの!1人で出歩いてたら!」 美枝子、ベッドに寝転がった状態で言う。 蝶児「お前はもう疲労困憊といった感じだな?」 美枝子「うるさいわね。私は貴方みたいに神経が図太くないのよ。」 純「それで、何か判った?」 蝶児「ああ、5年前の事件で容疑者が出なかった理由は1つ。青酸カリが誰の部屋からも 発見されなかったからだ。」 香「おかしいじゃないの?」 蝶児「この館をくまなく捜したが、警察は青酸カリを何処からも検出出来なかった。」 純「そんな馬鹿な…。」 蝶児「始めから1人殺す為に、その必要分しか持っていなかったか…それか…。」 蝶児、3人の顔を見つつ言う。 蝶児「隠し部屋があるか。だ。」 一同、ギョッとして蝶児の顔を見る。 香「か、隠し部屋ですって?」 純「そんな部屋がこの館に?」 蝶児「有り得ない話じゃない。これだけの数の部屋があるんだ。それに、俺達が立ち入っ ていない部屋だってまだまだある。それに考えてもみろ。一部屋一部屋にこれだけの工夫 をこなしているんだ。俺達もその錯覚に嵌っている可能性もある。」 蝶児、3人の顔を見合わせている。 美枝子「隠し部屋ね…で、どうするの?まさか、警察の代わりに私達が隠し部屋を探し当 てるとでも言いたいの?」 蝶児「なんだ?その言い方は?まるで自分には関係ない。と言いたい感じだな?」 蝶児、美枝子の顔を凝視して言う。 美枝子「私達が出張ってする義務があるの?どうして貴方はそう危険な事を平然とやろう とするわけ?もし殺されでもしたらどうするのよ!」 美枝子、ベッドから飛び降り、蝶児の前まで歩み寄る。 蝶児「だからといって、このまま犯人の跳梁を許す訳にはいかないだろうが!」 美枝子「そうだけど、私達はもともと部外者なのよ!この館の人達が仲間を殺しているだ けでしょう!?」 蝶児「!?」 蝶児、美枝子の頬を引っぱたく。 衝撃音「パシン!」 美枝子「!?」 美枝子、殴られた勢いで、ソファ−の傍から絨毯に倒れる。 香「な、何するのよ!」 香、美枝子を助け起こす。美枝子、蝶児の顔を鋭い視線に睨んでいる。 純「蝶児…君…美枝子ちゃんに謝るんだ。」 純、美枝子と香の間に立って蝶児に言う。 蝶児「…。」 蝶児、手を額に当てて立ち尽くしている。 美枝子「な、何よ…1人だけ格好をつけて…。自分が探偵か刑事になったつもりなの?い い加減にしてよ!いずれその性格が命取りにでもなったら…貴方はどうする気なの よ!?」 美枝子、涙を流しながら蝶児の顔を睨んでいる。 蝶児「…。」 蝶児、唇を噛み締めたまま、俯いている。 美枝子「なんとか言いなさいよ!殴りたいなら殴りなさい!私は殴られたって、絶対に貴 方の考え方を肯定する気にはならないわ!」 美枝子、蝶児の前に歩み寄って怒鳴る。 蝶児「…。」 美枝子「そうよね…そういえばこの星座館に来る時だって、私は反対したわ。純君もだっ たわね。でも貴方は香と一緒に行く事に積極的に計らったわ。私は最後まで反対だったけ ど、貴方に押し切られた形になった…。」 香「美枝子…。」 美枝子「私は嫌な予感はしていたわ。でも、貴方や香、純君を放ってはおけないから、私 も同行した。そして案の定、事件は起きたわ。人が殺された。」 純「…。」 美枝子「そして、あの葉書を出した葵深月さんは、私達がこの事件に関わってくる事をあ らかた予想していたのよ。貴方はその通りに今は動かされているに過ぎない。貴方は犯人 の手のひらで踊っているに過ぎないのよ?」 蝶児「…。」 美枝子「私達はもともと関係の無い人間。だけど、関わらざるを得ない状況になって、最 後にはきっと私達が利用されるのよ…。絶対にね。」 美枝子、3人の顔を見つつ言う。 美枝子「忘れないでね。貴方達は私の大事な親友よ。どんな事があっても見捨てたりはし ない。それに、誰か1人でも暴走しようものなら、私が絶対に引き止めてみせる。葵深月 や犯人に利用させたりなんかさせないわ。」 美枝子、蝶児の顔に視線をとめて言う。 蝶児「…判った…俺が悪かった…お前の言う事にも一理ある。殴って悪かった。」 美枝子「いいでしょう。」 衝撃音「パシン!?」 美枝子、蝶児の頬を殴る。蝶児、ソファ−に倒れこむ。 蝶児「!?」 美枝子「これで気が済んだわ。女に手を上げるなんて最低よ蝶児?」 美枝子、笑って蝶児の顔を眺めている。 蝶児「…あ、ああ…そうだな…。」 蝶児、頬を擦りながら苦笑いを浮かべる。 星座館・3階・天秤座の間(夜)、部屋の片隅と反対側の片隅に、大きな天秤の皿 の像が置かれている。部屋の窓際にベッドが配置されており、勇介、ベッドで寝転んでい る。継人、部屋の中央の椅子で腰掛けている。 勇介「用が済んだら出ていってくれるか?内藤さんよ。」 勇介、敵対心の篭った視線で、継人の顔を眺めている。 継人「お前、酔っているのか?明日もまた朝食の仕込みがあるというのに…。」 継人、部屋に転がっているビ−ル瓶やウイスキ−の瓶を眺める。 勇介「うるせえな。アンタにそこまで指摘されなくても、俺は自分の仕事はわきまえてい る。要らない世話を焼くな。」 勇介、ビ−ルを浴びる様に飲みつつ言う。 継人「上原、お前が荒れているのは判っている。だが、気をつけるんだな?今村も酒を飲 んでいる最中に死んだんだぞ。」 勇介「ふん、俺は自分の口にするもんは、自分で管理出来る職なんでね。俺は飲み食いす る事で殺される事はない。」 継人「そうか…俺はお前を仲間とみているからこそ、忠告に来たんだが、要らない世話だ ったようだな。また明日の朝に。」 継人、椅子から立ちあがり、天秤座の間を出ようとする。 勇介「内藤さん…。」 継人「なんだ?」 継人、天秤座の間のドアの前に立って、勇介を振り返る。 勇介「アンタは…誰が犯人だと思う?」 継人「…私は…仲間を疑う様な真似はしない。」 勇介「じゃあ、お客様の中に犯人が居る。と?」 継人「…判らん。本当に判らないのだ。」 勇介「お嬢様だぜ…。」 継人「何?」 継人、勇介の顔をキッと睨みつける。 勇介「詩堂さんが殺された今、一番怪しいのはお嬢様だ。だってそうだろ?葉書を出して、 お客様を呼んで、実際にタイミングばっちりで人が殺されているんだ。動機だってある。 5年前の事件で、犯人が見つからない今、1人1人俺達を殺して…。」 継人「いい加減にしないか!お前は雇い主のお嬢様を疑うのか!」 継人、勇介の胸倉を掴む。 勇介「内藤さんよ…もう少し利口になれよ…。へへ…アンタがお嬢様に好意を寄せている 事を俺達はずっと気付いていたんだよ。あの鈍感な緑川だってな。」 継人「貴様−ッ!」 継人、勇介をベッドから投げ飛ばし、天秤の像に叩きつける。 勇介「グワッ!」 継人「なんという低俗な…上原、私の本音を言ってやろう。私は今、誰も疑ってはいない が、今、気が変わったよ。お前が犯人だったらどれだけ周りが救われるだろうと…私の願 望だがな。」 勇介「残念だったな。俺は犯人じゃない。」 継人「どうだかな。お前はなんだかんだと言いながら、殺された詩堂にしても今村にして も、お前が1番身近に居るじゃないか。その怯えた様子は演技だったのか?」 勇介「な、なんだと?」 継人「もしお前が犯人だったならば、次は私を殺しに来るといい。返り討ちにしてやろう。 そしてお前を殺し、正当防衛という形で俺はお前の死体をもって、事件を終わらせてやる。」 勇介「ヘッよく言うぜ。まるで自分は関係無い。とでも言わんばかりの正義っぷりじゃな か。俺もアンタは容疑者の1人と見ているんだぜ?正直言って、俺はアンタが1番怪しい と思っている。」 継人「ほう…。」 勇介「アンタは、執事として、ご主人様、そしてお嬢様の傍に1番近い存在だからな。代 理殺人を行うにはもってこいの人材だ。」 勇介、起き上がり、継人を指差す。 勇介「緑川だって怪しいもんだ。詩堂さんと仲の良い振りをして、実は犬猿の仲だったか もしれないしな。あの女、今村の事を嫌っていたのも知っている。」 継人「お前は相当なクズだな。ここまで人間不信に陥っていると、かえって哀れなものだ。」 勇介「フン!こんな事態だ。自分以外の人間は信用出来ないさ。アンタの落ち着きがかえ って怪しいんだよ。」 継人「…もうお前とは話したくはないな。明日の仕事に備えろ。それだけを言いに来たつ もりだったが、私も感情的になってしまった。これ以上話しても、水掛け論だろうな。」 継人、天秤座の間から出る。 勇介「…もう俺には味方なんて居ねぇ…だが、俺は誰が殺されようと、絶対に生き残って やる。」 勇介、ベッドに飛び乗る。 5:姉と妹 星座館・2階・獅子座の間(夜)、京子、ベッドに上半身を乗せたまま眠っている。 麻衣子、ソファ−に腰掛けて紅茶を啜っている。 麻衣子「何かしら?この紅茶、眠くなる効果でもあるのかしらね…また眠くなってきたわ。 でも熱が下がってきたようね。助かったわ。」 麻衣子、フ−ッとため息をつく。 麻衣子「京子も寝ているわね。もう目が覚めないでしょうね。昨日は遅くまで起きていた 様だし…。」 麻衣子、ベッドに京子を乗せる。 麻衣子「さて…また犯人捜しをしなきゃね。どうせ、警察もすぐにはこれないそうだし…。 まだ私達に被害がない内にカタをつけてみせないと…。」 麻衣子、腕を天井に伸ばし、背伸びをする。 麻衣子「さっきの妙な感じはなんだったのかしら?まるで、蝶児君に2度と会えなくなる 様な錯覚に陥ったけど…不吉な予感だわ。もう忘れましょう。」 麻衣子、頬を軽く叩く。 破壊音「ガッシャ−ン!」 獅子座の間の窓が突然割れる。 麻衣子「な、何!?」 発砲音「パ−ンパ−ン!!」 麻衣子「!!」 麻衣子、銃弾を胸に受け、部屋の中央から獅子座の間のドアまで吹っ飛ばされる。 麻衣子「グッ!?」 獅子座の間の割れた窓から、1本のロ−プでぶら下がっている人影が見える。 京子「な、何?」 京子、ベッドから飛び起きて麻衣子を見る。 京子「ね、姉さん!!」 京子、胸から大量の血を流し、ドアに倒れこんでいる麻衣子に近づく。 麻衣子「きょ…京子…に、逃げなさ…い…。」 麻衣子、胸を押えながら、京子を見つつ呟く。 京子「姉さん…姉さん…どうして…。」 京子、ハッとして窓側を振り向く。そこにはただ外の景色があるだけで、人影の 姿もロ−プもない。 麻衣子「きょ…京子…蝶児君達の…部屋へ…早く…。」 麻衣子、口から血を吐きつつ言う。 京子「い、嫌…姉さんを置いて…いけない…。」 京子、麻衣子の手を掴んだまま泣き崩れている。 麻衣子「馬鹿!早く…早く…犯人は…3階に居るはず…この…部屋の真上の部屋を…早… く…蝶児君達に…。逃がさないで…早くして…。」 麻衣子、京子の頬を叩く。京子、泣いたまま動かない。 麻衣子「貴方だけでも…生き延びるのよ…お、お願い…はやく行って…京…子…。」 麻衣子、ガックリと首を下に落とす。 京子「姉さん!姉さん…ね…姉…さん…。」 京子、麻衣子の死体の胸で泣きじゃくる。 京子「!?」 京子、麻衣子の胸から顔を上げ、獅子座の間を飛び出す。 京子「ゆ、許さない…絶対に…許さない…。」 京子、顔を血に染めつつ、涙を拭い、渡り廊下を走っていく。 星座館・2階・渡り廊下(夜)、蝶児、美枝子、純、香、遼子、零、渡り廊下に集 まっている。 蝶児「なんだ今の銃声は?何処からだ?」 蝶児、周りをキョロキョロしながら言う。 零「ま、まさか…。」 零、目を大きく見開き、獅子座の間の方を向く。渡り廊下の先から京子が走って くる。 京子「…。」 京子、息を切らして蝶児達の所に走ってやってくる。 美枝子「きょ、京子ちゃん!!」 美枝子、顔を血に染めた京子の顔を見て驚きつつも、京子の肩を抱く。京子、床 に両膝を着いて泣いている。 蝶児「どうした!何があった!」 京子「姉さんが…姉さんが…。」 蝶児達、全身を震わせつつ京子の顔を眺めている。 純「ま…まさか…麻衣子さんが…。」 蝶児「!!」 蝶児、純、零、渡り廊下を走っていく。美枝子、香、遼子、京子の周りで俯いて いる。 遼子「そ、そんな…お客様まで…私達だけが…殺されていくのかと思っていたのに…。」 香「まだ死んだって決まった訳じゃないでしょ!」 香、遼子に怒鳴りつける。 美枝子「そんな…そんな…酷い…私達は関係ないのに…。」 美枝子、両手両膝をついて涙を流す。 蝶児「…オネ−さん…。」 蝶児、純、零、獅子座の間の中で、絨毯を真っ赤に染めて倒れている麻衣子の亡 骸を見て立ち尽くしている。 零「…僕がついていながら…なんていう事だ…。」 零、ガックリと両膝をつく。 純「麻衣子さん…。」 純、立ったまま涙を流して麻衣子の姿を見ている。 蝶児「…やろう…上だ!この部屋の真上を調べるんだ!」 蝶児、渡り廊下を走っていく。純、零、蝶児の後を追いかける。 星座館・3階・渡り廊下(夜)、渡り廊下に深月、継人、勇介、立ち尽くし、呆然 としている。 深月「さっきのは銃声ではなくて?どういう事です?」 深月、ガウンを羽織った姿で継人に問う。 継人「…お静かに!誰か来ます。」 継人、深月を背にし、渡り廊下から走ってくる方向を凝視する。 蝶児「執事!」 蝶児、純、零、渡り廊下から走ってきて、3人に合流する。 継人「お客様!」 零「獅子座の間の真上にある部屋は?」 勇介「獅子座の間の真上にある部屋…蠍座の間だ。」 蝶児「なんだと?」 一同、蠍座の間に向かう。 継人「どうしましたか!詳しく教えて下さい!」 継人、蝶児の後を走りつつ言う。 蝶児「…オネ−さんが殺された!」 深月「!?」 深月、驚いた表情を浮かべつつ走っている。 零「ここだ!」 蝶児「この部屋を開けろ!」 蝶児、継人の顔を睨みつつ怒鳴る。 継人「この部屋に鍵はない。だが、詩堂の遺体が安置してある。」 蝶児「チッ!」 蝶児、蠍座の間に飛び込む。一同、後に続く。部屋のベッドに加美の遺体が置か れている。部屋の窓が開いており、1本のロ−プが部屋の片隅に放置されている。 継人「な、なんだこのロ−プは…詩堂の遺体をここに運んだ時には、こんなロ−プは無か ったぞ。」 継人、ロ−プを拾って言う。 深月「…ここから…平島さんを殺したのですか?」 深月、窓の外を眺めつつ言う。 蝶児「もぬけの殻か…ん?卿紅はどうした?アイツは何処に居る?」 深月「ハッ!」 深月、渡り廊下を走っていく。蝶児、純、零、継人、勇介、後を追いかける。 深月「お父様!」 深月、息を切らして魚座の間の前に立つ。 ドア「ドンドンドン!」 深月、ドアを何回もノックする。 深月「お父様!」 深月、ドアをノックしつつ言う。 継人「居ないの…か?」 蝶児「この部屋のドアを開けろ!」 深月「鍵を…。」 深月、部屋のドアに鍵を差し込み、ドアを開く。 蝶児「卿紅!」 蝶児、深月、魚座の間に入りこむ。そこには卿紅の姿は無い。 深月「お父様が…居ない。」 深月、ベッドに歩み寄り、呟く。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(朝)、蝶児、美枝子、純、香、京子、洋風庭園閲 覧室のテラスのテ−ブルに着いている。 京子「姉さん…。」 京子、座ったまま俯いて呟く。 美枝子「…。」 蝶児、美枝子、純、香、京子の泣き顔を見つつ黙って俯いている。 蝶児「…朝食をとらないとな…。」 蝶児、パンをかじりつつ言う。 純「そうだね。このまま…このまま終わってしまったら、麻衣子さんに申し訳ないから…。」 純、ス−プを啜りつつ言う。 香「まさか…あの人が殺されるなんて…信じられないわ。」 美枝子「香!」 美枝子、京子の姿を横目に見つつ香に怒鳴る。 京子「…いいんです…私の事は気にしないで下さい。」 京子、美枝子の方を向いて言う。 継人「おはよう御座いますお客様。」 継人、テラスの空いた席に着く。その継人の背後から深月が何も言わずに歩いて くる。 蝶児「葵…深月…。」 蝶児、小声で呟く。深月、継人の正面の席に着く。 継人「お嬢様、朝食を頂きましょう。きっとご主人様も何処かで…。」 深月「…。」 深月、席で俯いたまま言葉を発せず黙っている。 香「アンタのお父様が犯人だった様ね?やってくれたものだわ…一体何が目的だったの?」 香、深月の顔を睨み続けたまま深月に言う。 深月「…。」 深月、全く視線を上げずに俯いたままでいる。 香「貴方が葉書を出して私達を呼んだのよ?貴方も共犯とみて間違いない筈だわ。さあ! 言いなさい!」 継人「お客様、お止め下さい。お嬢様は関係ありません。」 継人、香の視線から深月を遮る様に香の前に立ちあがる。 香「何よ?貴方、この期に及んでお嬢様をかばう気なの?この人は人殺しの片棒を担いで いるのよ?」 継人「お嬢様はその様な事をなさる方ではありません。」 蝶児「どうしてそう言い切れるんだ?」 蝶児、継人の顔を不思議そうに眺めている。 継人「…。」 香「決まってんじゃない。この人、お嬢様に気があるのよ。だからお嬢様をかばっている だけ…何の根拠も無いわ!」 香、継人に鋭い視線を送ったまま、怒声を含んだ声で言う。 美枝子「もう止めて!もうたくさんよ!どうしてここまで罵り合わなきゃいけないの!」 美枝子、両手で頭を抱えたまま、テ−ブルに塞ぎこむ。 純「み、美枝子ちゃん…。」 蝶児「行こう。俺達はもう食事は終わった。今はアンタ達の顔を見たくない。」 蝶児、テ−ブルから立ちあがり、洋風庭園閲覧室を出る。香、京子を連れて蝶児 の後に続く。美枝子、フラフラと純に寄り添いつつ洋風庭園閲覧室を後にする。 星座館・2階・双子座の間(朝)、美枝子、京子、ベッドで横になって倒れている。 遼子、香、ベッドで倒れている2人の様子を伺っている。蝶児、純、ソファ−に腰掛けて 黙っている。 遼子「…大丈夫ですか…?私は医者ではないので、大した看病は出来ないんですけど…す いません。」 遼子、桶の水で濡れタオルを何度も何度も絞り上げ、2人の額に乗せつつ言う。 香「ありがとう緑川さん。大丈夫よ。2人ともショックからの病だから。きっともう少し で回復してくれるわ。」 香、美枝子と京子の顔を心配そうに眺めつつ言う。 蝶児「なあ?メイドさんよ。教えてくれないか?アンタが昨日、言った話の続きをな。」 蝶児、遼子の方に視線を送りつつ言う。 遼子「!?」 遼子、蝶児と純の方を振り返って驚いた表情を浮かべている。 香「蝶児…緑川さんはここまで献身的に美枝子達の看病をしてくれているのよ?」 蝶児「関係ない。教えてくれ。俺達もこの事件で犠牲者を出してしまった以上、部外者と している訳にはいかないんだ。」 遼子「…。」 遼子、怯えた表情で俯いている。 香「…緑川さん…あっちに座りましょう。」 香、遼子を蝶児達が座るソファ−に誘う。香、遼子、ソファ−に腰掛け、蝶児の 正面に遼子が居る。 遼子「…。」 遼子、怯えた表情で蝶児の顔を見る。 蝶児「怖がらないでくれ。」 純「教えて下さい。」 蝶児、純、真剣な表情で遼子の顔を眺めている。 遼子「でも…。」 香「大丈夫よ緑川さん。私達と一緒に行動していれば、犯人は貴方には手を出さない筈だ わ。」 蝶児「それに、俺達は5年前の事件についてはもう知っている。聞いたんだよ。探偵の東 山にな。俺が聞きたいのは、お嬢様の話だ。」 遼子「お嬢様の…話。」 遼子、体をブルリと震わせる。 純「…よっぽどお嬢様が怖いんだね?」 香「不気味なだけよ。」 蝶児「教えてくれ、葵深月は一体何を考えているんだ?アンタ達使用人達は、何も疑問に 思ってはいないのか?」 蝶児、ソファ−とソファ−の間にある円形のテ−ブルに両手を着き、上体を前の めりに遼子の前に突き出して言う。 遼子「…お嬢様は…お嬢様は、きっとショックで…母親である三津子様を失ったショック から立ち直っていないだけだと…思います。」 遼子、暫く間を置いて答える。 香「ショックから立ち直っていない?」 遼子「ええ…きっとそうなんです。」 純「でも、だからといって殺人を起こす様な…。」 遼子「お嬢様が殺人を行うなど…そんな事はないと思います。」 遼子、俯いたまま言う。 蝶児「殺人を直接しているかいないかは別として、犯行の片棒を担いでいる事は確かだ。 だが聞きたいのはそれだけじゃない、アンタは知っているかいないかは知らないが、隠し 部屋がこの館には存在するな?」 遼子「隠し部屋?」 遼子、呆然と蝶児の言う事を聞いている。 蝶児「ああ、在る筈なんだ。何処にあるか教えてくれないか?」 遼子「そ、そんな事言われても…今までそんな部屋があるなんて…。」 純「使用人にも知らされていない部屋だから、きっと葵家の者しか知らないんじゃないか な?」 香「へえ〜、じゃあ、葵卿紅の隠れている部屋も、その隠し部屋なんじゃないの?」 蝶児「だろうな。」 蝶児、純、香、遼子、ソファ−で腰掛けたまま、考え事をしているかの様に黙り 続けている。 星座館・3階・蠍座の間(朝)、部屋のベッドに加美の遺体を寝かしたままの状態 で、零、部屋の中をくまなく詮索している。 零「…う〜ん…間違いなくここにある筈なんだけどなぁ〜。」 零、絨毯の上を四つん這いで歩きつつ言う。 零「何処にあるんだろう?それが判れば、事件もほぼ解き明かした様なものなんだけど…。」 ドア「コンコン!コンコン!」 声「誰か居るのか?」 零「あ、はい?」 ドア「ガチャリ!」 ドアが乱暴に開かれ、継人、蠍座の間のドアを乱暴に開く。 継人「何をしているんだ君は!」 零「あ、内藤さん。いや、隠し部屋の存在があるかないかを検証しようと思って。」 零、慌てて四つん這いの格好から立ちあがり、服装を正す。 継人「東山君、あえて言わせてもらうが、お客様とはいえ、同僚の遺体の安置している部 屋を勝手にあさられては黙って見過ごせないな。」 継人、両手を腰にやって言う。 零「ですが、昨日の犯行でこの部屋が使われた事は間違いないんですよ。だから、この部 屋を徹底的に検証しない事には…。」 継人「そういう事は、警察がすれば良い事だ。君がする必要はないだろう。」 零「でも警察はすぐには来れないんでしょう?違いますか?」 継人「だが…。」 零「これ以上の犠牲者を出さない様にする為にも、犯人の情報をより多く集めなくてはい けないとは思いませんか?」 継人、零の顔を見たまま微動だにしない。 継人「…まあいいだろう。だが、私の目の前でやってもらおうか。それが条件だ。」 零「それでも結構ですよ。」 零、絨毯に四つん這いになって検証を続ける。 継人「君はさっき隠し部屋がなんとか言っていたな?どういう事だ?」 継人、怪訝な表情を浮かべたまま、零の様子を眺めている。 零「そのままの意味ですよ。この部屋には、隠し部屋に通ずる扉か何かがある筈です。」 継人「何故そう思う?」 零「犯人は昨日の犯行でこの部屋を使ったのは明白です。そしてこの部屋に我々が駆けつ けた時、すでにこの部屋に有ったのはロ−プだけだった。貴方が昨日の銃声を聞きつけて 渡り廊下に出たのはいつ頃ですか?」 継人「すぐだ。私はすぐに山羊座の間から渡り廊下に出た。」 零「その時、この蠍座の間から出た人影を見ましたか?」 継人「いや、その後に出てきたのはお嬢様と上原の2人だ。それから暫くして階段から君 達がやってきた。」 零「じゃあ犯人は何処に消えたんでしょうね?」 継人「…。」 零「この3階から飛び降りた?それともこの部屋に隠れ続けていた?あるいはロ−プはあ らかじめ置いておいて、2階で平島麻衣子さんを殺した後、2階から飛び降り、逃亡した?」 継人「…。」 零「どの可能性も殆ど0%といって良い事でしょう?必ずなんらかのあしがつくでしょう から。となると、残された可能性は…。」 継人「隠し部屋って訳か…。」 零「かなり信憑性に欠けた可能性ですが、これしか考えられません。」 継人「だが、詩堂が使っていた部屋で…今まで詩堂が気付かなかったというのか?」 零「いいえ、詩堂さんは知っていたかもしれませんね。」 継人「なんだって?」 零「推測ですが、詩堂さんは女医としてご主人からは近い存在だったはず。だったらば、 知らない可能性は低かったのでは?まあどんな関係だったかは、もう死んでしまった詩堂 さんからは聞けませんが…。」 継人「詩堂…。」 継人、ベッドで安置されている変わり果てた加美を眺めている。 零「まあなんにせよ。隠し部屋を犯人が使っているとなれば、犯人は…。」 継人「ご主人様が…犯人だというのか…。」 零「私は疑ってはいます。ですが、もし卿紅氏が生きていればですが…。」 継人「な、なんだと?」 零「卿紅氏が犯人だとしたら、姿をくらます理由がいまいち掴めないんですよね。どうし てここまで念入りに計画した殺人劇に、この様な軽率な真似をしたのか?自分が犯人だと 告白している様なものです。それがどうも納得がいかない。」 継人「そういえば…そうだな。」 零「まあ生きている事に願いをかけていますが…殺されていたならば、また振りだしです。」 継人、零の様子を黙って見続けている。 継人「私も…協力しよう。」 継人、絨毯に四つん這いになって検証を始める。 星座館・1階・応接室(朝)、勇介、ソファ−に腰掛けて、テ−ブルに料理を盛っ たトレ−を置きつつ、朝食を摂っている。 勇介「誰も信用出来るものか!きっと犯人は頭のイカれた野郎だ!」 勇介、ス−プを一気飲みする。 勇介「だが…一体何が目的なんだ?どうして客にまで手を出しやがった…。」 勇介、三津子の壁画に視線を移す。 勇介「ん?そういえば…。」 勇介、ソファ−から立ち上がり、三津子の壁画の所に行く。 勇介「この絵…誰が書いたんだったかな?ご主人様だったか…。」 勇介、壁画に記されている名前に目を通す。 勇介「ご主人様が消えた…となるとご主人様が殺したってのか?馬鹿な!あの寝たきりの 老人に何が出来るってんだ!」 勇介、壁画を眺めつつ首を振る。 勇介「…ん…だが…仮にあの爺さんが仮病を使って俺達の目を欺いていたとしたら…詩堂 さんも…。」 勇介、ソファ−に戻る。 勇介「2人が共犯を踏んでいて…共犯の詩堂さんを殺し…残るご主人様が逃げた。それで も腑に落ちないな…。どうして逃げる必要があるんだ?そこまでして危険な賭けをしてま で、平島の女を殺したかったのか?」 勇介、トレ−を眺めたまま考え込む。 勇介「それとも…ご主人様に目を向けさせつつ…別の人間が…。となるとご主人様は殺さ れているな…。」 勇介、ソファ−から立ち上がり、トレ−を持って渡り廊下に消える。 星座館・3階・魚座の間(朝)、深月、ソファ−に腰掛けたまま呆然と巨大な水槽 を眺めている。 深月「お父様…何処に行ったのです…。」 深月、水槽に近づく。 深月「その病を引きずって…何処に行こうというのですか…。」 衝撃音「ガン…。」 深月、歩きざまに、ゴミ箱を蹴る。ゴミ箱から大量の紙屑が絨毯に零れ落ちる。 深月「…。」 深月、呆然と転がった紙屑を拾い上げ、ゴミ箱に戻す。 深月「ん?」 深月、紙屑を広げ、中に隠された大量の錠剤を見つけ出す。 深月「ど、どういう事…私が詩堂さんからもらった錠剤がこんなに…。」 深月、残りの紙屑を広げていき、大量の錠剤を見つけていく。 深月「…お父様は…錠剤を飲んではいなかった…。そ、そんな…。」 深月、ベッドに腰を落とす。 深月「どうして…そんな…お父様は病を患っているのに…薬無しで生き長らえた。」 深月、呆然と天井を見上げている。 深月「ち…違う…のですね。お父様はきっと…始めから病など…。」 深月、魚座の間を出て行く。 星座館・3階・蠍座の間(朝)、継人、零、壁に両手を着けつつ、壁を這い回って いる。 ドア「ガチャリ!」 蠍座の間のドアが不意に開き、深月が蠍座の間に入ってくる。 継人「お、お嬢様。」 継人、入ってくる深月に言う。深月、その言葉に反応せず、ベッドに向かう。 深月「言いなさい!貴方は私にお父様の事を隠していましたね!」 深月、加美の遺体の肩を揺さぶりつつ言う。 継人「お嬢様!」 継人、深月の方に駆け寄る。零、呆然と深月の様子を眺めている。 深月「何故?どうして隠していたのですか!私に知られてはならない理由を言いなさい!」 深月、加美の顔を凝視して言う。 継人「お嬢様!詩堂はもう死んでいるのです!お嬢様、お気を確かに!」 継人、深月を加美の遺体から引き離す。 深月「離してください!私はまだ詩堂さんに聞きたい事があるのです!」 深月、継人の手の中で暴れつつ言う。 蝶児「なんだ今の声は!」 蝶児、純、蠍座の間のドアに走り寄ってくるなり言う。 継人「何でもありません!」 深月「答えなさい!詩堂さん!」 深月、尚も加美の遺体を憎々し気に睨みつつ叫ぶ。 蝶児「探偵、何があったんだ?」 蝶児、零に歩み寄って問う。 零「急な出来事でよく判らなかったけど…『お父様の事を詩堂さんが隠していた。』とか。」 純「病の事?」 純、零に問う。その言葉を聞いて、深月、純の方を向く。 深月「な、何故?何故、貴方達まで知っているのですか?」 深月、呆然と立ち尽くし、蝶児、純、零の顔を眺めている。 蝶児「勘の部分も多いが、恐らく、卿紅は仮病を使っているのではないか?と疑念に持っ ていたんだ。」 深月「な、内藤さん?」 深月、継人の顔を眺めている。 継人「私は存じませんでした。ご主人様が病を偽っているなど…。ですが、どうして仮病 だと言い切れるのですか?」 深月「お父様の部屋から大量の錠剤が見つかりました。それも捨ててあったのです。私が 詩堂さんからもらった薬を全て捨ててあったのです。」 蝶児「間違い無いな。卿紅は病など患ってはいなかった。」 継人「…そんな…まさか。」 継人、信じられないといった顔をする。 星座館・2階・双子座の間(朝)、美枝子、香、遼子、京子、ソファ−に腰掛けて 紅茶を啜っている。 遼子「そろそろ…お夕食の準備にかかりませんと…。」 遼子、フラフラと立ち上がり、双子座の間から出ようとする。 京子「1人で…大丈夫ですか?」 京子、目の下を涙の後が浮いたまま言う。 遼子「大丈夫です。すみません、お客様にこれほどの迷惑を被ってしまいました…。」 美枝子「あの上原さんという料理人と作らなきゃいけないんですよね?」 遼子「ええ、正直、あの人と一緒に食事を作らなきゃいけないと思うと、体が強張ってし まいます。」 遼子、暗い表情を浮かべつつ言う。 香「じゃあ私達も一緒に行ったげようか?どうせこのまま部屋に居るよりは気が休まるし ね。」 香、ソファ−から立ち上がって言う。 美枝子「そうよ、そうしましょうよ。大勢でいれば、犯人だって襲ってはこれないわ。」 遼子「い、いいんですか?お客様にその様な事をしてもらっても…。」 遼子、ドアの前で立ちつつ呆然としている。 美枝子「いいのよ。行こう、京子ちゃん。」 京子「はい…。」 美枝子、香、京子、遼子、双子座の間を出る。 星座館・3階・蠍座の間(朝)、蝶児、純、戸棚や壁画を調べている。継人、零、 壁を擦りつつ調べている。深月、壁に背を着けて、蝶児達の様子を伺っている。 蝶児「おい、お嬢様よ。そんな所で休んでいるなら、手伝ったらどうなんだよ。」 蝶児、深月の様子を伺って言う。 深月「私が?」 深月、呆然とした顔付きで、蝶児の顔を見返す。 純「ちょ、蝶児君、お嬢さんはこの館の…。」 蝶児「こんな状況じゃ関係ないぜ。」 継人「お客様、お嬢様に無礼を働く事はお止め下さい。」 深月「お手伝いしましょう。」 深月、蝶児の傍にある戸棚をかがんで詮索し始める。 継人「お、お嬢様…。」 深月「岩崎さんの言う通りですわね。私だけ特別扱いされる事に甘えている場合ではあり ません。」 蝶児「へえ、意外にしっかりしている所もあるんだな?」 蝶児、横で戸棚をあさっている深月に言う。 深月「意外に?」 純「あれ?これはなんだろう?」 純、戸棚の中から、カルテの束を見つける。 零「それは…カルテか?」 純、カルテを1枚1枚見まわす。 純「…何も書いてない…ですね?」 深月「これは…お父様のカルテ!ここを見て下さい!」 深月、カルテの名前の欄を指差しつつ言う。 継人「どういう事だ?」 零「つまり、葵卿紅氏は、完全に仮病だった事が明らかですね。それに、それを隠蔽して いたのは、詩堂さんもだった。という事ですね。」 深月「な、なんて事を…。」 深月、加美の遺体の方を振り向いて言う。 蝶児「しかし、どうしてわざわざ仮病を使ったんだ?何かメリットがあるというのか?」 零「ずっと寝たきりの状態でいる事を印象付けたかった?と考えられるかな?」 純「わざわざどうして?」 零「う〜ん…館の人間に何か隠す為かな?少なくとも、深月さんや内藤さん、上原さん、 今村さん、緑川さんには、卿紅氏の仮病は知らなかったのでしょうから、この5人に何か 隠しておきたかったのではないでしょうか?」 継人「その何かとは?」 零「判らないですね。それは卿紅氏から聞かない事には…。」 蝶児「早く隠し部屋の扉を探そうぜ。」 蝶児、純、戸棚を検証し始める。継人、零、壁を検証している。深月、カルテを 食い入る様に眺めている。 深月「こんな…どうして…。」 深月、そのカルテを窓の外に放り投げる。 零「あ!なんて事するんですか!」 零、窓から顔を出してカルテを追いかける。カルテは窓から洋風庭園に落ちてし まっている。 深月「はあ…はあ…。」 零「あ〜あ…拾いに行かないと…あれは大事な証拠品になりうる物ですから、大事にして 下さいね。」 零、蠍座の間を出る。 蝶児「相当頭にきてるみたいだな?」 純「そりゃあそうじゃないかな?だって自分の肉親が、今まで嘘をついていた事が明らか になったんだから。」 蝶児、純、小声で囁く。 深月「す、すみませんでしたね…お騒がせしてしまいました。」 継人「お嬢様、構いません。きっと貴方も相当な我慢をしていらっしゃると思います。心 中お察しします。」 継人、深月の肩に手をかけつつ言う。 深月「内藤さん、お早めに隠し部屋の扉とやらを見つけて下さい。お父様の身が心配です。」 深月、戸棚をあさり始めて言う。 蝶児「ん?そういえば、屋根裏部屋があるとか言ってたな?」 蝶児、継人の顔を見て言う。 継人「ええ。ですが、屋根裏部屋から犯人が平島さんを殺したと言いたいのですか?」 純「犯人はこの部屋を使ったのは間違いないんじゃないかな?」 純、深月、継人、蝶児の顔を眺めている。 蝶児「いや、判らない。ロ−プをこの部屋に置いておけば、フェイクとしてこの蠍座の間 に目を向けさせられる。そう考えれば、犯人は屋根裏部屋から襲ってきた可能性もある。 それに、あの夜。俺達は屋根裏部屋に上がってはいない。」 継人「そういえば…。」 一同、沈黙する。 零「オ−イ!オ−イ!」 窓の外から零の声が響く。 蝶児「ん?」 一同、窓の方に行く。 蝶児「どうした?」 零「あれを見て下さい!」 零、蠍座の間の上を指差す。 蝶児「屋根裏部屋を指しているのか?」 蝶児、窓から顔を出して上を眺める。 蝶児「窓が1つあるだけじゃねえか…これがどうかしたのか?」 蝶児、洋風庭園の方を見るが、零の姿は無い。 蝶児「なんだ?アイツ…。」 純「一体何事なの?」 純、窓の外から頭上にある窓を眺める。 深月「どういう事なのですか?」 蝶児「よく判らん。」 蝶児、窓の外から顔を戻して言う。 音「ドカドカドカ…。」 慌しい足音と共に、零が蠍座の間に戻ってくる。 零「ハア…ハアハア…。」 零、息を切らして片手にカルテを持ちつつドアの前に居る。 深月「どうかなさいましたか?」 零「犯人は…きっと屋根裏部屋を使ったんです…。見ましたか?窓の位置を?この蠍座の 間と、獅子座の間の方向と、同じ方向に配置されているんです。」 零、胸を押えつつ息を切らしながら言う。 継人「今までその話をしていたんだよ。ひょっとしたら犯人は屋根裏部屋をつかったんじ ゃないか?てね。」 零「とりあえず、屋根裏部屋に行ってみましょう。」 一同、蠍座の間を出る。 星座館・1階・食堂・厨房(夕)、美枝子、香、京子、厨房の入り口で立っている。 勇介、キッチンで慌しく動いている。遼子、キッチンの端でジャガイモの皮むきをしてい る。 勇介「なんだい?アンタ達は?そこでボ−ッと立って…。」 勇介、入り口で観察し続ける3人に言う。 香「何って、監視に決まってんでしょ?監視よ。」 香、敵意の篭った目で勇介を眺めている。 勇介「俺は犯人じゃないから、毒を入れたりしないよ。安心してくれ。」 勇介、手を慌しく動かしながら言う。 美枝子「でも、私達がここに居れば、安心して料理に専念出来ますよね?犯人も手を出せ ないだろうし。」 勇介「…確かに…まあ犯人が1人だったらな。」 京子「犯人が…1人だったら?」 勇介「誰かと共犯だとも考えられるだろ?2人とか3人とか…。」 勇介、3人の顔を眺めて言う。 香「な、何よ…私達が殺したっての?」 京子「ひ、酷い…私が、姉さんを殺したと言うのですか!」 京子、赤く染めた目から、再び涙を流しつつ勇介に怒鳴る。 遼子「上原さん、栗原さんに謝って下さい。この人達に謝罪して下さい。」 遼子、勇介に言う。 勇介「どうして俺が謝らなきゃならないんだ?こんな状況なんだ、俺達はいつ殺されるか 判らない。ならば、人一倍警戒心を強めて何が悪い?」 勇介、包丁を遼子の方に向けつつ言う。 美枝子「酷い人…。なんて酷い事を言うのかしら…。信じられない。」 香「蝶児や純はね、アンタと違って、逃げも隠れもせずに、犯人を捜し続けているのよ!」 勇介「そうかい、それはご苦労なこった。だが、命取りにならない様に気を付けるんだな。」 遼子「貴方は…やっぱり最低な人だったんですね…。」 勇介「ああ、悪かったね。いざという時に逃げ腰になる臆病者で。」 勇介、包丁を回しながら言う。 遼子「すいませんでした…栗原さん。」 遼子、京子にお辞儀する。 京子「いいんです。もう…。」 京子、勇介に鋭い視線を送りつつ言う。 勇介「ん…そういえば、ご主人様は見つかったのかい?」 香「まだよ。」 勇介「気を付けるんだな。俺の言った事に敵対したい気持ちは判らんでもないが、ご主人 様がもし殺されているならば、アンタ達は、真犯人に踊らされているかもしれないんだぜ。」 香「どういう意味よ。」 勇介「ご主人様が犯人とは言い切れない。つまり、真犯人の罠だよ。ご主人様の方に注意 を引き寄せつつ、真犯人は何気なくアンタ達と接しているかもしれないんだよ。」 勇介、包丁を向けつつ言う。 星座館・屋根裏部屋(夕)、蝶児、純、梯子を上ってすぐの入り口付近に立ってい る。深月、継人、屋根裏部屋の支柱辺りに立っている。零、屋根裏部屋の窓付近に居る。 零「…間違いないですね…昨日の晩、犯人はこの屋根裏部屋を使っている。」 零、窓の周りの支柱を見つつ言う。 継人「間違いないのか?」 零「ええ、ここの部分を見て下さい。」 零、支柱の1本を指差す。蝶児、純、継人、深月、支柱を凝視する。 蝶児「この跡は…ロ−プを縛った跡か。」 蝶児、支柱に残った荒縄の縛りつけた跡を見つける。 零「これ程の跡を残したと考えれば、人間1人を支えた跡と考えられますね。」 継人「待ってくれないか?その跡の事なんだが…そういえば君は居なかったか?詩堂が殺 された時に縛り上げたロ−プも、そこの支柱に縛られていたんだ。」 継人、支柱を指差して言う。 零「なんですって?本当ですか?」 深月「では、また話は振り出しに戻ってしまったのですか?」 零「いえ、ひょっとしたら、犯人はそれを見越した上で、この支柱を使ったのかもしれま せん。この跡を利用して…。」 蝶児「同じ場所にロ−プを縛れば、跡も1つで済む。という事なのか?」 零「ちょっと疑問も多いのですが…まあこの部屋で隠し部屋に通じる扉を探してみましょ う。」 蝶児、純、零、懐中電灯を手に、床板を這い回る。継人、天井を眺めている。深 月、支柱を1本1本調べている。 深月「屋根裏部屋なんて…立ち入ったのは初めてです。」 継人「申し訳ありません。この様な埃っぽい所にお連れして…。」 蝶児「俺達は元々客だった事を思い出せよな。」 深月と継人に言い放つ。 零「参りましたね。何も見つかりません。」 零、頭を掻いて言う。 蝶児「見当違いだったか…。」 純「なかなか良い推理だったと思うだけど…。」 蝶児、純、零、立ち上がって沈黙している。 深月「…これは?」 深月、屋根裏部屋の一角にある壁画に目を移す。 継人「これは三津子様の肖像画ですね。応接室にある肖像画と同じですよ。それに魚座の 間にある肖像画でもありますが…。」 一同、肖像画のある壁に近づく。 零「どうしてこんな所に肖像画があるんでしょうね?」 零、怪訝な表情で肖像画を眺めている。 継人「誰が飾ったのでしょうか?」 純「この裏側はどうかな?」 純、壁画をどかして、裏側を眺める。 蝶児「何も無いな。」 零「関係ないのでしょうか?」 純、壁画を戻す。 継人「しかし何故にこの様な場所に…。」 蝶児「ん?そういえば、隠し部屋の扉といわれても、何処にそんなスペ−スがあるんだ? それを考えれば手っ取り早いだろう?」 蝶児、ひらめいた様に目を見開く。 継人「そうか!そういえばこの館の外装と内装では、不必要なスペ−スで壁に覆われてい る部分が多々ある。この屋根裏部屋で下の階と接しないスペ−スといえば…部屋と部屋の 間だ。」 零「膨大なスペ−スですね。だが、良い線はいっている。探して見ましょう。」 深月「部屋と部屋の間の壁…。」 継人「ん?そういえば…私は時折渡り廊下を歩いている時に、物音を聞いた事がある。あ まり気には止めなかったが…。」 零「それはどの辺りで?」 継人「あまり覚えていないな。その時は常に背後を振り返っていた気がしたが…。」 継人、首を傾げつつ言う。 蝶児「そういえば、オネ−さんと夜中部屋を徘徊していた時も何か音がしたとか…。」 継人「夜中徘徊していた?」 純「い、いいえ!そんな事はしていませんよ!」 純、蝶児の口を塞ぎながら慌しく言う。 零「まあそれは恐らく…隠し部屋を何者かが移動していた時の音でしょうね。」 蝶児「!?」 蝶児、ハッと何かに気づいた様に純を連れて屋根裏部屋の隅に行く。 純「な、何?」 蝶児「純、忘れていたが…お嬢様は確か、一昨日の晩、部屋に居なかったよな?」 蝶児、純に耳打ちして言う。 純「そ、そうだけど…え?まさかお嬢様は…。」 蝶児「アイツ…隠し部屋を知っているとは思えないか?第一、アイツは部屋で睡眠薬を飲 んで寝ていると言っていただろ?」 純「じゃあ、知らない振りをして…演技をしているの?今も?」 純、深月の顔を眺めつつ言う。 蝶児「ああ、アイツは警戒しておけよ。」 継人「何をしているのですか?隠し部屋のてがかりを掴みましたか?」 継人、部屋の片隅にいる蝶児と純に言う。 蝶児「いや、なんでもない。」 深月「本当に隠し部屋なんてものが存在するのですか?段々、真実味が無くなってきてい ませんか?」 深月、ため息交じりに言う。 蝶児「そうかな?俺は絶対に在ると思うぜ。そうなれば、アリバイが崩れてしまう奴だっ て中には居るだろう。」 蝶児、深月の顔を横目で見つつ言う。 零「…隠し部屋への扉か…これだけ探しても見つからないとは…何か秘密があるのかな?」 零、喋りながらも屋根裏部屋を徘徊している。 深月「秘密?」 継人「暗号とか鍵とか?」 零「…星座館…この名前が付けられたのは何故ですか?」 零、深月に言う。 深月「その名の通りですわ。各部屋に星座の名前を付け、その星座をイメ−ジした部屋模 様付けする事で、一風変わった館になる。そう言っていましたわ。」 零「そうですか。じゃあ、きっと隠し部屋は『蛇使い座の間』とでもいうのかな?」 蝶児「『蛇使い座の間』だって?」 零「適当に言っただけだよ。あまり気にしないで欲しいけどね。」 蝶児「いっその事、部屋と部屋の間を壊すか?」 継人「なんですって?そ、それは…。」 継人、慌しい動作で蝶児の言葉に動揺している。 純「そんな乱暴な事をしなくても…。」 純、蝶児に言う。 美枝子「何処に居るの−!蝶児−!純君−!」 屋根裏部屋の下から美枝子の声が響く。 蝶児「屋根裏部屋に居るぞ!何かあったのか?」 蝶児、大声で怒鳴る。 美枝子「そろそろ夕食だそうよ!降りてきてよ!何をしているの貴方達!」 蝶児「何でも無い!」 美枝子「全く!この非常時に!」 美枝子の階段を下る音が聞こえる。 蝶児「ん?」 蝶児、階段を下る音を聞いている。 継人「どうしました?」 蝶児「音を聞いてみろ。何かおかしくないか?」 深月「音?」 音「コ−ン…コ−ン…。」 美枝子の階段を下る音が低く長く響いている。 蝶児「何か空洞がある感じの音だ。それも凄く近い。」 零「ここだ!」 零、床板の1箇所を指差す。 純「壁画の真下?」 純、零が指差す位置を見て言う。 継人「そうか、三津子様の肖像画は、位置を知らせる為の目安だったのか。」 零「どうやって開くのかな?」 零、床板を叩く。音が低く長く響いている。 蝶児「叩き割ったらどうだ?」 衝撃音「ゴキッ!!」 蝶児、床板を殴る。床板は低く鈍い音を立てつつも、全く無傷のまま。 蝶児「痛ェ−ッ!」 零「何か他に方法があるんじゃないかな?」 純「何か音がしませんか?」 音「カチッコチッ…。」 零「ん?なんだろうこの音…よく耳を済ませないと気がつかないね。」 純、零、床板に耳をつけている。 蝶児「時計か?」 零「時間が来たら開くのかな?」 純「なるほど!」 継人「では、昨日平島さんが殺された頃の時間に開くかも…。」 零「そうですね。では、とりあえず夕食を摂りに戻りましょう。」 一同、屋根裏部屋を後にする。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夜)、美枝子、香、京子、遼子、室内の1つのテ −ブルに腰掛けている。勇介、美枝子達のテ−ブルから1番離れた隅のテ−ブルに1人で 着いている。 蝶児「ん?」 蝶児、洋風庭園閲覧室に純と共に入ってきて声を上げる。 蝶児「料理人はどうしたんだ?あんな所に1人で…。」 蝶児、純、美枝子達のテ−ブルに着きつつ問う。 香「いいのよ。放っておきましょうよ。」 香、声を荒げつつ言う。 継人「おや?」 継人、洋風庭園閲覧室に入ってくるなり、勇介を見て声を上げる。 深月「そこに座りましょう。」 深月、洋風庭園閲覧室に継人の後から入り、蝶児達のテ−ブルから1番近いテ− ブルに着く。継人、深月の正面に座る。 零「おやおや、もうそこのテ−ブルは一杯の様ですね。じゃあ僕はそこに腰掛けてもいい ですか?」 零、深月に問う。 深月「構いませんよ。どうぞ。」 零、深月達のテ−ブルに腰掛ける。 深月「じゃあ頂きましょう。」 深月がそう言って後、深月、継人、遼子、京子、零、美枝子、純、料理を口に運 び始める。蝶児、香、勇介、その前にすでに食べ始めている。 蝶児「いいか?この夕食の後、俺は少し屋根裏部屋に用がある。純、お前は双子座の間で 美枝子達と一緒にいろ。」 蝶児、慌しく食事を摂りながら言う。 純「え?僕も行くよ。」 蝶児「駄目だ。お前は美枝子達の傍に居ろ。犯人は夜に活動している可能性が高いんだ。 判ったな?」 純「…判ったよ…。」 純、俯きつつ言う。 蝶児「探偵、アンタは一緒に来るんだろ?」 蝶児、深月達のテ−ブルで食事を摂っている零の方を向く。 零「勿論。」 零、ゆっくりと食事を摂りつつ言う。 継人「私も行ってもいいですか?」 蝶児「別に構わないが、いいのか?お嬢様が1人になっちまうぞ?」 深月「私も行きたいのですが…。」 深月、蝶児の顔を眺めつつ言う。 蝶児「大丈夫か?あまりアンタを連れていきたくはないんだがな。」 深月「何故ですか?」 深月、判らないといった顔を蝶児に向ける。蝶児、周りを見まわす。数人は蝶児 と同じ考えなのか、当然といった顔をしている。継人もその1人である。 蝶児「アンタにとっては、少し辛い状況になるかもしれないからだ。」 深月「…。」 深月、俯いて黙っている。 継人「緑川、今夜はお嬢様と夜を過ごしてはくれないか?」 継人、遼子の顔を眺めつつ言う。 遼子「え、ええ…はい。」 遼子、少し不安げな顔で答える。 勇介「へへ…本当は怖いんだろ?緑川?」 勇介、不敵な笑みを浮かべつつ遼子に言う。 継人「上原!」 継人、敵意の篭った目で勇介を睨む。 深月「ご面倒をおかけしますね。緑川さん。」 遼子「いいえ、気にしないで下さい。私は平気ですから。」 遼子、手を振って答える。 美枝子「隠し部屋なんて本当にあるの?」 蝶児「間違いないだろう。」 純「気を付けてね。」 純、蝶児に言う。蝶児、何も答えずに黙々と食事を口に運ぶ。 6:蛇使い座の間 星座館・3階・渡り廊下(夜)、蝶児、継人、零、屋根裏部屋に通じる梯子の前で 立っている。 零「葵深月さんは?」 零、継人の顔を見て問う。 継人「お嬢様は緑川の部屋、乙女座の間に居る。緑川も一緒だ。」 蝶児「正解だな。もし最悪の場合を考えたら、その場にあのファザコン娘のお嬢様を居さ せられないからな。」 継人、少し怪訝な表情をするが、すぐに元の無表情に戻る。 継人「そろそろ時間では?」 零「そうですね、行きましょう。」 蝶児、継人、零、梯子を上っていく。 継人「まだ開いてはいない様ですね。」 3人、肖像画の前に立って、下の床板を眺めている。 零「時計の音はまだしていますね?」 零、床板に耳を近づけて言う。 蝶児「自動で開くのかな?」 零「判らない。」 継人「ご主人様もここに?」 3人、沈黙する。 蝶児「ああ、もうそれしか考えられない。それに、生きている可能性も少ない気がする。」 零「そうだね。」 3人が会話を交わしている最中、3人が眺めている床板が、約1メ−トルほど音 もなく開く。 蝶児「おお!」 継人「こ、これは!」 3人、開いた床板から、薄汚れた階段を見つける。中は真っ暗である。 零「階段がありますね…懐中電灯を頼りに降りていきましょう。」 零、階段を下る。継人、零の後に続く。蝶児、最後尾から下り始める。 足音「カツ−ン…カツ−ン…カツ−ン…。」 空洞の中を足音が響く。 零「これはどこまで続く階段でしょうか?もう2〜3階分は下っている気がしますが…。」 継人「一体なんの為に作られた隠し通路なんだ?私は今まで知らなかったぞ…。」 継人、辺りをキョロキョロしながら階段を降りている。 蝶児「この階段を下ってる音が、アンタやオネ−さんが聞いた『物音』だったんじゃない のか?」 継人「ではこの通路は…。」 零「部屋と部屋の間のスペ−スを下っているのでしょうね。」 3人、黙々と階段を降り続ける。 零「ん?ここから先は直線通路なのでしょうか?」 零、階段を降りきって先に続く真っ暗の直線通路を懐中電灯で照らす。 継人「もうこの辺りは1階よりも下の筈だが…。」 蝶児「じゃあ地下なんじゃないのか?」 蝶児、左右を見渡して言う。 蝶児「だがこの隠し通路、分岐が全く無いな…このまま行くと、犯人はほぼ卿紅に決まり だが…。」 継人「どうして言い切れるのですか?」 蝶児「オネ−さんが殺された時、ほぼ全員がアリバイ有りだ。卿紅を除いてな。だがもし この通路が何処かの部屋に通じる様であれば、そいつがまず犯人と見ていいだろう。」 零「その通り。僕もさっきから分岐を探しているのですが、全く見つからない。」 継人「それよりも…この通路が何処でお終いなのかが気になるが…。」 零「あ!あれは…扉じゃないですか?」 零、通路の先にある扉を照らしつつ言う。 蝶児「隠し通路に続いて、隠し部屋も見つかったか…。」 3人、扉の前に立つ。扉がカビだらけ、煤だらけで汚れている。 蝶児「…おい…これ見ろよ…『蛇使い座の間』だってよ…。」 蝶児、扉に記されている文字を読み上げる。 継人「蛇使い座の間…そんな間があったなんて…。」 零「開けますよ…。」 零、扉のノブに手を置き、ノブを回す。 蝶児「…。」 ドア「ガチャリ…。」 鈍い音と共に、ドアが開く。 蝶児「うわあ!?」 継人「な、なんだ!!」 零「わあ!?」 蝶児、継人、零、慌ててドアから離れる。開いたドアからおびただしい量の蛇が 溢れ出て来る。様々な種類、大きさ、長さ、の蛇が大量に部屋の中で生息している。 蝶児「な、なんだコリャ!?」 蝶児、部屋からかなり離れた通路まで行き、蛇が追ってこない位置で振り向く。 零「なんて事だ!あれは猛毒の種類の蛇までいるぞ!気を付けるんだ!」 零、慌てて部屋から離れ続けて言う。 物音「ガサッガサガサ…。」 大量の蛇が蝶児達の方に向かってきている。 継人「お、追って来る!」 蝶児「階段まで逃げるんだ!急げ!」 蝶児、走って来た道を行く。零、継人、後に続く。 蝶児「か、階段だ!」 3人、階段を慌ててよじ登る。そのすぐ後に蛇の群れが階段の下に追いつき、不 気味に蠢いている。 零「ハア…ハア…な、なんていう事だ!まさかこんな危険な罠が仕掛けられていたとは…。」 零、階段の上で息を切らしながら蛇の群れを眺めている。 継人「ハッ!あ、あれは…。」 継人、蛇使い座の間があった方向を指差す。 蝶児「卿紅!?」 蝶児、蛇の群れの上で、階段の方に流れ着いてくる卿紅の亡骸を見つける。 継人「ご…ご主人様…。」 継人、蛇に所々噛まれ、大量の血を流し、肉を噛み千切られた跡ばかりの卿紅の 死体を見て絶句している。 零「なんと酷い…ひ、酷すぎる…。」 蝶児「深月を連れてこなくて正解だった様だな…こんな父親の変わり果てた姿を見たら、 アイツ死にかねないからな。」 卿紅の死体が階段の下に流れ着く。 零「ん?あれを見て下さい!死体の首の所!」 零、卿紅の首筋の辺りを指差す。卿紅の死体の首筋に、紫色の注射の跡が残って いる。 蝶児「注射の跡だ。ん?まさか青酸カリを…。」 零「その様ですね…。」 継人「やはり殺人…ですか…。」 蝶児「この蛇使い座の間の先が気になるが…これじゃあ進めないな。」 蝶児、大量の蛇が蠢き、牙を剥き出しにしている姿を階段の上から眺めつつ言う。 零「おかしいですね…。」 零、大量の蛇を眺めつつ言う。 継人「何が?」 零「卿紅氏はどうやって蛇使い座の間に入ったんでしょうか?」 蝶児「ん?そういえば…おかしいな。」 継人「これだけの蛇があの部屋に生息していたのに…。」 蝶児「蛇が居ない時に入ったのか?」 零「それか…また別の入り口から入ったのか…どっちかでしょうね。」 蝶児「別の入り口?」 零「ええ、まだ他にもこの蛇使い座の間に立ち入る事の出来る箇所があるかもしれません。 とりあえずここはもう進めません。引き返しましょう。」 3人、階段を登っていく。 星座館・2階・双子座の間(夜)、美枝子、香、京子、ソファ−に腰掛けて座って いる。 美枝子「蝶児達…大丈夫かな。」 美枝子、紅茶のティ−カップを持ったまま震えている。 香「大丈夫よ。3人もついているんだから…例え1人が犯人だって…。」 京子「犯人…私は…私は絶対に許さない…許さない…。」 京子、眉間に皺を寄せて肩を震わせている。 美枝子「私も許せないわ…絶対にね。」 美枝子、変わらずティ−カップを持ったまま震えている。 香「でも、葵卿紅が本当に犯人かな?どうも…腑に落ちない点が多すぎるのよ。」 美枝子「それは私も感じているわ。でも、犯人ではないにしろ、絶対に何か私達や使用人 の人達にも隠している事がある様な気がするのよね。」 美枝子、ティ−カップをテ−ブルに戻して言う。 京子「どうして…何故…姉さんが殺されたのでしょう…か?」 京子、涙を溢れさせて呟く。 香「絶対に犯人を見つけ出して、土下座させて、謝罪をさせて、警察に突き出してやる。」 美枝子「京子ちゃん…麻衣子さんは気の毒だったけど…何て言っていいのか判らないけど …貴方は1人じゃない!私達は貴方の親友よ。どんな時でも貴方の力になる。だから…元 気を出してね…。」 美枝子、京子の顔を真剣な顔で見つつ言う。 香「そうよ、私だって、京子ちゃんを守ってあげられるわ。元気を出してよ。」 香、京子の肩を優しく抱きつつ言う。 京子「ありがとう…ありがとう…美枝子さん…香さん…。」 京子、涙を拭きつつ、僅かに笑顔を浮かべる。 星座館・2階・乙女座の間(夜)、ちゃぶ台に純、遼子、ベッドに深月、が各々腰 掛けている。 遼子「こ、怖い…。わ、私、夜になるのが怖いんです。」 遼子、頭を抱えてちゃぶ台に前のめりになる。 純「だ、大丈夫ですよ。3人も居れば犯人だって手が出せませんよ。」 純、お茶の入った湯のみを震える手で掴む。 深月「…お父様は…。」 深月、ベッドに腰掛けつつ、項垂れて独り言を呟いている。 ドア「コンコン…。」 純「はい?」 継人「内藤です。開けてもらえませんか?」 遼子「私が開けます。」 遼子、乙女座の間のドアを開く。乙女座の間の前で、継人、零、が立っている。 継人「緑川、ちょっと来てくれないか?」 遼子「え、ええ。」 遼子、渡り廊下に出る。継人、その後、乙女座の間のドアを閉める。 継人「ご主人様が殺されていた。」 遼子「ああ…。」 遼子、卒倒するかの様に、渡り廊下に倒れこむ。 継人「しっかりしろ!いいか?この事を、お嬢様に伝えるべきか、それとも隠しておくべ きか?その判断を君にも仰ごうと思ったのだ。」 継人、遼子の両肩を抱きつつ言う。 遼子「も、もう駄目だわ…きっと…私も殺される…い、嫌…。」 遼子、涙目になりながら呟く。 継人「しっかりするんだ!まだ犯人は判らない。だからこそ、しっかりしなくてはならな いんだ!まだ死にたくはないだろう!」 零「深月さんには、知らせておいた方が良いですね。ショックでしょうが…後々になって 勘付かれるよりはマシなはずです。」 継人「そ、そうだな…。」 ドア「ガチャリ。」 継人、乙女座の間のドアを開き、中に入る。零、混乱している遼子を抱きつつ、 ベッドに運ぶ。 深月「内藤さん!お父様は?」 深月、継人の前に進んで問う。純、呆然と深月と継人を眺めている。 継人「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい。ご主人様は…。」 継人、言葉に詰まる。 深月「…殺されていたのですね?そうなんですね?」 継人「…。」 継人、何も言わずに首を縦に振る。一同、暫く沈黙している。 深月「…そうですか…ご苦労様でした。お父様は何処ですか?」 深月、乙女座の間を出ようとする。 継人「あそこにお嬢様をお連れする訳にはいきません。」 継人、深月が出ようとするのを制する様に、ドアの前に立ち塞がる。 深月「それほどまでに…お父様の遺体は損壊しているのですか?」 継人「…。」 継人、何も言わずに黙っている。 深月「…お父…様…う…う…。」 深月、その場に両膝を着き、片手で口を押えて大粒の涙を零す。 遼子「こ、殺される…だ、誰か…助けて…。」 遼子、うわ言の様に呟き続ける。 零「…大丈夫だ。安心しなさい。」 零、ベッドでうわ言を言い続ける遼子に言う。 純「…誰が…一体誰が…。」 純、呆然と深月の涙を眺めつつ呟く。 星座館・2階・双子座の間(夜)、蝶児、ソファ−に腰掛けて、正面のソファ−に 腰掛けている美枝子、香、京子、と会話を交わしている。 蝶児「…という訳だ。」 蝶児、ティ−カップの紅茶を一気に飲み干して、大きく深呼吸をする。 美枝子「殺されていた…。じゃあ犯人は一体誰…?」 美枝子、唇を噛み締めて言う。 香「でも麻衣子さんが殺された時、アリバイが全員有ったのよ?卿紅以外は…。」 蝶児「ああ、そこに巧妙なトリックがあるんだ。つまり、屋根裏部屋以外の部屋で、『蛇使 い座の間』に通じる通路が在る部屋の住人が、真犯人だ。」 京子「では…姉さんを殺した犯人は…卿紅氏ではなかったのですか?」 蝶児「ああ、卿紅は真犯人に罪を被せられて殺された。真犯人は、恐らく俺達が隠し通路 を発見して、『蛇使い座の間』を見付ける事は出来ない。と、ふんでいただろう。でなくば、 わざわざ卿紅を失踪したかの様な偽装は施さない。」 香「なんて汚い奴なの…ますます許せないわ。」 香、両手をテ−ブルに叩きつけて言う。 蝶児「恐らく、卿紅はオネ−さんが殺される前に、すでに『蛇使い座の間』で殺されてい たんだろう。首には何かを注射された跡が残っていた。それは恐らく…。」 美枝子「青酸カリ?」 蝶児「そうだ。」 一同、息を飲んで沈黙する。 美枝子「私達も…殺されるの?」 蝶児「さあ…な。」 蝶児、紅茶のお代わりをティ−カップに注ぎつつ首を振る。 京子「私達…きっともう犯人と顔を合わせたり…話をしたり…平気でしているんですよ ね?」 蝶児「ん?ああ…そうだろうな。」 京子「きっと犯人は…私達が怖がっている姿や、悲しんでいる姿を見て…笑っているので しょうか?」 香「京子ちゃん…。」 京子「私!どうしたらいいんですか!犯人が憎くて憎くて!もう私…。」 京子、声を荒げて言う。 美枝子「蝶児!どうしたらいいのよ!このままじゃ…皆おかしくなっちゃうわ!」 美枝子、京子の声を掻き消す様に怒鳴る。 蝶児「真犯人を見つけ出すしかないな。そいつがどんな奴かはまだ判らないが、必ず思い っきりぶん殴って、京子、お前に謝らせてやる。」 京子「…そんな位じゃ…。」 蝶児「判ってる。だが、お前が腐ってどうする?お前までもがそいつを殺して復讐したい なんて考えるなら、俺はお前をこの場で縛り上げてしまうだろう。」 美枝子「ちょ、蝶児。」 蝶児「泣き言だったら事件が解決した後でゆっくりと聞いてやる。そして思いっきり泣く んだな。だが、今は犯人を見つけ出す事が先決だ。これ以上の犠牲者を出さない様にする 為にな。」 京子「蝶児…さん。」 蝶児「安心しろ。絶対に犯人は捕まえてやる。そしてさっき言った事をやらせ、罪を償わ せてやる。」 蝶児、京子の顔を真剣な目つきで眺めている。 京子「は…はい。」 京子、ゆっくりと頷く。 美枝子「葵卿紅は犯人じゃなかった…真犯人は誰なのか検討はついているの?」 香「葵深月?」 蝶児「1番怪しいのは確かに葵深月だが…何かがおかしいんだ…。」 美枝子「おかしい?」 蝶児「ああ、ちょっと整理してみたいんだが…。」 蝶児、顎に手をやって考え込む。 蝶児「俺達4人がまず葵深月から葉書をもらってこの館にやってきた。そして後からオネ −さんと京子が同様にやってくる。その日の晩、晩餐会を催し、葵深月に5年前の事件を 聞いたら、アイツは自室に帰った。そして運転手が食堂で死んだ。」 美枝子「…。」 美枝子、香、京子、黙って聞いている。 蝶児「そしてその晩、葵深月が睡眠薬で眠っていると偽りつつ、水瓶座の間に居なかった のはもう判っている。何処に居たのかは不明だ。そして翌朝、葵卿紅が詩堂加美の遺体が 屋根裏部屋から吊るされているのを発見する。ここで、葵卿紅に5年前の事を聞いたら、 葵深月が感情的になり、館に卿紅を連れて戻る。」 香「そういえばそうだったわね。」 蝶児「そして俺と執事が警察を呼ぶ為に下山しようとして、東山零を見付ける。だが、下 山しようにも崖崩れにあっており、警察を呼ぶのもままならない状況だった。館に戻って も、電話線が切られているという事で、外界との連絡手段を断たれる。これも恐らく犯人 が仕組んだ罠だろう。」 美枝子「なんて用意周到な奴なの…。」 蝶児「そしてその晩、屋根裏部屋から襲撃してきた犯人によって…オネ−さんが撃たれた。」 京子「…。」 京子、ビクリとして体を震わせる。が、直後に真剣な眼差しになり、蝶児の話を 聞いている。 蝶児「京子が渡り廊下に飛び出し、助けを呼んだ時、卿紅を除いた全員が渡り廊下に居た。 2階には俺、美枝子、純、香、メイド、探偵、3階には深月、執事、料理人、だったな。 そして蠍座の間に飛び込み、ロ−プを発見したが、犯行に使った様に見せるフェイクだっ た。」 蝶児、紅茶を一気飲みする。 蝶児「それから俺達は、行方不明になった卿紅を捜しつつ、隠し通路を探し始めた。そし て屋根裏部屋から時計仕掛けにより現れる扉を発見し、俺、執事、探偵、の3人で、隠し 通路に潜入、通路の果てにあった部屋『蛇使い座の間』で大量に生息していた蛇の群れの 中で無惨に殺されていた卿紅を発見した。」 香「…蛇…か。」 蝶児「とまあこんな感じだな。」 美枝子「大事な事が抜けてたわよ。葵卿紅は仮病を使っていた。そしてその事に気付いて いたのは、少なくとも詩堂さん。」 蝶児「ああ、だがもう2人とも殺されちまったがな。何か関係があったかどうかは知らな いが…。」 美枝子「でも肝心の犯人の動機がさっぱり判らないわね。どうして私達が呼ばれたのか? どうして卿紅は病を偽っていたのかしら?三津子ってどんな人?そしてどうして麻衣子さ んが殺されなくてはならなかったの?」 蝶児「判らん。4人も殺された今でも、全く犯人の目的は見えてこない。」 蝶児、美枝子、香、京子、黙って俯いている。 京子「葵深月さんは…何かを隠している様な気がしてなりません。あの人の行動には、説 明出来ない事が多すぎます。」 美枝子「そうね…あの人…何かを隠してる。」 美枝子、紅茶を啜る。 香「水瓶座の間にも隠し通路の扉はあるの?」 蝶児「ん?」 香「隠し通路が水瓶座の間にもあるんだったら、彼女が犯人よね?」 蝶児「…そうなるかな?だが調べるにしても、同じ仕掛けで扉が現れるのであれば、全て 調べるにしても時間がかかり過ぎるな…。」 美枝子「…。」 一同、再び黙り込む。 星座館・3階・天秤座の間(夜)、勇介、ベッドに横になりつつウイスキ−を飲ん でいる。天秤座の間の窓は、網戸で完全に塞がれている。 勇介「ご主人様まで殺されたのか…『蛇使い座の間』まで見付かった様だが…なんだって んだ!俺達は5年も居てそんな知らない部屋まであったってか!」 ドア「コンコン…。」 勇介「ん?」 勇介、天秤座の間のドアに千鳥足で近づく。 勇介「誰だ?」 継人「内藤だ。ここを開けろ。」 ドア「ガチャリ。」 勇介、ドアを開く。継人、天秤座の間に入る。 継人「もう危険だ。お前1人で3階に居座る事になっているんだぞ。」 勇介「1人で部屋に閉じ篭っていれば安全だろ?」 継人「どうだかな。」 継人、ソファ−に腰掛ける。 継人「もう犯人がどう等と言っていられる状況ではない。4人の人間が犠牲者となってし まった。しかもご主人様を含めた…。」 勇介「しかも『蛇使い座の間』とかいう部屋で殺されたんだってな。そんな隠し部屋は知 らなかったぜ。ご主人様はどうしてそんな部屋で殺されていたんだ?」 継人「ご主人様は知っていらっしゃったのかもしれないな…。」 勇介「そうだろう。それにあの寝たきりだった話も実は嘘だった。あのご主人様も何かと 秘密が多かった様だしな。」 勇介、ウイスキ−の瓶を飲み干し、瓶を戸棚に乗せる。 勇介「犯人はもうお嬢様で決まりだろう。アンタも気を付けな。」 継人「…。」 継人、手を組み合わせたまま、ソファ−で俯いている。 勇介「どうした?自己主張も出来なくなったのか?さすがのアンタもお嬢様を庇いきれな くなって来たのか?」 継人「お嬢様には、確かに説明出来ない事が多すぎるのだ…。だが、例えお嬢様が犯人で あろうと…私はお嬢様を助けるであろうな…。」 勇介「ふ〜ん…それはアンタが罪を被る?という事なのか?」 継人「…。」 勇介「まあいいや。どのみち俺には関係ない話だ。俺はこの天秤座の間から離れない。誰 がなんといおうとここに居る。話が済んだら出ていってくれよ。」 継人、天秤座の間を出る。 星座館・2階・乙女座の間(夜)、遼子、ベッドに包まって震えている。深月、両 膝を着いたまま、壁に寄りかかっている。零、純、ちゃぶ台の前で座っている。 零「…如月君、この状況になってしまっては、もう3人以上の人間が1部屋で眠らなくて は危険だ。」 零、紅茶を啜りつつ純に言う。 純「…そうですね…今、4人で居ても…ドアの向こうで犯人が聞き耳立てているんじゃな いかと…不安です。」 純、震える手で湯呑みを持ちつつ言う。 遼子「た…助けて…か、神様…。」 遼子、ベッドに包まりつつも、震える声で呟く。 深月「…。」 深月、何も言わずに虚ろな目で天井を見上げている。 零「…2人共もうショック状態に陥っている。生半可な事では正常な状態には戻れないだ ろう…。さっき内藤さんが、3階に居る上原さんにこの部屋へ来る様にお願いしたんだ。 彼が戻ってきたら君にこの旨を友人達にも知らせて欲しいんだ。」 純「判りました。」 零「犯人が誰か判らないが…この館に居るのは私達だけなんだ…。この事を忘れないでく れ。」 純「…。」 純、俯いて頷く。零、深月と遼子に交互に視線を送りつつ、紅茶を啜る。 ドア「コンコン。」 零「誰ですか?」 継人「内藤です。」 ドア「ガチャリ。」 零、乙女座の間のドアを開く。継人、乙女座の間に入ってくる。 零「上原さんはどうしました?」 継人「駄目だ…もうあの男は天秤座の間から出ない。と言ってきかない。」 零「…そうですか…。」 継人、落ち着いた感じでちゃぶ台の前に座る。 継人「私にも何か…温かい飲み物を頂けますか?」 純「え、ええ。」 純、湯呑みにお茶を入れる。継人、お茶を飲み、大きく深呼吸をする。 継人「どうしましょうか…。これから…。」 零「警察が来るまで、これ以上の犠牲者を出さない様にするんです。」 純「警察…でも電話は…。」 零「始めに連絡を入れたんでしょう?でしたら、鬼渡り山の岩山の撤去作業が済み次第、 必ず来る筈です。」 継人「…犯人は…やはりこの館にいる誰かなのでしょうか?」 零「…。」 乙女座の間に居る全員が黙り込む。継人、天井を呆然と見上げている深月に視線 を送り、俯く。 継人「…我々は…助かるのでしょうか?」 零「何を言っているんですか?」 継人「この星座館で…人が死んでいくのは…昔からなのだそうです。」 純「え?」 継人「鬼渡り山は、あの世に足を運んでいく死者を、渡らせる為の山…いわば、あの世と この世の結び目の役割を果たす山だそうです。鬼が渡る山…つまり鬼渡り山です。」 零「…。」 継人「死者が全て鬼である訳ではありません…鬼とは報われない死者…つまり、この世に 未練を残して死ぬ者を指すのです。星座館は…鬼が集合する為の館とも言われました…。 無論、高いお給料を頂いていた当時は、そんな戯言に耳を貸した使用人はいませんでした が…。」 純「鬼…。」 継人「星座館に煌く星は…死者があの世に渡った際に変化したものだと…確か誰かが言っ ていましたね…。」 継人、視線を深月に移す。そして哀れみを込めた目で深月を見る。 継人「そう…お嬢様…貴方が私に…話してくれましたね。」 零「!?」 純、零、深月に視線を送る。深月、変わらず視線を天井に向けている。 継人「お嬢様…貴方が犯人ですね。」 深月「…。」 深月、視線が全く天井から離れない。 継人「葉書の件にしてもそうでした。私が山を降りて出しましたが…私は内容をこっそり と読んでしまいました。私は貴方のきまぐれだとばかり思っていましたが…実際にこの様 な結果になりました…。お嬢様、何故に…人を殺したのですか?」 零「…。」 継人「人を殺す様なお方ではなかった…。貴方は誰よりも人に優しく出来る、本当に素晴 らしい女性でした…。それが…何故です。」 深月「…。」 深月、話を聞いていないかの様に、天井を眺め続ける。 継人「お嬢様…貴方が母親を失った時のショックが…また再現してしまったのですね。無 理もありません、ご主人様までもが、星となってしまったのですから…。」 深月「…星…。」 深月、そう呟き、視線を継人に移す。 継人「貴方の母も、父も、そして今村、詩堂、関係の無かった平島さんまでも…。貴方が 手をかけてしまわれたのです。何故なのです…。」 零「待ちなさい内藤さん、何故、葵深月さんが犯人だと言い切れるのですか?」 継人「私は見たのです…お嬢様がかつて…自分の母親を殺したその様を…。」 純「な、なんだって?」 純、目を見開いて継人の顔を見る。 継人「5年前のあの日、お嬢様のグラスにはワインが注がれていた。そして葵三津子様、 お嬢様のお母様のグラスにも、ワインが注がれていた。ろうそくを消したあの瞬間、お嬢 様は三津子様のグラスと自分のグラスを取り替えたのです。」 深月「…。」 継人「三津子様は…そのグラスのワインを飲み…他界されました。」 深月「黙りなさい…。」 継人、深月に鋭い視線を送る。 継人「貴方は、さも母親に執心しているかの様に母親に寄り添い、今わの際を連れ添いま したが、それは演技だったのですね。自分が殺した事を隠す為の…。」 深月「黙りなさいと言っているのです!!」 深月、壁から離れ、継人に歩み寄る。 衝撃音「パシン!!」 深月、継人の頬を叩く。 深月「私は誰も殺したりはしません!!」 継人「嘘です!私はあのろうそくが消えた暗闇の中で、グラスを取り換える手を見たので す!」 深月「どうしてその様な嘘をおっしゃるの?貴方、気が触れたのですか?」 継人「お嬢様…貴方が犯人なのでしたら…私が貴方を星に変え、私も星になりましょう…。」 深月「ハッ!」 深月、継人から飛びのいて離れる。継人の片手にナイフが握られている。 零「な、内藤さん!」 純「ワッ!」 遼子「え…キャ−ッ!」 遼子、ベッドから顔を出して、継人を見るなり大きな悲鳴を上げる。 継人「私には…お嬢様が牢屋の中で過ごさなければならないなど…耐えられません。これ 以上、貴方のきまぐれで人が殺されるのは…もう良心が許さないのです…。」 継人、ナイフを深月に向けて歩み寄る。 深月「わ…私は殺してない…。」 零「止めるんだ!」 零、継人に飛び掛る。 継人「は、離せ!」 継人、零、お互いにもつれ合ったまま絨毯を転がる。何度かお互いの体が上下に なって、壁にぶつかる。 零「グッ!」 零の左肩にナイフが突き刺さり、鮮血がほとばしる。継人、零の上になってナイ フを引き抜こうとする。 継人「邪魔を…するなぁ。」 継人、ナイフを引き抜こうとするが、零、両手でナイフを掴んでいる。 零「や、止めろ…止めるんだ!」 衝撃音「ガン!」 継人「ウワッ!」 純、継人の頭にポットを叩きつける。 継人「う…うう…。」 衝撃音「バキッ!」 零「グアッ!」 継人、拳で零の顔面を殴る。零、一瞬のひるみを見せ、その隙にナイフを放す。 継人、頭から血を流しながらもナイフを持って深月に襲いかかる。 遼子「だ、駄目−ッ!」 遼子、ベッドから継人めがけてタックルする。遼子、絨毯に転がる。継人、一瞬 グラリとするが、すぐに体勢を立て直す。 純「エイ!」 衝撃音「ドガッ!」 純、背後から継人の頭めがけてちゃぶ台をぶつける。 継人「…。」 物音「バタリ…。」 継人、ナイフを握ったまま顔から絨毯に倒れこむ。深月、窓際で怯えたまま、両 膝をゆっくりと着く。 零「う…うう…だ、大丈夫…ですか?緑川さん?」 遼子「な…なんとか…。」 遼子、怯えた目で継人を見つつ言う。 純「な、何言ってるんですか?東山さんの肩!?」 純、零の左肩を指して言う。零の左肩から血が流れている。 零「大丈夫だよ。出血の量は大した事はない。それより…。」 零、深月の方に視線を移す。深月、壁に背をつけ、両膝を着いたまま、倒れてい る継人を見ている。 零「葵さん、貴方は…犯人ではないのですね?」 深月「…私ではありません。」 零「では何故、内藤さんはここまで貴方を?」 深月「…私は…ただ…人が見たかっただけです。私を救ってくれそうな…人を。」 零「…。」 遼子「お嬢様…大丈夫ですか?」 遼子、深月の傍に這い寄って問う。 純「こ、この人…どうしましょう?」 純、倒れたまま動かない継人を見つつ言う。 零「仕方が無い。彼はロ−プで拘束しておこう。かなり精神的に追い詰められている様だ。 それより如月君、君は強いんだな。驚いたよ。」 純「え?そ、そんな…。」 零「その強さを見こんで頼みがあるんだ。僕が蠍座の間から包帯を取ってくるまで、この 部屋で葵さんと緑川さんを頼む。」 純「ええ…。」 零、左肩を押えたまま、乙女座の間を出る。 7:崩壊の始まり 星座館・2階・双子座の間(夜)、香、京子、ソファ−に腰掛けている。美枝子、 ベッドで眠っている。蝶児、絨毯に寝転がり、毛布に包まって眠っている。 京子「何か…悲鳴みたいな声でしたよね?」 京子、香に言う。 香「そうね…確かに聞こえたよね?」 香、ゴクリと息を呑んで言う。 京子「…岩崎さんを起こしましょうか?」 京子、絨毯で眠っている蝶児を見る。 香「…どうしようかな…。」 香、首に手をやって考えている。 京子「でも…如月さんが乙女座の間に…。」 香「アイツは大丈夫よ。だって他にも沢山居る筈でしょ?あの乙女座の間には…。」 京子「そういえば…そうでした…。」 香「もう少し様子を見ようよ。下手に動いたら…。」 京子「…。」 香、京子、ソファ−に腰掛けたまま、物音を逃さない様に黙っている。 物音「キシリ…キシリ…。」 京子「ハッ!」 香「…。」 香、京子、物音がするのを聞いて顔を見合わせる。 香「聞こえた?」 京子「ええ…それも…この部屋で…。」 物音「キシリ…キシリ…。」 香「な、何なのよ?この音は?」 物音「キシリ…キシリ…。」 京子「う、上から?」 香、京子、天井を見上げる。天井から埃が零れてくる。 香「な、何?天井が…。」 京子「か、香さん、天井が抜けそうですよ!?」 香「ちょ、蝶児!美枝子!起きて!は、早く!」 香、蝶児の頭を蹴飛ばす。京子、ベッドに駆け寄り、美枝子を起こす。 蝶児「痛てェ!!」 美枝子「ど、どうしたの?」 香、蝶児の耳を引っ張りドアから慌てて出る。美枝子、京子に腕を掴まれ、渡り 廊下に走る。 蝶児「この野郎!?」 蝶児、香の胸倉を掴む。 香「待ってよ!これを見てよ!」 美枝子「え?」 4人、双子座の間の天井を、渡り廊下から見る。天井の真中辺りが大きく楕円形 にへこんでおり、浮き出ている。 物音「キシリ…キシリキシリ…ギシリギシリギシリ。」 蝶児「天井が抜けるぞ!」 倒壊音「ガッシャ−ン!」 凄まじい音と共に、双子座の間に上の部屋が落ちてきて、双子座の間が消滅する。 美枝子「え…ええ…?」 美枝子、両目を見開いて瓦礫の山となった双子座の間の跡を眺めている。 香「あと少し遅かったら…。」 京子「こ、こんな事って…。」 蝶児「…。」 4人、呆然として渡り廊下に立ち尽くしている。 零「どうした?何が起こったんです!」 零、渡り廊下から走ってくる。 蝶児「探偵!見ろ!双子座の間がなくなった!」 零「…こ、これは…。」 零、双子座の間の残骸を見て言葉を失っている。 美枝子「そ、その包帯は?」 美枝子、零の肩を見て言う。 零「話せば長くなります。そうですね…とりあえず私と一緒に乙女座の間に行きましょう か。しかし…こんな事まで…。」 零、首を振って渡り廊下を歩いていく。4人、後を続く。 蝶児「しかし…天井が抜けるか?普通…。」 蝶児、呆然と双子座の間の残骸を振り返りながら呟く。 香「本当にあと少しで私達、圧死していた所だったのよ…。」 京子「…危ない所でした…。」 香、京子、互いの顔を見合わせつつため息を付く。 美枝子「…どうなってたの?」 美枝子、両目を一生懸命擦りながら蝶児に問う。 蝶児「知らん、俺も寝たいたんだ。」 香「見ての通りよ。天井が抜けたのよ…。」 零「突然ですか?」 京子「いいえ、何か…キシリキシリと物音が聞こえてから…。」 京子、頭を抱えつつ言う。 零「部屋で聞きましょう。」 零、乙女座の間のドアをノックする。 純「東山さんですか?」 乙女座の間のドアの向こうから、純の声がする。 零「そうです。開けて下さい。」 ドア「ガチャリ。」 乙女座の間のドアが開かれ、一同が乙女座の間に入る。 蝶児「この部屋も変わったデザインだな…裸婦か?」 蝶児、部屋の4隅に配置されている裸身の女性の像を見て言う。 美枝子「変態。」 美枝子、蝶児に軽蔑の眼差しを送る。 香「あれ?どうして執事が縛られているの?」 香、部屋の中央で、頭に包帯を巻き、体をロ−プで結ばれて気絶している継人を 不思議そうに眺めている。 純「この人、暴れたんだ。精神的に参っているみたいだけど…。」 京子「あんなに冷静に事を構えていた人が…ですか?」 遼子「…もう落ち着いていると思うんですけど…でも…。」 遼子、心配そうな目で深月を見る。 深月「…。」 深月、何も言わずに絨毯に視線を送ったまま、壁に寄り添って座っている。 蝶児「執事が犯人なのか?」 零「判りません。ですが、今はこの人を解放出来ません。」 美枝子「一体どうなっているのかしら?私、寝惚けているの?」 美枝子、自分の頬を軽く叩きながら言う。 純「それよりどうして皆がここに?」 純、呆然とドアの入り口で立っている4人を見て言う。 蝶児「双子座の間が無くなったからだ。」 純「え?」 純、判らないといった表情で、蝶児の顔を見返す。 蝶児「だから!双子座の間が無くなったんだよ!」 蝶児、イライラした様子で純の顔を見返す。 香「もう!説明にならないでしょう!双子座の間に、天井が落ちてきて、部屋が倒壊しち ゃったのよ!」 遼子「て、天井が落ちた!?」 遼子、呆然と両目を見開いて香の顔を眺めている。 京子「ええ、嘘に聞こえると思うのですが…本当なんです。天井が落ちてきたんです。」 蝶児「俺達もまとめて殺されかけたんだよ。」 純「…そ、そんな…。」 純、ゆらゆらと立ち上がっていた状態から、ちゃぶ台の前に腰を着く。 香「今頃腰が抜けたの?本当に臆病ねぇ〜。」 香、純から視線を外してため息を付く。 零「もうこの部屋に閉じ篭る事自体も…安全とは言い難いですね…。」 遼子「そ、そんな…ど、何処に逃げたら良いの…。」 蝶児「そういえば…料理人はどうした?」 零「内藤さんが正気だった頃に言っていましたが…自室で閉じ篭っている。と…。」 蝶児「そんな勝手は許せないな。それとも、アイツが犯人なのか?」 零「判りません。」 美枝子「そういえば…3階の部屋が私達が居た双子座の間に落ちてきたのよね?じゃあ… 一体どの部屋が…。」 一同、ハッとして美枝子の顔を見る。 蝶児「おい…双子座の間の真上の部屋って…何処だ?」 蝶児、遼子の方に視線を送って問う。他の者は皆、遼子の答えを待つかの様に、 遼子の顔を凝視している。 遼子「双子座の間の真上の部屋は…天秤座の間ですね…アッ!!」 遼子、ブルリと全身を震わせて天井を見上げる。 蝶児「お、おい!純、ついて来い!!」 蝶児、乙女座の間を飛び出す。慌てて純が後を追いかける。 香「ま、まさか…今回もまた…人が死んだの?」 京子「ひ、酷い…。」 京子、頭を押えて両膝を絨毯に着く。 星座館・2階・双子座の間(夜)、蝶児、純、瓦礫の山が渦巻く双子座の間の前で、 呆然と立ち尽くしている。 蝶児「もしかしたら…この瓦礫の中で、料理人が…。」 蝶児、瓦礫の山に足を踏み入れる。 純「だ、大丈夫?まだ崩れるかも…。」 純、蝶児の状態を見つつ言う。 蝶児「まだ生きているかもしれないんだぞ?放っておけるか!」 蝶児、瓦礫を1つ1つどかしていく。 純「…。」 純、瓦礫の山に足を踏み入れ、瓦礫をどかし始める。 零「はあ…はあ…。」 零、渡り廊下を走ってきて双子座の間のドアの前に立つ。 零「3階にも…すでに天秤座の間は無かった…この双子座の間に落ちてしまったんだ…は あ…はあ…きっと上原さんはここに…。」 蝶児「捜すんだ!まだ死んだと決まった訳じゃない!」 蝶児、必死に瓦礫をどかしていく。 純「こ、こんなに…瓦礫が…。」 蝶児「泣き言をほざく暇があったら瓦礫をどかせ!」 零「僕も手伝おう!」 零、片手で瓦礫をどかしながら言う。 純「あ!ああ…。」 純、どかした瓦礫の下から、人間の血まみれの手を見つける。 蝶児「…。」 蝶児、手が見えた辺りの瓦礫をどかしていく。 零「上原さん…。」 零、蝶児の傍で瓦礫をどかしていく。 蝶児「…駄目か。」 蝶児、どかした瓦礫の下から勇介の血まみれの顔を見つけ、言葉を失う。 零「…。」 零、勇介の首に指をあてがう。 零「…死んでいる…。」 純「…酷いよ…。」 蝶児「…何か…証拠を探そう。」 3人、俯き、黙って瓦礫をどかしていく。 星座館・2階・乙女座の間(夜)、美枝子、純、香、京子、ちゃぶ台の前で座って いる。深月、ベッドで眠っている。遼子、ベッドの傍で方膝を着いて、深月の様子を心配 そうに伺っている。継人、窓際の壁で縛られたまま気を失っている。 香「料理人が…殺されたの…?」 香、ちゃぶ台に両手を組んだ手を置いたまま、震えている。 美枝子「…でも…どうやって天井を抜けさせたのかしら…漠然とし過ぎて…。」 美枝子、茫然自失といった顔で天井を見上げている。 遼子「お嬢様…大丈夫ですか…。」 遼子、深月に問い掛ける。 深月「…上原さんも…死んだ。星になったのですね…。」 深月、天井を見上げたまま呟いている。 京子「…このちゃぶ台…へこんでいませんか?」 純「あ…それは…。」 純、赤面しつつ俯いている。 継人「う…うう…。」 継人、薄らと両目を開いて周りを見まわす。 遼子「あ…。」 深月「…。」 深月、遼子、ビクッと体を震わせて継人に視線を送る。 継人「わ、私は…一体…。」 純「気がつきましたか?」 継人「お客様?わ、私は…ハッ!」 継人、視線を純から深月に移す。 香「お嬢様を襲ったんだってね?早とちりしたものじゃない。あんだけ庇ってきたのにね。」 香、ため息交じりに継人を見る。 継人「私を拘束したのか…当然の処置かな…。」 継人、俯いてロ−プを眺めている。 香「そうね…これでアンタが犯人だったらもう殺人事件は解決するんだけどね。」 継人「私が犯人ですと?それは見当違いの考え方ですね。」 香「でももう立派に殺人未遂を起こしたんでしょう?刑務所行きは決定よね?」 継人「…。」 継人、唇を噛み締めて黙っている。 香「でもまあ、これで事件が起ころうものならば、アンタは犯人枠から外れるんだけどね。」 継人「私は違います。」 香「だから!今は信用出来ないのよ!」 深月「内藤さんは犯人ではありません。」 香「はあ?」 一同、驚いた表情で深月の顔を見る。 京子「な、何を言っているのですか?」 香「アンタ…この男に殺されかけたのよ?」 深月「それは私が犯人だと内藤さんが思っていたからです。ですが、内藤さんが犯人では ない事は私がよく知っています。」 香「どうして?」 深月「内藤さんは…私を悲しませる様な事はしませんから…お父様を殺したりはしませ ん。」 香「…何言っているのよ!夢見がちな性格もここまでくるとおめでたいわね!」 香、深月に歩み寄る。 遼子「ら、乱暴な事は…お止め下さい!キャアッ!」 遼子、香にどかされて絨毯に吹き飛ぶ。 香「ねえ?いい?」 香、深月の胸倉を掴んで、深月を自分に引き寄せる。 深月「な、何を…。」 深月、怯えた目で香の顔を見る。 香「貴方もこの館に居る以上、命が危険に晒されているのよ?判ってる?私達はね、アン タのせいでこの館に来させられて、そして…麻衣子さんを失ってしまったのよ!でも…そ んな事を関係なしで、懸命に事件を解決しようとしている蝶児や純を見て、アンタはいつ までそんなお嬢様気取りでいる気なのよ!いい加減にしてよね!」 香、深月をベッドに跳ね飛ばす。 深月「…。」 深月、ベッドに倒されつつ、怯えた目で香の顔を眺め続けている。 香「はあはあ…全くもう!」 香、ちゃぶ台の上に座る。 遼子「お、お嬢様…大丈夫ですか?」 遼子、深月に駆け寄る。 深月「…大丈夫です…。」 深月、何度も頷きながら答える。 純「お、落ち着いて…香ちゃん。」 純、うろたえながら香の肩を持つ。 香「うるさいわね…判ってるわよ。」 香、純の手を振り払う。 深月「…私は決して…夢見がちなただの女性ではありません。絶対に…。」 香「まだ言う気?」 香、鋭い視線を深月に送る。 深月「私はこの星座館で、それほど温室育ちで育った訳ではありません。栗原さん、貴方 になら、私の気持ちが判って頂けると思ったのです。」 京子「…。」 深月「貴方は昔の私の様で…そして岩崎さん、水無月さん、如月さん、三嶋さんには、私 が求めているものを持っている。そしてそれを『霧山荘事件』で勝ち取ったのです。貴方 達は勝者なのです。」 美枝子「…。」 深月「私が今回貴方達を招待したのは、それなりに理由がありました。決して好奇心から やきまぐれからではありません。それに、私がお父様からお客様を招待する許しを頂ける まで、5年もかかったのです。」 深月、俯いて話す。 深月「私は…お母様を失って、すぐにでもこの星座館を離れたかった。自由になりたかっ た。ですが、私はお父様の寵愛を受けて育った為、許しては貰えなかった。この星座館か ら出る事は許されなかったのです。この星座館も私の好きな星をモチ−フに設計された様 なものでした。少しでも私が下界の事を忘れる為と称して。」 京子「昔の…私…。」 深月「お父様が病を患っている振りをしたのは、きっと私に星座館当主を勤めさせ、私の 自由をより奪う為だったのでしょう…。私は日々、悔しさと惨めさを噛み締めながらこの 館に留まり続けました。いつか…きっといつか自由になれる日が来ると信じて…。」 純「…。」 深月「私は半年前の新聞に掲載された記事に、強く感銘を受けました。『霧山荘事件』です。 そして栗原京子さん、そして貴方達に…。」 深月、美枝子・純・香・京子の顔を羨ましげに眺める。 深月「この人達を何としても…私に会って欲しかった。この人達なら、私を救ってくれる。 そう信じたのです。この人達こそ、私を星座館から、鬼渡り山から解き放ってくれる。と …そう信じ込んでから、私は必死にお父様に懇願しました。この人達を当館に招待したい。 と。」 遼子「…。」 遼子、深月の言葉を受け止めつつ、深月の顔を悲しげに眺めている。 深月「私がお父様から許可をもらったのは、半年後です。それまで、私は気が狂っている かの様な振舞いを続けてきました。お父様に精神がおかしくなって、下界に行く筈がない。 と信じ込ませる為に…。そう、まるで夢見がちなお嬢様を…演じていたのです。」 香「…。」 香、頭を掻いて表情を曇らせる。 深月「ですが…確かに私は自由になりたかった。人の力を借りてでも…ですが…私もお父 様を愛していました。たった1人の肉親として…そのお父様を殺してまでも、自由が欲し かった訳ではありません。」 深月、目に涙を溜めつつ、弱々しい声で言う。 美枝子「…もういいです。」 香「じゃあどうして殺人が起きたの?まるでアンタの良い様な方向に向かっている気がす るんだけどね…今の話を聞いた後だと…。」 深月「そう思われても仕方がありませんが…。」 純「貴方の言っている事は本当ですか?」 深月「え?」 深月、涙を拭いて純の顔を見る。 純「僕は知っているんです。貴方が最初に僕達が訪れた夜に、つまり運転手が死んだ夜、 貴方が水瓶座の間で眠っていると偽り、何処かに行っていた事を…。」 深月「…。」 純「貴方の身の潔白を証明するのであれば、あの時、何処に行っていたのかを教えてくれ ますか?」 深月「…言えません。」 純「じゃあ、詩堂さんから貰った睡眠薬は飲んだんですか?」 深月「…いいえ。」 純「どうして嘘を言ったりしたんですか?」 深月「…言えません。ですが、私は犯人ではありません。」 純「どうして言えないんです?」 深月「お許し下さい…言えません。」 深月、深く頭を下げたまま黙り込む。一同、深月の顔を凝視している。 継人「もう…お嬢様を堪忍してあげて下さい。」 継人、全身を縛られつつも純に向かって言う。 継人「お嬢様、貴方はもう自由なのです。この星座館を閉館して、鬼渡り山を降り、下界 で生活する事も許されます。貴方には、もうご主人様の呪縛は無くなったのです。」 深月「内藤さん…。」 純「…。」 純、俯いて黙る。 香「水瓶座の間を見せてもらってイイ?」 香、深月の顔を見つつ問う。 深月「…構いません。」 深月、コクリと頷く。 香「純、行くわよ。」 純「うん。」 純、香、乙女座の間を出る。 美枝子「…葵…さん?」 深月「…はい。」 深月、美枝子の顔に視線を移す。 美枝子「貴方は…自由になりたいなりたいと言っていたけど…その為になら、他人は犠牲 になってもイイ。と思っているの?」 深月「…いいえ。」 美枝子「じゃあ、5年前の事件について詳しく話してくれませんか?その話を詳しく教え て下されば、きっとこの事件も解決すると思うのです。」 深月「5年前の…。」 美枝子「そうです…特に…貴方のお母さん、三津子さんが今わの際に何を貴方に言ったの か…を。」 一同、静まり返り、深月の顔を眺めている。 深月「お母様は…最後に私に…こう仰ったのです。『卿紅から…お逃げなさい。』と。」 美枝子「葵卿紅から?」 京子「でも…葵卿紅はもうすでに…。」 深月「お母様は、きっと私がお父様に過度の寵愛振りに自由を奪われると思っていたので しょう。」 美枝子「何故ですか?」 深月「お父様のあの寵愛振りを見て、きっと後悔していたのでしょうね。」 遼子「後悔?」 深月「お父様がどうしてあれほどの寵愛振りを私に示したのか…それには理由があるそう なのです。ですが、私にはその理由は結局知らずじまいでした…。その理由を知っている のは、お父様とお母様の2人でしたから…。きっともう2度と知る事は叶いませんが…。」 美枝子「寵愛していた理由…。」 京子「葵三津子さんという方は、どの様な方だったのですか?」 深月「私のお母様は、本当に優しい方でした。さっきもお話しましたが、お母様を失って から、私の性格を大きく変える事変になった事は言うまでもありません。元々、お母様は 大財閥の娘でもなく普通の家の出でした。それゆえに私の今の生活を不憫に思っていたの でしょう。ですが何故か、お父様と楽しく会話を交わしていた事など、私の記憶にはあり ませんでした。」 継人「そんな…過去が…あったのですか。」 継人、深月の話を聞いているうちに、俯き加減が大きくなっていく。 深月「内藤さん、今、考えれば貴方には色々と騙していた事が多かったのですね。お許し 下さい。」 継人「いいのです…。」 遼子「奥様は…お嬢様にとっては唯一の理解者だったのですか?」 遼子、遠慮がちに深月に問う。 深月「そうですね…私にとっては、お母様の存在が大きな要素を占めていました。」 美枝子「…。」 美枝子、黙って深月の顔を眺めている。 星座館・2階・牡羊座の間(夜)、蝶児、純、零、ドア付近の部屋の片隅で腰掛け ている。 蝶児「料理人までもが殺された。これで犯人はだいぶ絞られてくるんじゃないのか?」 蝶児、零の顔を見て言う。 零「この星座館に残る人間は、葵深月、内藤継人、緑川遼子だ。だがこの3人、いずれも 5年前の事件で容疑者にあがった人間なのだが…僕はもうこの事件の犯人は葵深月しかい ないと思っているんですよ。」 純「なんですって?」 零「さっき内藤さんが言ったんです。『5年前のあの日、私は暗闇の中でグラスを取り換え た手を見た。』と…。」 蝶児「とゆう事は…。」 零「確か、三津子さんの隣に席を構えていたのは葵深月と内藤継人です。その内藤の証言 が確かならば、犯人は葵深月。彼女は5年前、自分の母親を惨殺している。」 純「あの…お嬢様が?」 零「とにかく、葵深月には気を付けて下さい。そろそろ乙女座の間に戻りましょう。」 3人、牡羊座の間を出る。 蝶児「こうなった以上、もう各部屋に残るのも決して安全とはいえないんだよな…。」 蝶児、渡り廊下の先頭を歩きつつ言う。 純「じゃあ…一体何処に行けば…。」 純、蝶児の後ろを歩きながら呟く。 零「そうですね…1階の洋風庭園閲覧室か…応接間にとりあえず避難した方がいいです ね。」 零、乙女座の間のドアをノックする。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夜)、蝶児、美枝子、純、香、京子、室内のテ− ブルの一角に着いている。深月、遼子、蝶児達の隣のテ−ブルに着いている。継人、縛ら れつつも1人、離れたテ−ブルに着いている。零、洋風庭園閲覧室の中央で立っている。 零「残った人数は私を含めて9人…そして警察がこの星座館に足を踏み入れると考えられ るのは恐らく…あと1〜2日と考えて良いでしょう。」 遼子「本当に…本当に警察が来てくれるんですか?」 遼子、不安げに零の顔を眺めつつ言う。 零「…きっと来ます。」 零、遼子の顔を見ない様に答える。 蝶児「警察が来るまで、どうやってこれ以上の犠牲者を出さない様にして生き延びるか? それが第一だな。」 蝶児、時計を眺めつつ言う。 零「今は夜中の2時です。皆さん、きっともうそろそろ眠くなって当然です。」 深月「そうですね。そろそろ眠いのですが…そんな状況ではありませんから。」 香「この…。」 香、キッと深月の顔を睨みつける。深月、香の視線に気付かずに零の顔を眺めて いる。 零「眠るのは交代制にしましょう。しかもこの洋風庭園閲覧室で固まって眠れば、きっと 犯人がこの中に居ようと、手は出せないでしょう。」 美枝子「ここで…犯人がいるかもしれないのに…。」 美枝子、俯いて呟く。 深月「その前に…喉が酷く乾いているのですが…何か頂けますか?」 深月、遼子の顔を見て言う。 遼子「え、ええ…じゃあ私が厨房に行って何か飲み物を…。」 遼子、全身を震わせつつ立ち上がり、渡り廊下に行く。 香「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!緑川さん1人で厨房まで行かせようとしているの?危 ないじゃないの!」 香、深月の顔を見て怒鳴る。 深月「さっき東山さんも仰いましたよね?犯人はこの中に居る。と…。でしたら、緑川さ ん1人で厨房に行って帰ってくる程度ならば、殺される訳がありません。」 零「そうとは言い切れません。現に、上原さんは部屋で犯人に接触無しで殺された可能性 もあるのです。」 深月「では、私が行きましょう。」 深月、椅子から立ち上がる。 遼子「い、いいです!私1人でも…平気ですから…。」 美枝子「待って緑川さん!じゃあ、私が一緒に着いていってあげる。それに人数分の飲み 物を持ってくるのも大変でしょ?」 美枝子、椅子から立ち上がり、遼子の元に近づく。 京子「私も行きます。」 京子、美枝子に着いていく。 蝶児「気を付けろよ。何かあったら叫べ。」 美枝子「判ってるわ。」 美枝子、京子、遼子、洋風庭園閲覧室から出て、渡り廊下を歩いていく。 遼子「すみません…お客様にこんな…。」 遼子、俯きながら渡り廊下を歩きつつ言う。 美枝子「いいのよ。無神経もいい所だわ、こんな状況で飲み物が欲しいだなんて…。」 京子「葵さんは…さっきまであんなに弱々しい感じでしたのに…。」 美枝子、京子、渡り廊下を歩きつつ、周りをキョロキョロと振り向いている。 遼子「あの人には、判らない事だらけです。確かにきまぐれではありますけど、根は良い 人だと思うのですが…。」 美枝子「そうかしら…でも演技なんでしょう?あのきまぐれも…さっき言ってたじゃな い。」 美枝子、遼子に問う。 遼子「…私にはなんとなくですけど…悪い印象はありません。私はおっちょこちょいです けど、何も取り柄がない私を拾ってくれたお嬢様に、私は感謝しておりますし…。」 京子「緑川さんは、お嬢様に雇われたのですか?」 遼子「私は、他の使用人の方々と一緒にこの館に呼ばれたんです。最初は、お給料に目が くらんで来てみたんですが、ご主人様に断られました。」 美枝子「どうして?」 遼子「取り柄が無かったからです。内藤さんの様に接客業、詩堂さんの様に医療、今村さ んの様に運転技、上原さんの様に料理技、これらの様な取り柄がありませんでしたので、 門前払いを食らいました。でも…。」 京子「お嬢様が引き止めたのですか?」 遼子、渡り廊下の先頭を歩きながら天井を見上げる。 遼子「お嬢様はこうご主人様に懇願してくれたんです。『この人を雇って下さい。この人に は誰にも持っていない優しさがあるのですから。』と…。」 美枝子「あの人がそんな事を言ったの?」 京子「本当は良い人なのでしょうか?」 3人、項垂れて歩いている。 遼子「正直…何て恥ずかしい事を平然と言うのかな?と思っていました。儲け物だとも思 っていました。しかし、働き始めの翌日…奥様が亡くなられました。」 美枝子「そうだった…わね。」 遼子「お嬢様がその日以来、変わられたのはさっきお嬢様の口から言わされた通りです。 私には、どうして良いのか判らず、ただ言われた事をこなすだけ。それだけを心がけて仕 事をしてまいりました。」 京子「…。」 遼子「もう…この館で残っているのは、お嬢様と内藤さんと私だけ…。私が5年間、意思 を持たずに意味も無くただ生きてきたのは、こんな形で終わる為だったのでしょうか?」 京子「そ、それは違いますよ。貴方だって、この館の為に頑張ってきたんじゃないですか。 きっと報われる筈です。」 遼子「貴方も…お嬢様の出だそうですね?私と違って貴方も現実を知らないのでしょう か?現実は甘くありません。」 京子「え?」 遼子「私はこの館に仕事を頂くまで、人に言えない苦労ばかりでした。正直、自殺も考え てきました。私には、生まれた時から両親はすでに居ませんでした。施設で育ち、両親を 持つ他人を羨ましく思い、施設を離れてからは、その日暮らしの生活をしてきました。」 美枝子「…。」 遼子「…すみません、暗い話をしてしまって…栗原さんごめんなさい!」 遼子、京子に深く頭を下げる。 京子「い、いいえ…気にしていません。それに…私も無神経にごめんなさい。」 京子、頭を下げる。 美枝子「食堂だよね?あれ…。」 美枝子、暗い渡り廊下の先にある食堂の入り口を指しつつ言う。 京子「確か…あの食堂で…。」 京子、恐る恐る食堂の中を眺める。 遼子「だ、大丈夫ですよ…今村さんは…射手座の間に運ばれました筈ですから…。」 遼子、懐中電灯を手に食堂の中に入っていく。 美枝子「は、早く飲み物取ってこよう…。」 美枝子、京子、遼子、宏史の遺体があったテ−ブルから大きく遠ざかって厨房に 入る。 遼子「はあ…はあ…こ、怖い…ですよね?やっぱり…1人では来なくてよかったです。」 遼子、厨房の冷蔵庫に手を伸ばしつつ言う。 美枝子「緑川さん、グラスは何処?」 遼子「あ、グラスはそっちの棚の上です。」 遼子、角の棚を指差す。 京子「美枝子さん、届きますか?」 美枝子「ちょっと届かないわね。椅子が欲しいわ。」 京子「はい、取ってきます。」 爆発音「バ−ン!!」 凄まじい爆発音と共に、厨房内が煙で立ち込める。 美枝子「キャア!!」 京子「ワァッ!!」 美枝子、爆風で棚に叩きつけられる。京子、厨房の入り口から食堂内のテ−ブル に吹き飛ばされる。 京子「あ…ああ…。」 京子、頭を抱えて散乱したテ−ブルから立ち上がり、煙が吹き出ている厨房を眺 めている。 美枝子「う…うう…。」 美枝子、額から流血しつつ、厨房の入り口で項垂れている。 京子「み、美枝子さん!」 京子、フラフラと歩きつつ、美枝子の元に行く。 美枝子「な、何が…。」 京子「大丈夫ですか!ああ…は、早くここから離れないと…。」 京子、美枝子の肩を抱きかかえて食堂のテ−ブルに運ぶ。 美枝子「きょ、京子…ちゃん…何が起こったの?」 京子「わ、判りません。何かが…爆発して…。み、緑川さんは?」 京子、厨房に入る。 京子「ウッ!ゴホッゴホッ!」 京子、煙を吸って大きく咳きをする。白煙が食堂内にどんどん立ち込めていく。 美枝子「…あ、危ないわ…。京子ちゃん…そこから離れ…ウッ!」 美枝子、額を押えてうめく。 爆発音「バ−ン!!」 火がガスに引火して厨房内で爆発を起こす。 京子「キャア!」 京子、手を顔にかざして火を避ける様に厨房から出る。 美枝子「…うう…。」 京子「ああ…火が…み、緑川さん…。」 火が厨房から食堂に迫り、火が食堂内に素早く回る。 美枝子「…あ、熱い…。」 京子「ここから出るんです!早く!」 京子、美枝子の肩を抱いて食堂の入り口に向かう。 蝶児「何だ今の爆発音は!!」 蝶児、零、食堂の入り口まで走ってきて、食堂の火の手を見て背を向ける。 零「な、何が起こったんだ!」 蝶児、零、食堂の中を注意深く凝視している。 京子「い、岩崎さん!助けて!」 蝶児「京子!何処だ!」 蝶児、声がした方に怒鳴る。 京子「食堂の中の…ああ…。」 京子、美枝子の肩を抱いたまま食堂内に倒れる。 蝶児「畜生!」 蝶児、零、食堂内に走りこむ。 零「あ、あそこだ!」 零、テ−ブルの下に潜り込んでいる美枝子と京子を見付ける。 蝶児「美枝子!」 蝶児、美枝子を抱き起こして声をかける。美枝子、気絶したまま動かない。 京子「…はあ…はあ…。」 零「煙を大きく吸い込んでしまっている。早くここから出るんだ!」 蝶児「2人を頼む!」 零「何を言っているんです!早くここから…。」 蝶児「まだメイドが見付かっていない!」 蝶児、火の手をかいくぐって、厨房に向かう。 零「ガ、ガスに火が引火したら…ああ…。」 零、両肩に美枝子と京子を担いで食堂の入り口に走る。 蝶児「オイ!メイド!大丈夫か!」 蝶児、滅茶苦茶に物が錯乱し、火が迫り、壁が壊れている中、叫んで歩いている。 蝶児「こ、これは…。」 蝶児、厨房内で遼子が身につけていたエプロンの千切れた物を見付ける。 蝶児「オ、オイ!何処だ!アッ!」 蝶児、歩いている内に何かを踏み、下を見る。 蝶児「ウワァァァァ!?」 蝶児、下にあった焼けた手、焼けた足、焼けた下半身などをみつけ、大きく悲鳴 を上げる。 蝶児「し、死んだ…。畜生!」 蝶児、厨房から走って逃げる。 爆発音「バ−ン!」 厨房から更に爆発が起こり、蝶児を食堂のテ−ブルの一角に吹き飛ばす。 衝撃音「ガッシャ−ン!」 蝶児「イテェ!」 蝶児、背中からテ−ブルに激突し、背中を押えて、食堂の入り口に向けて走る。 零「コッチです!急いで!」 零、食堂の入り口で叫んで手を振る。 京子「岩崎さん…。」 薄らと目を開けて蝶児の走ってくる姿を見る。 蝶児「…ハア…ハア…。」 蝶児、食堂の入り口に辿り着き、大きく息を吐く。 零「大丈夫ですか?み、緑川さんは?」 蝶児「駄目だった…。」 蝶児、息を荒げつつも燃え盛る食堂に目をやる。 物音「シャワワ−ッ。」 零「ん?」 食堂のスプリンクラ−が働き、食堂の火が瞬く間に弱くなっていく。 蝶児「い、今更…外見だけの館だな…この館は…中身は全く駄目じゃねえか。畜生!」 蝶児、渡り廊下の床を思いっきり叩きつける。 京子「そ…そんな…緑川さん…。」 京子、渡り廊下で気絶している美枝子の傍らで、涙を流して両膝を着き、顔に手 をやって項垂れている。 蝶児「…食堂に誰かが来る事を計算して…爆弾を仕掛けていたのか…。畜生!」 蝶児、渡り廊下を走って洋風庭園閲覧室に向かう。 零「い、岩崎君!」 零、走っていく蝶児に声をかける。が、蝶児、止まらずに渡り廊下を走っていく。 蝶児「アイツだ!アイツだったのか!」 蝶児、渡り廊下を走りつつ何度も何度も呟く。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夜)、深月、1人テ−ブルで腰掛けて渡り廊下を 眺めている。純、香、そわそわと落ち着かない様子で、テ−ブルに着いている。継人、不 安げに渡り廊下を眺めている。 継人「さっきの爆音は…一体…。」 継人、渡り廊下の果てを見つつ言う。 香「美枝子…京子ちゃん…。」 香、両手を組み合わせて、祈る様に頭をテ−ブルに着けている。 純「…。」 純、呆然と渡り廊下を眺めながら両手を組み合わせている。 深月「食堂の方からの爆発音でしたわね。あの3人の誰かが犯人だったのでしょうか?」 香「馬鹿な事言わないでよ!」 香、深月に怒鳴りつける。 深月「ですが、あの3人を除いた全員がこの洋風庭園閲覧室に居ました。これは完全なる アリバイになりませんか?」 香「アンタ!黙っててよ!今は3人の無事を祈るべきでしょう!」 深月「酷く興奮していますね…お話になりません。」 香「な、何を〜。」 香、深月に向かって歩み寄る。 純「だ、駄目だよ!」 純、香の前に立って香を宥める。 蝶児「葵深月!!」 蝶児、渡り廊下からもの凄い勢いで走ってきて洋風庭園閲覧室に入ってきて、深 月のテ−ブルに向かってくる。 深月「どうでしたか?あの3人は…キャアッ!」 蝶児、深月の胸倉を掴んで、深月を無理矢理椅子から立ち上がらせる。 蝶児「メイドが死んだぞ!美枝子と京子も怪我を負った!お前がやったんだろ!」 蝶児、深月の顔をもの凄い形相で睨みつつ怒鳴る。 深月「あ…ああ…。」 深月、怯えた表情で蝶児の顔を見ている。 蝶児「爆弾が仕掛けられていた様だった、お前が仕掛けたんだ!だからメイドを厨房に行 かせる様に仕向けたんだろ!言え!」 蝶児、深月の体を揺さぶりながら言う。 深月「そ…そんな事…しておりません。」 蝶児「嘘を付くな!お前しか考えられないだろう!」 純「ちょ、蝶児君!もう止めなよ!」 蝶児「うるせえ!絶対に許さねえ!」 蝶児、純の言葉に耳を貸さず、深月の怯えきった表情を睨みつけている。 深月「く…苦しい…や…止めて…くださ…い。」 純「!!」 衝撃音「バキッ!」 蝶児「ウワッ!」 蝶児、純に顔を殴られて深月の胸倉を掴んでいた手を離し、テ−ブルにぶつかる。 蝶児「…じゅ、純、テメェ、その女をかばうのかよ!」 蝶児、口から血を流しながら純を睨みつける。 純「冷静に…冷静になってくれよ。」 純、大きく息を吐いて言う。 蝶児「何処かで…こんな事あったな…。だが!今回ばっかりは違う!もうこの女しか考え られないんだ!」 蝶児、深月の顔を憎々しげに睨んでいる。 純「…証拠は?」 蝶児「何だって?」 純「だから、葵さんが犯人だっていう証拠を…。」 蝶児「馬鹿かお前は!俺達が人を殺す筈がないだろうが!」 蝶児、純の前に歩み寄って顔を睨んでいる。 純「そんな事は判っているよ。でも、まだ…。」 純、継人の方を振り返って蝶児に視線を戻す。 蝶児「…アイツも可能性があるって訳か…。」 蝶児、継人の方を振り向いて呟く。 継人「私が…何か…。」 継人、蝶児と純の方を向いて言う。 蝶児「だが…例えコイツが犯人だったとしても、もう殺人は出来ないだろう。」 純「でも、罠がこの星座館に数多く設置されているとしたら、体の自由が無くても殺人は 可能だよ。」 蝶児、純、継人のテ−ブルに着く。 継人「私を疑っているのですね…。」 蝶児「ああ…もう容疑者はアンタとお嬢様の2人なんでな。」 蝶児、継人の顔を睨みつつ言う。 継人「私は違います…と言っても、信じては貰えないでしょうね。」 蝶児「まあな。」 蝶児、平然と言う。 零「だ、誰か…手伝って下さい。」 零、美枝子と京子を担ぎつつ渡り廊下から洋風庭園閲覧室に入ってくる。 香「美枝子、京子ちゃん。」 香、零の方に駆け寄る。零、ゆっくりとフロア−に美枝子と京子を降ろす。 純「2人は?」 純、零の傍に歩み寄って問う。 零「気を失っているだけです。ただ、水無月さんの方は額を傷つけてしまっていますが、 命に別状は無いでしょう。緑川さんは…お気の毒でした…。」 零、俯いて呟く。 深月「…何があったのですか…教えて下さい。」 深月、零に歩み寄り問う。 零「詳しい事情は判りませんが…私と岩崎さんが食堂に辿り着いた時にはすでに、食堂に 火の手がまわっていました。恐らく、何か爆発物が食堂か厨房に仕掛けられていた様です。」 深月「…そうですか…。」 深月、暗い目でテ−ブルに戻る。 深月「今回は…私の責任ですね。私の我侭で、緑川さんを死なせ、お客様2人に怪我を…。」 香「そうよ!アンタが悪いのよ!」 香、深月に怒鳴りつける。 零「落ち着いて下さい。まだ葵さんが犯人と決まった訳ではありません。」 純「どうしますか…これから…。」 零「庭園で寝る。というのが1番安全でしょうが…ですが、外の気温を考えればそうもい きませんね…。もう何処の部屋も安全ではありません。犯人は、この館の存続など望んで はいないかの様な犯行手段を用いていますから…。」 蝶児「ん?今なんて言った?」 零「僕ですか?この館の存続など望んではいないかの様な…。」 蝶児「そうか…そういえばそうだな。犯人はこの館の存続など望んでなんかいない。始め からこの館をぶっ壊す気でやっていやがる。」 零「そうですが…何か関係がありますか?」 蝶児「それは…。」 物音「パッ!」 香「キャア!」 星座館全体の灯りが一瞬にして消える。辺りが真っ暗で何も見えなくなる。 蝶児「な、なんだ?」 純「て、停電?」 男の悲鳴「ギャァァァァ−ッ!」 暗闇の中で男の悲鳴が響き渡る。 蝶児「ち、畜生!犯人が紛れ込んでいるぞ!気を付けろ!」 純「蝶児君、ライタ−で灯りを!」 蝶児、ライタ−を取りだし、慌てて着火する。 蝶児「純、香、無事か!」 香「だ、大丈夫!犯人は誰よ!」 物音「パッ!」 停電が直り、星座館全体が元の灯りを取り戻す。蝶児、純、零、洋風庭園閲覧室 の中央辺りに立っている。香、美枝子と京子が寝ているフロア−付近で蹲っている。深月、 椅子に腰掛けたまま、頭を押えてジッとしている。 蝶児「し、執事!」 蝶児、継人の胸から大量の血が流れているのを見て、執事に駆け寄る。純、零、 継人に近づく。 継人「う…ああ…。」 継人、口からも血を吐きつつ虚ろな目で蝶児の顔を見ている。 蝶児「誰だ!誰にやられたんだ!」 蝶児、継人のロ−プを解き、胸の大量に流れる血と共に、数カ所の刃物で刺され た跡を見付ける。 零「あ、あの暗闇の中で…どうやって…。」 蝶児「誰だ!教えてくれ!」 継人「…わ、わから…な…い…グッ!」 継人、口から大量の血を吐いてフロア−に前のめりに倒れこむ。 蝶児「執事!オイ執事!」 蝶児、必死に継人の背中を擦るが、継人は両目を見開いて動かない。 純「…死んだ…殺された…。」 零「…私達の…居る前で…。」 蝶児、純、零、呆然と継人の亡骸を眺めている。 深月「…さようなら…内藤さん。」 香「誰が…。」 香、震える目で、遠くの継人の亡骸を眺めつつ、美枝子と京子の顔を交互に見て いる。 蝶児「どうして停電が…犯人の計算の内なのか?」 純「…判らない…判らない…。」 純、ヨロヨロとフロア−に塞ぎこむ。 蝶児「馬鹿野郎!しっかりしなきゃ俺達も殺されるぞ!」 零「あの暗闇の中で…赤外線スコ−プでも持っていたのか?」 零、深月の顔を見つつ言う。 深月「とうとう…私1人になってしまいましたか…次に殺されるのは私ですね。」 深月、虚ろな目で椅子から立ち上がる。 蝶児「何処に行くんだ?」 蝶児、ゆっくりと歩いていく深月に言う。 深月「私は犯人ではありません…ですが、お客様に迷惑をかけたくありません。館の人間 も残す所は私1人…私が死ねば…きっとこの事件も終わるのでしょうから…。」 深月、渡り廊下に行く。 蝶児「待て!お前に対する疑念をまだ捨てた訳じゃないが、1人でうろついたら殺されに 行く様なものだ!」 深月「もう…いいのです。私には何も残ってはおりません…。」 深月、渡り廊下を歩いていく。 蝶児「あの馬鹿!」 深月の後を蝶児、追いかける。 蝶児「待て!待つんだ!」 蝶児、深月の手を掴む。 深月「お放し下さい…。」 蝶児「お前が犯人だったらば、あの暗闇でも執事を殺せる武器を持っている筈だ。」 深月「私はその様なものは持っておりません。」 蝶児「だから、さっきの執事が殺された時、お前は犯人じゃないと判ったんだ。」 深月「…。」 蝶児「犯人は館の人間ではなかった。犯人は…。」 深月「誰なのですか…?」 深月、蝶児の顔を眺めている。 蝶児「洋風庭園閲覧室に戻るぞ。」 蝶児、深月の手を引っ張りつつ渡り廊下から洋風庭園閲覧室に戻る。 純「…。」 純、香の傍で怯えた目で深月の顔を眺めている。香、深月に敵意の篭った目で視 線を送っている。 零「良かった…戻ってくれましたね…。」 零、テ−ブルに着きつつ大きく息を吐く。 蝶児「…。」 蝶児、何も言わずに零のテ−ブルに着く。深月、蝶児の横の椅子に腰掛け、黙っ て蝶児の顔を眺めている。 零「…どうしましたか?」 零、何も言わずに黙っている蝶児の顔を見て問う。 蝶児「やけに落ち着いているじゃないか。あんな事が連続で起こっているというのに…。」 零「…そんな事はありません。僕だって不安ですが、冷静になる様に心がけているんです。」 蝶児「お前が犯人だからじゃないのか?」 零「何ですって?」 1つのテ−ブルで、蝶児、零、お互いに視線を合わせたまま動かない。深月、蝶 児の顔をただただ見つめている。純、香、洋風庭園閲覧室の隅で、美枝子と香の傍に居つ つ、2人のやりとりを見守っている。 純「ひ、東山さんが…犯人?」 香「あ、有り得ないわ…だってあの人は確か…女医が殺されてから…この館に来たんでし ょう?」 蝶児「ああ、そうだったな。だが、鬼渡り山の山道が途中で崖崩れに遭っていた時、この 探偵さんはすぐ傍に居た。それに、本当にそれまでにこの館に居なかったという保証は無 い。」 零「え?」 蝶児「つまり、『蛇使い座の間』に紛れ込んでいたならば、話は別なんだよ。そしてあの門 の鍵を持っているならば、アンタがこの館に俺達と同じ時間をもっと前から過ごしていた 事になる。」 零「…。」 蝶児「それに、仮にアンタが遅着していたとしても、共犯者が居るならば、アンタも女医 以後の殺人の容疑者枠からは外せない。爆弾にしても、天井落ちにしても、停電にしても、 部屋を調べるといった名目で各々の部屋を回ったアンタが1番怪しい。それに、執事が殺 された時、1番執事の傍に居たのはアンタだ。」 蝶児、零を指差す。零、何も言わずに黙って蝶児の顔を眺めている。 零「そうでしたね…確かに内藤さんが殺された時、彼の傍に居たのは僕でした。」 零、静かな口調で言う。 蝶児「お前が犯人なのか?探偵さん。」 零「いいえ。」 蝶児「じゃ、アンタは誰が犯人だと思っているんだ?」 零「判りません。まだ色々な事情が噛み合っていないので…。」 蝶児「自分が犯人では無いという証拠は?」 零「…無い…ですかね。」 蝶児、零に油断ならない視線を送っている。 零「では…依頼主の証文を見せましょう。これで少しは信用して貰えるかもしれないので …。」 蝶児「証文?」 零「とくに栗原京子さんに見てもらいたいのですが…。無理でしょうね、今は。」 零、懐から1枚の紙切れを出し、蝶児の前に差し出す。 蝶児「『姉・平島麻衣子と妹・栗原京子を守って頂きたく存じます。あの子達には、これか らも数多くの壁が存在する事でしょう。東山さんにその壁を乗り越える力を貸してあげて 貰いたく存じます。栗原真弓。』か…。」 蝶児、証文を読み終え、証文を零に返す。 零「栗原真弓さんには、昔、生死の境目を見る程の手術を成功してもらった恩がありまし て、こんな形で恩を返せるとは思っていませんでしたが、僕は…平島麻衣子さんを守りき れませんでした…。だからせめて、妹の栗原京子さんを守り通さなければ…。」 零、眉間に皺を寄せて証文を眺めている。 蝶児「悪いが、探偵よ。アンタの話をそのまま鵜呑み出来ない。判るな?」 零「…。」 零、懐に証文を戻しつつ蝶児の顔を眺め続ける。 蝶児「もう…俺も誰を信用出来て、出来ない。という本音でかからなければ、恐らくはま だ死人が出る。正直、信用出来ないのはもう限られている。嫌な言い方だが、死人を除い た生存者の中で、消去法による判別法。探偵のアンタとお嬢様の葵深月。この2人だ。」 深月「まだ私を疑ってはいるのですね?」 蝶児「当然だ。だが、アンタを犯人だとはまだ断定してはいない。」 零「どの様な基準で疑っているのですか?」 蝶児、洋風庭園閲覧室の片隅に固まっている純、香、と横で眠っている美枝子、 京子、の姿を振り返る 蝶児「付き合いの長い奴等と、付き合いの短い奴等だ。」 深月「判り易い基準ですのね。ですが、岩崎さんはそれほどまでに他人を信用出来るので すか?」 深月、蝶児の顔を食い入る様な視線で眺めている。 蝶児「勿論だ。俺達はアンタが言った通り『霧山荘事件』の生存者だ。そんな死線を潜り 抜ければ、信用も生まれてくる。アンタは仲間から信用が無かった様だが、仲間を信用も していなかった様だな。」 深月「…。」 深月、フロア−に倒れている継人の亡骸に死線を移す。 深月「信用…。貴方の仲間は…本当に素晴らしい人達なのですね。」 蝶児「ん?」 蝶児、深月の目から涙が零れているのを見る。 零「泣いて…いるのですか?」 深月「え?」 深月、右手を自分の目にやって、自分が涙を流している事に気付く。 深月「涙…?私が…何故…。」 深月、驚いた表情で自分の涙を見つめている。 零「葵さん、そろそろ本当の事を言ってくれても良いのではないでしょうか?何故、貴方 は『霧山荘事件』の生存者達にそれほどまでに拘ったのですか?」 深月「もう聞いているのではないのですか…。」 蝶児「ああ、自由が欲しかったんだろう?この星座館から脱出したい。と…。」 深月「私は、何かお父様から解き放たれない鎖で…縛られていた感じが常にしていました。 ですが…お父様が亡くなった今でも…その呪縛から解き放たれた感じがしません。」 零「どういう事です?」 深月「犯人は…私に大きく関係がある気がしてならないのです。」 蝶児「いい加減な事を言うな!じゃあ何故、無関係のオネ−さんを殺したんだ!」 蝶児、椅子から立ち上がり、深月の顔を睨む。 深月「…すみませんでした…貴方の神経を逆撫でする気はありませんでした。」 蝶児「…それにしても…どうしてそんなに冷静でいられるんだ?」 深月「…星座館に住む人間の宿命でしょう。星座館は人間が星に帰る宿命を背負った館で す。死人が出た所で…今更、驚きません。そして、私もその宿命が待っているならば従い ます。」 蝶児「本当にそれで良いのか?自由が欲しかったんじゃないのか?京子の様に…。」 深月「…貴方は…さっき仲間の事で…平島さんの事で感情的になりましたね。私だって… 私だって本当は…仲間を殺されて悔しくて…泣き叫びたくて…そんな中で、私が自由を求 めても…もう…。」 深月、涙を目一杯に溜めつつ、必死に両目を閉じ、堪えている。 蝶児「…。」 零「葵さん…貴方は死ぬ気なのではないのですか?」 深月「…覚悟は…出来ています。それに…私にはどうしてもやり遂げなくてはならない事 があるのです。」 蝶児「なんだ?」 深月、少しためらいがちに口を開く。 深月「お父様が言っていました…。この館には人間を星に変える為に、死神が住みついて いる。もし今後、死人が出たのならば、私達はその死神を…。」 蝶児「死神?その死神を見つけ出すって事は、復讐するって事か?」 深月「…。」 零「三津子さんの敵討ちですね?」 深月「…ええ。」 深月、今までで最も鋭い目つきで頷く。 蝶児「その死神とやらが、今回の一連の事件を起こしていると思っているのか?」 深月「きっとそうです。ですが…。」 零「館の者は貴方を残して全員死んでしまった…。」 深月、黙って頷く。 蝶児「…死神か…。お嬢様らしい考え方だな。さて、どうする?もう何処も安全とは言い 難いが、この洋風庭園閲覧室に長居出来ないと思うんだが…。」 蝶児、純と香の方を振り返って問う。 香「何処に行くったって…何処が安全とも言えないんでしょ?」 蝶児「だが、俺達が1箇所に居る事自体、犯人の思う壺なんだ。」 純「部屋に…戻ろうか。」 零「危険です。また罠が仕掛けられているかも…。」 深月「私も水瓶座の間に戻らせて頂きます。」 深月、椅子から立ち上がる。 蝶児「純、京子を運べ。」 蝶児、美枝子を肩に担ぎつつ言う。純、京子の肩を持って起こす。 零「岩崎さん、部屋は危険です。ここで全員で固まっていた方が得策です。」 蝶児「ああ、そうだろうな。だが、もう何処も危険なんだったら、俺は自分の守るべきも のを優先させてもらう。」 蝶児、美枝子を担ぎ、純、香、京子、深月と共に渡り廊下に消える。 零「…仕方の無い事ですか…。」 零、洋風庭園閲覧室のテ−ブルに1人着き、大きくため息をつく。 深月「東山さんは来られませんのね…勇気がありますわ。」 深月、渡り廊下の後ろを振り返りつつ言う。 香「あの探偵が犯人だったら…何も怖くは無いのね。」 純「だけど…あの東山さんがあんな嘘を付くのかな…僕にはあの人が嘘を言っている様に は思えなかったけど…。」 純、渡り廊下の後ろを眺めつつ言う。 蝶児「…。」 蝶児、黙って渡り廊下を歩き続ける。 美枝子「ん…ん…。」 美枝子、蝶児の背中におぶさりながら、両目を擦って呟く。 香「美枝子は起きちゃったみたいね。」 蝶児「こんな時に目を覚ますとはな。」 美枝子「ちょ…蝶児?わ、私…。」 美枝子、階段を上がっている面々の顔を見まわしている。 純「もう大丈夫?美枝子ちゃん。」 美枝子「…そ、そういえば…緑川さんは?」 美枝子、辺りを見まわしつつ問う。 深月「…緑川さんは死にました。内藤さんも…。」 美枝子「…そ、そんな…誰が…。」 蝶児「美枝子、お前は厨房で何か気が付かなかったか?」 蝶児、2階に続く渡り廊下を歩きつつ背中の美枝子に問う。 美枝子「気付いた事…判らないわ…棚の上のカップを取ろうとしていたら…急に…。私、 背中から爆発にあったみたいだから…。」 美枝子、額に触る。 美枝子「あ…血が…。」 香「美枝子、あまり頭の傷を触らない方がいいよ。」 美枝子「…私も…殺されかけたの…。」 美枝子、手に付いた血を眺めながら、目を潤わせつつ呟く。 純「…でも、無事で良かったよ。」 美枝子「どうして…どうして私達が殺されなきゃならないの?一体どうして?」 蝶児「…。」 蝶児、黙り続け、蟹座の間の前に辿り着く。 純「…この部屋でずっと警察を待つの?」 蝶児「そういえば、まだ使っていない部屋があったな?牡牛座の間か…。」 香「それがどうかしたの?」 蝶児「牡牛座の間に行こう。そこの方が安全だ。」 一同、渡り廊下を歩く。深月、一同から外れて渡り廊下に立ち尽くす。 純「…蝶児君。」 純、蝶児の肩を叩いて後ろの深月を見る様に促す。 蝶児「…どうした?アンタは一緒に来ないのか?」 深月「…私が貴方達と一緒に居れば、きっと貴方達を危険に晒してしまう事でしょう。私 は水瓶座の間に戻ります。」 深月、蝶児に背を向けて、3階に続く階段に向かう。 香「ま、待ちなさいよ!アンタの事、まだ疑ってはいるけど、1人で部屋に居たら殺され るよ!」 深月「私は大丈夫です。例え刺し違えても、お父様とお母様の仇を取りますから…。」 香「ま、待ちなさいよ!」 香、深月の所まで走っていって深月の肩を掴む。 深月「あ…。」 深月、驚いた表情で香の顔を振り返る。 香「馬鹿!いつまでそんなお嬢様チックな考え方してんのよ!」 深月「…でも…。」 香「…蝶児!」 香、蝶児の方を振り返る。 香「私、このお嬢様と一緒に居るわ。」 蝶児「なんだって?」 純「か、香ちゃん!」 一同、驚いた表情で、香の顔を見ている。 香「このお嬢様、まだ目が覚めていないみたいだからね。まあ、例えこのお嬢様が犯人だ としても、私が力でねじ伏せてあげるから…。」 純「じゃ、じゃあ、僕も一緒に行くよ。」 純、香と深月の方に歩み寄っていく。 蝶児「…お前等…。」 純「蝶児君、美枝子ちゃんと京子ちゃんを頼んだよ。」 純、香、深月、階段を上がっていく。 蝶児「…。」 美枝子「…大丈夫なの…あの2人…。」 美枝子、心配そうに純と香が階段を上がっていく姿を眺めている。 蝶児「…葵深月が言っていたな…俺達に救って欲しかった。と…その言葉を信じるしかな い…な…。」 蝶児、気を失っている京子をおぶさって渡り廊下を歩いていく。美枝子、蝶児の 後から着いていく。 美枝子「…緑川さんも…執事さんも殺されたの?」 蝶児「ああ…残ったのは…俺達と葵深月と探偵だ。」 美枝子「じゃあ…犯人は…。」 蝶児「純と香を連れていったお嬢様か…1人、洋風庭園閲覧室に残った探偵だ。」 蝶児、美枝子、俯いて渡り廊下を歩いていく。 蝶児「そういえば、お前、京子が目を覚ましたらお礼を言っておけよ。」 美枝子「え?」 蝶児「食堂で気を失っていたお前を、必死に担いで火の手から守っていた。俺と探偵が発 見した時には、お前と京子はテ−ブルの下に隠れていたんだ。」 美枝子「…そうだったの…もし…京子ちゃんが一緒に居てくれなかったら、私も死んでい たのね。ありがとう、京子ちゃん。」 美枝子、蝶児の背中で気を失っている京子を見て言う。 蝶児「牡牛座の間か…この部屋だな。」 蝶児、美枝子、牡牛座の間の前に立つ。 美枝子「鍵は開いているみたい…。」 美枝子、ドアのノブを回しつつ言う。 蝶児「待て!」 美枝子「な、何?」 美枝子、驚いて蝶児の顔を振り返る。 蝶児「罠が無いとは言い切れない。お前はちょっとドアから離れてろ。」 蝶児、京子を美枝子に預けて、ドアのノブを掴む。 蝶児「…。」 ドア「ガチャリ…。」 蝶児、ドアのノブを回し、ドアを開き、牡牛座の間に入る。 蝶児「…誰も居ない。何か罠は…。」 蝶児、牡牛座の間の中を見まわす。内装は全体的に普通の造りで、壁に大きな両 角を生やした牛の首の剥製が飾られている。壁隅に屋根付きベッドが配置されている。 蝶児「比較的単調な感じの部屋だな。」 蝶児、数少ない棚や家具を見て回る。美枝子、京子を担いで牡牛座の間に入って くる。 美枝子「ねえ…少し休んでもイイ?」 美枝子、京子をベッドに寝かせ、毛布をかけ、ベッドに倒れこむ。 蝶児「…大丈夫か?」 美枝子「…もう…何も考えたくないわ…ただ…眠りたいの…。」 美枝子、両膝を絨毯に着けつつ、頭だけをベッドに埋もれさせて呟く。 蝶児「…いいぞ、寝てしまえ。その間、俺はここから動かん。」 美枝子「…そう…ありがとう。」 美枝子、そう言い残し、目を閉じてしまう。 蝶児「…お嬢様か…探偵か…どちらかが犯人か…それとも…。」 蝶児、ベッドで眠っている美枝子と京子を眺める。 蝶児「まさかな…だが…いや、そんな事は有り得ない。」 蝶児、何度も頷きながらソファ−に向かい、ソファ−に腰掛けてドアを注意深く 眺め続ける。 8:お嬢様か探偵か 星座館・3階・水瓶座の間(夜)、純、香、ソファ−に腰掛けて、辺りの肖像画や、 家具を眺めている。深月、ティ−ポットからお湯を出し、紅茶を作っている。 香「アンタの部屋ってさ…他の部屋と比べてゴ−ジャスなのね。部屋に堀まであるし…。」 香、水瓶の像がある堀を眺めつつ言う。 深月「ありがとう御座います。」 深月、ティ−カップを3つソファ−で挟まれたテ−ブルに置いて、純と香が座っ ているソファ−の正面に座る。 純「…。」 純、深月が3つのティ−カップに紅茶を注ぐ様を眺めている。 深月「紅茶はいかがですか?体が温まりますよ。」 深月、3つのティ−カップの1つを取って、紅茶を啜る。純、香、深月が紅茶を 啜る様を眺めている。 深月「…ふう…どうしましたか…。」 香「要らないわ。」 純「僕も、いいです。」 純、香、ティ−カップに注がれた紅茶を眺めつつ言う。 深月「…やはり、信用はしてもらえない様ですわね。仕方の無い事ですが…。」 香「じゃあ、アンタがこの紅茶を1口飲んでみてよ。そしたら私もこの紅茶を貰うわ。喉 が酷く乾いているからね。」 深月「構いませんよ。」 深月、残ったティ−カップの紅茶を1口ずつ啜る。 香「…。」 深月「毒などは入ってはおりません。」 純「じゃあ…頂きます。」 純、ティ−カップを1つ取って紅茶を啜る。 香「ねえ、アンタさ…犯人は誰だと思ってるの?」 香、紅茶を啜っている深月に問う。 深月「…私の想像で…ですか?」 香「なんでもいいわよ。誰だと思うの?」 深月、両目を閉じて沈黙する。 深月「そうですわね…東山さんが1番…いえ…それともまだ誰かこの館に居るのでしょう か…。」 純「誰です?」 深月「さあ…判りませんが、私達の目を欺いて、誰かがこの館にまだ居るのでは…と。」 香「アンタさぁ…この館で何年生活してる訳?そんな事が有り得ると思ってるの?」 深月「ですが、実際に『蛇使い座の間』という今まで存じ上げなかった部屋が今になって 判りましたが…。」 香「ム…そ、それはそうとしても…そう、アンタはあの探偵を疑ってるのね。」 深月「…。」 深月、何も言わずに黙って紅茶を啜っている。 純「…犯人…犯人?死神?ん?」 香「どうしたのよ?」 香、隣でハッと目を大きく見開いて震えている純を見ている。 純「あ…ああ…どうしてこんな事に気が付かなかったんだ…。」 香「何なの?一体?」 深月「どうかなさって?」 純「か、香ちゃん…。」 純、香の耳に小声で囁く。 純「もしも…もしもだよ。犯人と死神…両方が存在するとしたら…。」 香「はあ?」 純「共犯者が存在していたとしたら…。」 香「!?」 香、ビクッと体を震わせて深月の顔を見る。 星座館・1階・洋風庭園閲覧室(夜)、零、テ−ブルに手帳を広げて1人考え込ん でいる。 零「…犯人は本当に葵深月で…決まりなのか?」 零、手帳に色々と書き込んでいる。 零「何かがおかしいんだがな…何故、彼女に母親、父親を殺す動機がある?それに使用人 達、麻衣子さんにしてもそうだ。」 零、テ−ブルから立ち上がる。 零「さっきの殺人…内藤さんが殺された時、僕は背後からの足音を微かだが聞こえた…。 あれは聞き間違い等ではなかった。だが、灯りが着いた時にはほぼ全員がこの部屋の各位 置から動いてはいなかった…どういう事なんだろう…。」 零、継人の遺体と自分の位置を行ったり来たりしている。 零「内藤さんは刺し殺された…。あの暗闇の中で…。しまったなぁ…まだ皆がこの部屋に 居た時に持ち物チェックをするべきだった…。犯人だったらば、血の付着した刃物を所持 していた筈なのに…。」 零、舌打ちして椅子に腰掛ける。 零「…しかし…そんな危険な事をするかな?あれほどの数の殺人をこなした犯人が、この 洋風庭園閲覧室に全員が集まっている中で、そんな犯人とすぐ判る品を持ち歩くなんて …。」 零、手帳に書き記し、天井を見上げる。 零「料理人が殺された時は天井の仕掛け、メイドが殺された時は爆発、執事が殺された時 は停電…。全て計算通りだったんだろうなぁ…。」 零、渡り廊下に視線を移す。 零「だが…青酸カリを使った殺人が無くなっているな…始めの殺人は、青酸カリを使った 殺人が多かったのに…。何か理由が有るのか?青酸カリ…青酸カリか…そんな薬物を何処 に隠し持っていたんだろう?」 零、天井を見上げる。 零「そういえば…運転手が殺された時は、ビ−ル瓶の中からもジョッキからも青酸カリは 検出出来なかったのに…だが運転手は青酸カリによる死だった。そんな後から青酸カリに よる症状が出るとすれば…。ん?」 零、ハッと思いついた様に両目を見開く。 零「カプセル!そうか、カプセルにして運転手に飲ませれば、カプセルが溶けるまでの間 は青酸カリの症状は現れない!誰がそのカプセルを運転手に渡したんだ?」 零、右手を震わせつつ椅子から立ち上がる。 零「女医?いや…女医は確か運転手との間に確執があったと聞いている。あれは間違い無 いだろう。とすると…女医以外の誰かが…。真っ先にやらなきゃならない事があるな…。 それが判れば、事件は解決する!」 零、手帳に何かを記しつつ、手帳を懐にしまい、洋風庭園閲覧室を出る。 星座館・2階・牡牛座の間(夜)、京子、ベッドで眠っている。美枝子、ベッドに 上半身だけ乗せ、うつぶせになり眠っている。蝶児、ソファ−に腰掛けたまま、ジッとド アを眺めている。 蝶児「…眠るな…寝ちゃ駄目なんだ…。」 蝶児、自分の頬を叩く。 ドア「コンコン…。」 静寂の中、牡牛座の間のドアをノックする音が響く。 蝶児「…。」 蝶児、何も答えずにドアの入り口に近づく。 ドア「コンコン…。」 再びドアがノックされる。 蝶児「誰だ…。」 蝶児、静かに響く声で問う。 ドア「…ドンドン!」 蝶児、突然の乱暴なノックに、思わずドアに近づいていた歩みを止める。 蝶児「…。」 蝶児、ソファ−の傍に置いておいたモップを片手に取る。 ドア「…。」 蝶児、ドアから離れて、牡牛座の間の中央辺りで立っている。暫くの間、沈黙が 続いている。 蝶児「…美枝子…。」 蝶児、美枝子の肩を揺する。 美枝子「ちょ…蝶児?」 美枝子、眠そうな顔で蝶児の顔を眺める。 蝶児「犯人が…そのドアの外に居る…。」 美枝子「!?」 美枝子、驚愕の表情を浮かべて、ドアの方を見る。 ドア「カチャカチャッ!カチャカチャッ!」 ドアノブを乱暴に回す音が、牡牛座の間に響く。 蝶児「…俺達を狙いに来やがった…。」 美枝子「あ…ああ…。」 美枝子、全身を震わせて、腰を絨毯に着いている状態から動けない。 ドア「…。」 蝶児「…お前は…隠れていろ…。」 美枝子「きょ…京子ちゃんは?」 蝶児「京子もトイレに連れていけ…。」 蝶児、小声で美枝子に囁く。美枝子、京子をおんぶしてトイレに入り、ドアを閉 める。 蝶児「…。」 蝶児、忍び足でドアのすぐ横でモップを構えたまま息を潜めている。 ドア「…。」 蝶児「…。」 蝶児、長い間モップを構えたまま動かないが、ドアから何の反応も無い。 星座館・3階・水瓶座の間(夜)、純、香、ソファ−で肩を寄せ合ったまま眠って いる。深月、ソファ−で座った姿勢のまま眠っている。 ドア「コンコン…。」 水瓶座の間のドアがノックされる。だが、3人、動かない。 ドア「…カチャッカチャッカチャッ!」 ドアノブが回される音がするが、ドアは開かない。 ドア「…。」 ドアからの物音がしなくなる。 星座館・3階・蠍座の間(夜)、零、蠍座の間で棚の中の薬瓶を手に取り、注意深 く取り扱いの欄を眺めている。 零「う〜ん…間違い無いな…こうやって青酸カリを作っていたんだ…。カプセルの中身を すり返るなんて事は造作も無い事だし…。」 零、薬瓶を元の棚に戻す。 零「2つの薬剤を混入する事により…青酸カリを作り出す…と。」 零、手帳に記入し、手帳を懐に戻す。 零「青酸カリを使った犯行はほぼ解明済みだ…。となると犯人はやっぱり葵深月なのか?」 零、暗い蠍座の間を見まわす。 零「ん?な、なんだこれは?」 零、蠍座の間の1箇所を見て驚嘆の声を上げる。 零「…そ、そんな…ま、待てよ!じゃ、じゃあ犯人は…!?」 衝撃音「グサリッ!!」 零「グワッ!!」 零、背後からの衝撃に後ろを振り返る。蠍座の間のドアが開かれており、零の背 中から大量の血液が吹き出ている。 零「き、君が…犯人だったのか…。」 零、鋭い視線を暗い部屋の中で立っている人物に送る。 犯人「…。」 犯人、何も言わずに零の顔をただただ眺めている。 零「う…うう…。」 零、背中に突き刺さった刃物を掴み、引き抜く。 零「ウワッ!」 零の傷から大量の血が更に溢れる。が、零、ナイフを構えたまま犯人に歩み寄る。 犯人「!?」 犯人、一瞬、動きがひるむ。零、その瞬間にナイフを構えて犯人に飛び掛る。 発砲音「パ−ン!!」 零「!?」 零の額に弾丸が撃ちこまれる。零、頭を撃たれた勢いで、薬瓶が保管してある棚 に吹き飛ぶ。 衝撃音「ガッシャ−ン!」 大量の薬瓶が割れる。零、ガラスの破片の中で倒れ、絶命する。 犯人「…。」 犯人、蠍座の間のドアを閉め、渡り廊下を、拳銃を構えたまま走り去っていく。 星座館・2階・牡牛座の間(夜)、蝶児、ドアの前で呆然と立ち尽くしている。 蝶児「さっきの音は…拳銃の音じゃないのか…。」 蝶児、トイレのドアに駆け寄る。 蝶児「美枝子、出て来い。犯人がまた…。」 蝶児、トイレのドアを開ける。 蝶児「あ…。」 蝶児、ガックリと両膝を絨毯に着けてトイレの中を見ている。 蝶児「し、しまった…美枝子…。」 蝶児、トイレの中、側面の壁から2メ−トル四方の大きな通路が出来ているのを 見て、そしてトイレの中には誰も居ない事を見て項垂れる。 蝶児「何処に行ったんだ?畜生!」 物音「ガガガガ…。」 蝶児「な、なんだ?」 蝶児、トイレの中の側面の壁に出来た通路が閉じていくのを見て驚く。 蝶児「ま、待て!」 蝶児、慌てて通路に入ろうとするが、通路の入り口は断たれてしまう。 蝶児「ち…畜生!」 蝶児、トイレから飛び出て牡牛座の間の中央に立つ。 蝶児「…そ、そうだ!純や香の方へ!」 蝶児、牡牛座の間のドアに駆け寄る。 蝶児「…。」 蝶児、モップを力強く握り締め、ドアノブを掴む。 ドア「ガチャリ!」 蝶児「オラァッ!」 蝶児、ドアを開けるや否や、渡り廊下に飛び出してモップを振り下ろす。が、渡 り廊下には誰も居ない。 蝶児「…。」 蝶児、注意深く辺りを見まわしている。 蝶児「急がねえと…。」 蝶児、渡り廊下を走っていく。 蝶児「美枝子と…京子が…。」 蝶児、渡り廊下をもの凄い勢いで走っていく。 蝶児「畜生!どっちが犯人だ!」 蝶児、階段を上がっていき、3階の渡り廊下に立つ。 蝶児「はあ…はあ…。」 蝶児、水瓶座の間の前に立つ。 ドア「ドンドンドン!!」 蝶児「俺だ!ここを開けろ!」 蝶児、乱暴なノックを繰り返すが、全く反応が無い。 蝶児「オイ!開けろ!開けるんだ!」 ドア「ガチャリ!」 蝶児「ん?」 蝶児、ドアノブを回すと、ドアが開く。 蝶児「鍵が…かかってない…。」 蝶児、周囲に注意を払いつつ、水瓶座の間に入りこむ。水瓶座の間は真っ暗にな っている。 蝶児「…確か…部屋の電灯は…。」 電灯「パチッ。」 水瓶座の間に灯りが灯る。 蝶児「!?」 蝶児、誰も居ない水瓶座の間を見て、愕然として立ち尽くす。 蝶児「ど、何処に行った…。」 蝶児、水瓶座の間を歩き回っている。 蝶児「純も…香も…深月も…居なくなった…。」 蝶児、水瓶座の間を出る。 蝶児「…ん?」 蝶児、渡り廊下で、1部屋だけドアが開いている部屋を見つける。 蝶児「あそこは…蠍座の間じゃないか…。」 蝶児、蠍座の間に走っていく。 蝶児「…。」 蝶児、蠍座の間のドアに駆け寄る。 蝶児「た、探偵!!」 蝶児、棚に背を着き、薬瓶の破片まみれになって倒れている零を見つける。 蝶児「ど、どうした?」 蝶児、零の遺体に駆け寄るが、零はすでに死んでいる。 蝶児「…こ、殺されている…。」 蝶児、零の額から流れる血を見て呟く。 蝶児「…探偵は…犯人じゃなかった。じゃ…じゃあ…やっぱりあの女が…ん?」 蝶児、零の懐からはみ出ている手帳を見つけ、手に取る。 蝶児「…これは…事件を詳細に記した手帳か…。悪い事したな…アンタは本当に身を以っ てあの姉妹を守ろうとしていたのに…。」 蝶児、手帳を読みつつ、零の遺体を眺める。 蝶児「ん?」 蝶児、零の遺体の左手が、加美の遺体が寝かせてあるベッドを指している事に気 付く。 蝶児「…。」 蝶児、加美の遺体が置いてあるベッドを見る。 蝶児「…女医がどうかしたのか?何か…掴んだのか?」 蝶児、加美の遺体が置いてあるベッドに近寄る。 蝶児「…何か…あるのか…もうこの女医は死んでいるのに…。」 蝶児、加美の遺体を被せているシ−ツを剥ぎ取る。 蝶児「な、何!!」 蝶児、加美の遺体の変化を見てベッドから飛びのく。 蝶児「な…な…何て事を…しやがるんだ…。」 蝶児、慌ててシ−ツを加美の遺体に被せる。 蝶児「…ん…?そ、そういえば…ま、まさか…。」 蝶児、全身を震わせて絨毯に腰を着く。 蝶児「アイツだ…。アイツが…犯人だったんだ…。」 蝶児、渡り廊下に飛び出し、辺りをキョロキョロと見まわしている。 蝶児「…畜生!あの野郎!何処だ!何処に居るんだ!」 蝶児、渡り廊下を走って行く。 9:復讐と復讐 星座館・地下1階・蛇使い座の間(夜)、今まで以上の巨大な部屋の中で、回りの 壁が蛇の群れを見せる硬化ガラスで区切られている。床は石だたみ尽くしで、隠し通路か らの入り口が3つ存在している。部屋の中央が1メ−トルほど窪んでおり、50センチメ −トル程まで、不気味な色の液体で満たされている。その中央の窪みを囲む4方のスペ− スは、何も無いただの石だたみの床である。美枝子、純、香、京子、ロ−プで縛られて硬 化ガラスの壁の前に座らされて気を失っている。深月、窪みを挟んだ美枝子達の反対側の 壁に気を失って寝転がっている。深月の背後にも、硬化ガラスで区切られた壁があり、大 量の蛇が蠢いている。真っ黒いフ−ドを被った人物が、その両方のスペ−スから、斜め前 のスペ−スに立ち尽している。 真っ黒いフ−ドの人物「…。」 真っ黒いフ−ドを被った人物、手に拳銃を持ち、美枝子達のスペ−スの硬化ガラ スに狙いを定める。 発砲音「パ−ン!」 衝撃音「ドン!」 弾丸が、硬化ガラスに命中し、硬化ガラスに亀裂が入る。 深月「…ハッ!」 深月、両目を薄らと開き、目の前の光景を見て上半身を起こす。 真っ黒いフ−ドの人物「目が覚めたか?」 深月「!?」 深月、真っ黒いフ−ドを被った人物を見て起き上がる。 深月「し、死神!?」 真っ黒いフ−ドの人物「死神か…そう連想してもらって嬉しいよ。お前にそう思わせる為 に購入したんだから…。」 真っ黒フ−ドの人物、拳銃を深月に向ける。 深月「お、お前が…お母様を…。」 真っ黒いフ−ドの人物「そう…それだけじゃない、お前のお父様、お前の周りの人間をも …。フッフッ…。」 真っ黒いフ−ドの人物、肩を揺らして不敵に笑う。 深月「そのフ−ドをお取りなさい!」 深月、険しい表情で真っ黒いフ−ドの人物に怒鳴る。 美枝子「ん…んん…あっ!」 美枝子、目を覚まし、目の前の光景と、自分が縛られている事に気付き、声を上 げる 香「…な、何?」 純「あ…。」 京子「!?」 美枝子の声で純、香、京子、目を覚ます。 美枝子「ここは…?ど、どうして私…こんな…。」 香「…あ、あいつが…犯人なの!」 美枝子、純、香、京子、真っ黒いフ−ドの人物を見て言う。 深月「皆さん…。」 真っ黒いフ−ドの人物「動くな葵深月…動けば、私はあの4人の後ろの硬化ガラスを撃つ。 そうすればどうなるか判るな?」 真っ黒いフ−ドの人物、美枝子達の背後にある硬化ガラスに銃口を向ける。 深月「…クッ!」 深月、呆然と立ち尽し、真っ黒いフ−ドの人物を睨んでいる。 京子「あのフ−ドの人物は…東山さんなのですか?」 純「東山さん!見損ないましたよ!あんな立派な事を言っておいて、それが虚言だったな んて…。」 純、真っ黒フ−ドの人物に怒鳴りつける。 真っ黒いフ−ドの人物「東山?フフフフ…こんな子達に何を求めていた?深月?」 深月「…。」 真っ黒いフ−ドの人物「結局、お前が助けを求めたお客様も、お前の足を引っ張る形にな った…。所詮、お前は呪われた運命だったんだよ。」 美枝子「女の声?」 美枝子、真っ黒いフ−ドの人物の声を聞きつつ、呟く。 香「あの声…確か…。」 香、真っ黒フ−ドの人物を眺めつつ目を何度も瞬きしている。 深月「死神の正体…この事件の犯人は…貴方だったのですか…。」 真っ黒いフ−ドの人物「もうお判りの様ね?お嬢様?」 真っ黒いフ−ドの人物、フ−ドを脱ぎさって深月に笑顔を見せる。 純「ああ!?」 京子「み…緑川さん!!」 美枝子、純、香、京子、大きく口を開けて遼子の顔を眺めている。 深月「…。」 遼子「あまり驚かないみたいね?そちらの捕われの身であるお客様はだいぶ驚いているみ たいだけど…。」 美枝子「ど、どうして?どうしてこんな事を…緑川さん!!」 美枝子、遼子に怒鳴る。 遼子「いちいちやかましい子ね…。厨房で仕留めたと思っていたのに…。」 美枝子「!?」 美枝子、驚愕の表情で遼子の顔を凝視する。 香「…あのおっちょこちょいのメイドさんが犯人だったとはね…。普段から演技もしてい たみたいね?」 遼子「まあね、皆、単純な奴等だったから、大して骨も折れなかったわ。」 京子「緑川さん…貴方は何の意味があって…こんな恐ろしい事をしたんですか?」 遼子「理由…ね。そうね…簡単に言ってしまえば復讐よね。」 深月「復讐?」 遼子「そうよ…。」 遼子、銃口を深月に戻し、険しい表情で深月を睨みつける。 深月「私が貴方に何かしましたか?」 遼子「お前は何もしていないわ。したのはお前の愛しいお父様とお母様ね。お前は知らな いまま…知っているのは私と卿紅と三津子よ!」 遼子、声を荒げつつ怒鳴る。 純「ど、どういう事だ…。」 遼子「深月…お前は父から敬愛されつつ育った事に常に嫌悪感を抱いていた様だったわね。 この5年で判ったわ。だけど、それにはちゃんと理由があるのよ…。私とお前は…双子の 姉妹だったのよ…。」 深月「!?」 深月、愕然として遼子の顔を眺めている。 美枝子「ふ…双子?」 京子「そ…そんな…じゃあどうして?」 美枝子、京子、驚いた表情で遼子の顔を眺めている。 遼子「二卵性双生児…私は深月の姉にあたる訳だけど…。フフフ…さすがにショックを隠 しきれない?深月?」 遼子、驚いている深月の顔を見て笑う。 深月「私に…姉が居た?」 遼子「お前は何不自由なく生活出来る環境を卿紅から与えてもらったけど、私には地獄の 環境しか与えてもらえなかったわ。いえ、与えられたわけじゃない、捨てられ、そして這 い上がってきた。という表現が正しいのかしらね。」 深月「…。」 遼子「私がどうして捨てられて、お前に私の存在を隠していたのか気になるでしょう?教 えてあげるわね…。」 遼子、懐から巻物の様な物を取り出し、深月に向かって投げ付ける。遠い距離に 離れている深月の前に巻物が転がり、深月、巻物を拾って巻物を広げる。 深月「…家計図?」 遼子「下の方をよくご覧?卿紅を殺した後、アイツの部屋で見つけた代物よ。」 深月、唇を噛み締めつつ家計図を広げていく。 深月「…卿紅…三津子…深月…。」 深月、家計図を読み上げる。 遼子「判った?私の名前は載ってはいないのよ。始めから、私は卿紅にとっては蚊帳の外 だったのね。」 深月「…どうして…そんな事を…。」 遼子「家計図をもっとよく見てみなさい。ある法則に気付くわ。」 深月「法則?」 深月、家計図を見直す。 遼子「どう?判った?」 深月「こ、これは…子供が…1人しか…。」 遼子「そうなの…葵家は何故か子供が1人づつしか存在してきていないのよ。」 深月「ど、どういう事なの…。」 遼子「子返し…。食いぶちを減らす為に用いられた昔からの習しなのよ。そんな愚かな事 を未だにやっているからこそ、これ程の財閥に成長してきたのよ。だけど…そんな愚かな 事の為に私は犠牲になってきた。きっと私だけじゃないわね。今まで、私の先祖達の何人 かは殺されてきたか…捨てられてきたのよ。」 深月「…。」 一同、声を発せず、遼子の顔を眺めている。 遼子「まあ、分家が存在しないから、財産が分けられる事もなく、葵本家のみの財閥で財 産を守ってきたからこそ、これだけの館を建てられたのでしょうね。誰かさんを満足させ る為に…。」 深月「…知らなかった…。」 遼子「別にいいのよ。私もお前も姉妹だなんて自覚はないんだから…。ただ、恐怖を徹底 的に味あわせてから殺してあげようと思っていたんだけど…あまり効果はなかったみたい ね。」 深月「勿論よ…貴方に対する憎しみの方が強いから…。」 深月、鋭い目で遼子の顔を眺めている。 遼子「憎しみ?それは私の台詞よ。貴方のせいでお母様にまで手を死んでしまったんだか ら…。」 深月「お母様…どういう事?」 遼子「私にとってはあのお母様だけが唯一の心の拠り所だった。始め、孤児の施設に入れ られた頃から何かと遠くから世話をしてくれる親切な人だと思っていたけれど、私が成人 する頃に、本当の事を泣きながら話してくれたわ。そしてある計画をお母様から聞かされ たのよ。」 香「まさか…5年前のあの事件…。」 香、驚いた表情で遼子の顔を眺めている。 遼子「そう、あの事件は私とお母様が供託して犯した犯罪だったのよ…。卿紅を殺す計画 でね。」 深月「で…でも…実際に殺されたのは…。」 遼子「お母様が殺された…と皆は思っていたのでしょう。違うのよ…あれはお母様が自殺 した様なものなのよ。お前のせいでね。」 京子「ど、どういう事です!?」 遼子「グラスには青酸カリが塗ってあった。そして卿紅が座るべき席に何故かお前が着い てしまった。お前がお母様の隣がイイ。と我侭を言ってしまったからよ。お母様は焦って いたわ。今更グラスを零すにしても青酸カリが混入している事がばれて疑われる。かと言 って娘を見殺しにも出来ない。そこで母がとった行動は…。」 純「暗闇の中で…自分のグラスと葵さんのグラスを取り換えた。」 遼子「そう…内藤さんが言っていた『摩り替えた手を見た。』と言っていたのは事実だった のよ。けれど、深月の手ではなくて、お母様の手だった。」 深月「…そんな…。」 遼子「…私はそれまでお前に対する憎しみはそれ程でもなかったけれど、その事件以降、 私の復讐の矛先は卿紅よりもお前に対して強くなった。」 遼子、憎しみを込めた目で深月を睨む。 深月「…。」 遼子「5年もの間、復讐の機会を計っていたけれど…考えてみればそのままお前達を殺し ても面白くなかった…。私のこれからの人生もあるしね。私はお前達に復讐しつつ、葵家 の財産を全て奪い取る策略を考え続けたのよ。」 美枝子「酷い…。」 遼子「そこで思いついたのが、お客様を宿泊させている間に放火に遭う。そうすれば、残 った使用人が私1人となれば、分家の無い葵家にとって財産の行き場も無く、私に財産が 紛れ込んでくる手筈になっているのよ。」 香「虫のイイ話しね…。」 遼子「今までの苦労を考えれば当然よね?お嬢様?」 深月「…。」 深月、何も言わずに黙って俯いている。 遼子「…フフ…さすがにショックだった様ね?そうよね…自分がお母様を殺した様なもの だったんですものね?フフフフ…。」 純「…狂ってる…。」 香「アンタ…絶対に許さないわ…。」 純、香、遼子に言う。 遼子「せいぜい吠えるとイイわ。どのみち、貴方達にも死んでもらう予定だから…。業火 の中で、この部屋に蠢く蛇に噛まれながら、苦しんで死ぬのよ…。」 京子「あ…あ…。」 京子、背後の硬化ガラスの外側で蠢く大量の蛇を見る。 美枝子「結局…皆…殺すつもりだったの?」 遼子「勿論よ。貴方達は知らない筈だけど、あの探偵、東山零も、もう殺したわ。」 京子「え?」 香「…この…。」 香、唇を噛み締めて遼子を睨んでいる。 遼子「憎みなさい。罵りなさいよ。私はそうやって生きてきたんだから…27年間もね。」 深月「いいでしょう…財産も、この館も、何もかも貴方に差し上げます。」 遼子「お前に言われなくてもそうするつもりよ。お前も殺してね。」 深月「貴方は私に殺されるんです。」 遼子「私を…殺す?」 深月「お父様も私も、お母様が亡くなってから死神を見つけ出す為に5年間も費やしてき たのです。金に糸目をつけずに…。貴方が欲しがっている財産も、もう僅かしか残ってお りません。」 遼子「!?」 深月「お母様を大事にしていたお父様が、貴方を同じ様に大事にしなかったのは残念でな りませんが…。ですが、貴方が行ってきた殺人は許されるものではありません。私もこの 館と共に星になります。貴方を道連れに…。」 深月、服の中から薙刀の短刀部分と、鞘の部分を取り出し、短刀部分と鞘の部分 を継合せる。 遼子「薙刀?」 深月「…どうしましたか?私がただのお嬢様だとでも、思っていたのですか?お姉様?」 深月、薙刀を構えつつ遼子の傍に向かって歩き始める。 遼子「そこで止まりなさい。あの子達が死ぬわよ。」 遼子、銃口を美枝子達に構えつつ言う。 深月「貴方は全員殺すつもりだと…さっき仰いましたよね?」 深月、歩みを止めずに言う。 遼子「…。」 深月「それに、貴方が本当に私に対する憎しみを捨てきれないと言うのならば、そんな簡 単な殺し方で良いのですか?私は今、貴方に撃たれたとしても、安楽のうちに死ねるので 感謝すらする事でしょうね。撃って私との勝負を逃げるか…私との勝負を受けるか…。」 遼子「調子に乗らないで。」 深月「私にはもう何も残ってはいません。ただ、死神を仕留める。これだけです。」 深月、薙刀を構えて遼子に近づき、もう5メ−トル程度しか離れていない。 遼子「そんなに私が憎いの?自分の死を恐れないくらいに?」 遼子、深月に銃口を向けて言う。 深月「憎い…という感情はもうありません。今まで何不自由無く生活してきた私、そして 自分の人生が地獄だったと語った貴方…。もう終わりにしましょう…私はもう疲れている のです。葵一族の終焉を迎えましょう。」 遼子「終わりはしないわよ。私が葵家の残りの財産で、更に発展させてやるわ。」 深月「…貴方は…本当に私の姉なのですか?そんな…心の冷え切った貴方に何が出来ると 言うのです?貴方が本当に私の姉でしたら…私の心情も判って欲しかった。でも…もう遅 いですのね。」 深月、薙刀を振りかざして遼子に襲いかかる。 遼子「ウッ!」 発砲音「パ−ン!」 遼子、深月の足を狙って発砲する。深月、飛び上がって弾丸をかわす。 遼子「えっ!?」 風を切る音「ヒュン!」 深月、遼子の体めがけ、薙刀を振り下ろす。遼子、右側に飛んで薙刀をかわす。 遼子「こ、この…。」 深月「覚悟なさい!」 風を切る音「ヒュン!」 深月、腰を着いている遼子に薙刀を振り下ろす。 衝撃音「ガキン!」 深月「!?」 遼子、刀身50センチメ−トル程ある刃物を足のガ−タ−から取り出し、薙刀を 防ぐ。 遼子「…まさか武道の心得があるとはね。でも、私も刃物を扱って身を守って来た日々も あったのよ。」 遼子、長刀を得意げに振りまわしつつ言う。 深月「もう貴方の昔話に干渉したりはしません。貴方は私と一緒に死ぬのです。」 深月、薙刀を遼子に向けて言う。 蝶児「待て!もうお前が犯人だと判っているんだぞ!緑川遼子!」 美枝子「蝶児!」 蝶児、3つの入り口の真中の入り口から現れ、反対側のスペ−スに位置している 遼子に言う。 遼子「あらあら…そういえばまだあの子が居たのよね…。忘れていたわ。」 遼子、拳銃を蝶児に向ける。 美枝子「蝶児!早く逃げるのよ!」 発砲音「パ−ン!」 遼子、蝶児に向けて拳銃を放つ。 衝撃音「ガン!」 弾丸が、蝶児のすぐ横を通りぬけて後ろの壁にぶつかる。 蝶児「な…何?」 蝶児、自分の頬から血が流れている事に気が付き立ち尽す。 深月「早く!友人達を連れて逃げるのです!」 深月、遼子に視線を送りつつも、背後の蝶児に叫ぶ。 蝶児「深月…。」 香「蝶児!」 蝶児「おお…。」 蝶児、美枝子・純・香・京子が縛られているスペ−スに駆け寄っていく。 遼子「そんな事させるものですか!」 遼子、拳銃を蝶児に向ける。深月、遼子に薙刀を振りかざし突進する。 衝撃音「ガキン!」 遼子「お…お前…。」 遼子、両手で長刀を持ち、薙刀を防ぐ。はずみで拳銃を落とす。 深月「意外と往生際が悪いのですね。」 遼子「私は死んだりしないわ。ここで死んだら私は一体何の為に生きてきたの?」 深月「そう言って貴方に殺されてきた人もいる筈です。」 遼子「…うるさい!」 遼子、深月の胸を蹴飛ばし、深月を自分から遠ざける。 遼子「逃がさないわ!」 遼子、拳銃に飛びつく。 風を切る音「ヒュン!」 衝撃音「ガキン!」 遼子「ウアァァッ!」 深月の投げた薙刀が、拳銃を弾き飛ばし、拳銃を部屋の中央の窪みに落とす。拳 銃は液体の中に埋もれてしまう。遼子、薙刀により、右手から出血している。 深月「…その拳銃も…お父様から奪ったものでしょう?私はあの拳銃をお父様が隠し持っ ていた事を知っていました。」 遼子「く…。」 遼子、薙刀を拾い、薙刀を深月に向ける。 遼子「もう時間が無いわね。」 遼子、ライタ−の火を着け、ライタ−を部屋の窪みめがけて投げる。同時に液体 がもの凄い勢いで燃え上がる。 火の迫る音「ボオオオオオッ!」 蝶児「な、なんだ?」 蝶児、京子と美枝子のロ−プを解きつつ炎を見る。 美枝子「こ、この館を燃やす気なのね…は、早く逃げないと…。」 美枝子、纏わりつくロ−プを振り解き、香のロ−プを解く。 遼子「さあ!もうこの館が燃え尽きるまであと僅かだわ!アハハハ!誰も助からないわ ね!」 深月「…。」 深月、自分に突き付けられた薙刀を横目に、遼子の顔を眺めている。 遼子「…フフ…どうするの?当然、緑川遼子という名前も偽名。私は面が割れるかもしれ ないけれど、下界で再起する方法はいくらでも知っている。例え、あの子達が助かろうと 関係無いわ。」 深月「…。」 遼子「でも、貴方だけは確実に今、殺しておかないとね。最後にきてなかなかの演出をし てくれたけど、所詮は私の執念には勝てなかった。という訳ね。」 遼子、薙刀を大きく振りかぶる。 風を切る音「ヒュン!」 深月「…。」 薙刀が深月の胸を切り裂く。深月、胸から鮮血を迸らせつつ、石だたみの床に倒 れこむ。 遼子「フフ…さて、時間が無いわ。私は安全なル−トで脱出しないとね。」 遼子、石だたみの壁に歩み寄り、鍵の様な物を刺し込む。石だたみの壁から、2 メ−トル四方の抜け穴が現れる。 遼子「あの子達の姿はもう無いわね…。まだ殺るチャンスはあるかしら…。」 遼子、薙刀を石だたみの床に突き刺し、長刀を持って抜け穴を駆けて行く。 10:脱出 星座館・地下1階・隠し通路(夜)、蝶児、美枝子、純、香、京子、薄暗い隠し通 路を全力で駆けている。 美枝子「はあ…はあ…。ちょ、蝶児、何処に居たのよ!」 美枝子、息を切らしながら走りつつ蝶児に言う。 蝶児「それは俺の台詞だ!お前等こそ何処に行っていた!」 美枝子「わ、私は突然出来た横穴から変な薬をかがされて…。」 香「私も急に眠くなって…。」 純「ぼ、僕も紅茶を飲んだ途端に…。」 京子「わ、私はずっと…眠っていました。起きたら…緑川さんが…。」 蝶児「まあいい!早く出口に出るぞ!」 5人慌てて駆けて行く。すぐ後ろから火の手がもの凄い勢いで迫ってくる。 純「火…火が!」 蝶児「ここだ!」 蝶児、扉が閉まりかけているのを見て驚く。 蝶児「し、閉まりかけてやがる!!い、急げ!!!」 5人、閉まりつつある扉から慌てて飛び込む。 扉「ガッシャ−ン!!」 扉が閉まる。 美枝子「こ…ここって…。」 美枝子、厨房の中に居る事に気付く。 京子「ちゅ…厨房…。」 蝶児「遼子が生きていた理由が少しは判っただろう。落ちていた手や胴体は、詩堂加美か ら奪ったものだったんだ。あらかじめ、遺体から切断してこの通路の何処かに置いておい たか、冷蔵庫に入れておいたんだ。」 純「ウッ!」 純、吐き気を催し、水道に走る。 香「な、なんて女なの…人間じゃないわ…。」 蝶児「俺もすっかり騙されていた。あの探偵が教えてくれたんだ。」 美枝子「本当に…東山さんも殺されたの?」 蝶児、黙って頷く。 火の手「ボオオオオッ!」 食堂の入り口から火の手が迫っている。 蝶児「火の手が迫ってくるのが早すぎるな…。本当に見かけだけの館だ。」 蝶児、食堂内の窓ガラスに駆けより、椅子を持ち上げ振りかぶる。 純「な、何を?」 蝶児「窓から脱出するんだよ!」 蝶児、椅子を窓ガラスに叩きつける。 衝撃音「ガッシャ−ン!!」 窓ガラスが割れ、夜風が食堂内に吹き込む。 蝶児「お前等はここから脱出して門の所に居ろ!俺も後から行く!」 京子「い、岩崎さんはどちらに?」 蝶児「俺はお嬢様を助けに行く!」 蝶児、食堂の入り口に走っていく。 美枝子「ちょ、蝶児!待ちなさい!」 美枝子、蝶児の背中に叫ぶが、蝶児、食堂の入り口を、炎が迫る中駆けていく。 星座館・3階・魚座の間(夜)、部屋の中央に大きな穴があいている。そこから階 段が見えており、遼子がベッドで右手の手当てをしている。 遼子「深月…お前が残したこの傷…一生消えそうもないわね…。」 遼子、右手に荒々しく包帯を巻きつけつつ独り言を言う。 遼子「問題は残ったあの子達ね…でもこの館からそう遠くへは行けないでしょうから…。 脱出するついでに殺してあげないとね…。」 遼子、長刀を持って魚座の間を出る。 遼子「ウッ!だいぶヤバイ状況になってるわね…。少し焦ったかしら…。」 遼子、周りの火の状況を見て、渡り廊下を走っていく。 遼子「車庫へ行かないと…車の鍵は私が盗んでおいたから、車を使う事は出来ないはず。」 遼子、階段を降りていく。 遼子「ん?」 遼子、階段に慌てて隠れる。 蝶児「深月!何処だ!」 蝶児、階段を駆け上がりつつ叫んでいる。 遼子「ふ〜ん…。」 遼子、小声で呟きつつ、蝶児が階段を通過する姿を隠れて見ている。 蝶児「…はあ…はあ…。畜生!何処なんだ…。」 蝶児、3階に達した所で両膝に手をついて息を切らしている。 遼子「そんなにお嬢様を助けたいの?坊や…。」 遼子、柱の影から現れる。 蝶児「み、緑川…遼子!」 深月、背後から忍び寄る遼子の姿を見て振り返る。 遼子「ちょうど良い所で会ったわね…。アンタをここで殺しておかないと…。」 遼子、長刀を蝶児に向けてゆっくりと歩み寄る。 蝶児「…拳銃が無いお前が、俺に勝てるとでも思っているのか?」 蝶児、遼子に対して両拳を構える。 遼子「…フフフ…だてに殺人はこなしていないわよ。」 風を切る音「ヒュッ!」 蝶児「グワッ!」 遼子の左腕の裾から、矢の様な物が飛んで、蝶児の右肩に突き刺さる。蝶児、両 膝を着いて右肩を押える。 遼子「だから言ったでしょう?フフフ…。」 遼子、長刀を蝶児の頭に振り下ろす。蝶児、後ろに飛びのいて長刀を避け様とす るが、胸を少し切られる。 蝶児「ウッ!」 蝶児の胸から出血する。 遼子「時間が無いのよ…さっさと片付けないとね。」 蝶児「深月は…どうした?」 遼子「殺したわよ。貴方は助けに来たみたいだけど、無駄足だったわね。」 蝶児「こ、こいつ!」 蝶児、遼子に飛び掛る。遼子、左腕の裾から矢を放つ。 衝撃音「ドスッ!」 蝶児「ウワァッ!」 蝶児の足に矢が刺さり、蝶児が渡り廊下に転がる。 遼子「そろそろ諦めなさいよ。貴方に私は殺せないわ。人を殺した事ないんでしょ?」 遼子、長刀を片手にゆっくりと蝶児に歩み寄る。 蝶児「く…くそう…オネ−さんを殺しやがって…。」 遼子「オネ−さん?ああ、平島麻衣子さんの事ね?意外と根に持つタイプなのかしらね… あの女を先に殺したのはちょっとムカついたからよ。」 蝶児「なんだと?オネ−さんがお前に何をした!」 蝶児、肩と足を押えつつ遼子に怒鳴る。 遼子「…妹をかばってる姿が妙に腹が立ったのよ。」 蝶児「…何?」 遼子「幸せそうな顔しちゃってさ…霧山荘事件の生存者だかなんだかしらないけど、あっ けないものよね。拳銃一発でおしまいなんだから…。」 蝶児「き、貴様−ッ!」 遼子「まだ逆らおうって言うの?意外に根性あるじゃない。」 衝撃音「グサリッ!!」 蝶児「ワアァ−ッ!!」 遼子、蝶児の腹に長刀を突き刺す。 遼子「フフフ…坊や、泣いて命乞いをしなさい。私がもう少し力を入れたら、致命傷に至 るわよ。」 遼子、長刀を持つ手に、徐々に力をこめていく。 蝶児「う…う…。」 蝶児、顔を痛みに顰めつつも、長刀の刃の部分を握り締め抵抗している。 遼子「素直じゃないのね?死んでもイイの?」 蝶児「誰が…お前なんかに…。うう!!」 蝶児の腹から血が溢れてくる。 遼子「…まあ時間も無いし…そろそろ遊びはこれくらいにしておこうかな?さようなら、 坊や。」 衝撃音「バキッ!!」 遼子「キャアッ!!」 遼子、渡り廊下に吹っ飛ぶ。蝶児、目を開けて目の前に立っている深月を見る。 深月「ハア…ハア…大丈夫ですか?」 深月、胸の間を切り裂かれ、大量の血を流しつつも蝶児に言う。 蝶児「お、お前…死んだんじゃ…。」 蝶児、腹に刺さった長刀を抜く。 蝶児「ううう…。」 蝶児、腹を押えて蹲る。 深月「私は寸での所で体を避けて、致命傷を免れ、死んだ振りをしていました。あの女の 後を追う為に…さあ、早くお逃げ下さい!」 深月、蝶児の傍に置かれた長刀を掴む。 蝶児「お、お前も、逃げろ。」 深月「…ありがとう御座います…。貴方達の様な人達に最後に出会えて本当に良かったと 思っています。」 深月、ネックレスに付いている門の鍵と共に、蝶児にネックレスを渡す。 遼子「この…死に損ない!!」 遼子、深月に左腕を差し出し、矢を飛ばす。 衝撃音「グサリッ!!」 深月の右肩に矢が突き刺さる。 深月「うう…。」 深月、矢を引き抜き、血を流しつつも長刀を持って遼子に歩み寄る。 蝶児「深月!!」 深月「姉さん…もういい加減に諦めなさい…もう貴方はこの星座館と共に、私と共に滅ぶ しかないんです。」 深月、蝶児の方を振り返らずに遼子に近寄っていく。 遼子「う…うう…。」 遼子、後ずさりして深月から離れる。 倒壊音「ドドドド…。」 遼子「ハッ!」 遼子の後ろに続く渡り廊下が、崩れ、後ろから火柱が迫る。 深月「もう逃げられません…終焉ですね…。」 深月、長刀を手に持って遼子との距離を縮めていく。 遼子「深月…。最後までお前は私の邪魔をするというの?」 深月「…邪魔…私は姉さんにとってはその程度の存在だったのですね…。私も自分の人生 を呪います…。」 深月、長刀を遼子にかざして突進する。遼子、袖から矢を深月にめがけて撃ち、 深月の胸に命中するが、深月は突進を止めない。 衝撃音「グサリッ!」 遼子「ウッ…ァァァァ…。」 遼子の胸を深月の長刀が貫通する。 深月「…今…私もそこに参ります…お父様…お母様…。」 遼子「…深…月…。」 遼子、深月、もつれ合ったまま、崩れ落ちた渡り廊下から、火柱に飲まれつつ落 ちていく。 蝶児「あ…ああ…。」 蝶児、2人が落ちていった崩れ落ちた渡り廊下の方をただ呆然と眺めている。 蝶児「…畜生…畜生…。」 蝶児、体を必死に起こし、至る所から流血しつつも、渡り廊下を歩いていく。 星座館・洋風庭園正面門前(夜)、美枝子、純、香、京子、庭園から山道に続く門 の前で、焼け落ちる星座館を眺めている。 純「ああ…もうすぐ…すべてが焼け落ちる…。」 純、両膝を着いて勢いよく燃えている星座館を眺めている。 美枝子「蝶児…。」 美枝子、項垂れた姿勢のまま、燃えている星座館を見ようとしない。 香「あ、あれは…。」 香、星座館の車庫から門に走ってくる車を見つけ、指差す。 京子「…岩崎さん…それとも…。」 京子、震える目で車を眺めている。 車「ブロロロロロロ…。」 車が4人の前で止まり、運転席から全身血だらけの蝶児が現れる。 香「蝶児!?」 純「蝶児君!!」 純、香、蝶児の所に走っていく。 美枝子「はああ…。」 美枝子、両手を顔にやって両膝を着く。 京子「…美枝子さん…。」 京子、美枝子の肩に手を置いて両膝を着く。 香「アンタ無事だったんだ!!良かった!!」 香、蝶児の肩を叩く。 蝶児「イテェッ!馬鹿!俺の血が見えないのか!」 純「よく助かったよ!」 純、目を潤ませつつ蝶児に言う。 蝶児「ああ…車の鍵が無いから直結させるまで少々てこずったがな…。」 香「…蝶児…お嬢様は?」 香、後部座席を見つつ言う。 蝶児「…遼子を道連れに…逝ったよ…。」 純「…。」 蝶児、純、香、俯いて黙り込む。 美枝子「…あの人は…お嬢様の振りをしているって言っていたけど…本当は強い人だった のね…。あの人が、『救って欲しかった。』て言っていたけど…私達は何もしてあげられな かった…。」 蝶児「いや…アイツ、最後に言っていた。最後に貴方達の様な人達に出会えて良かった。 とな…。」 蝶児、深月のネックレスを取り出し、眺めつつ言う。 京子「それは…深月さんの…。」 蝶児「アイツの遺品になっちまった…アイツは俺達の命の恩人だった…。助けてもらった のは俺達の方だったよ…。アイツが居なかったら、俺達は全員殺されていただろう…。」 蝶児、燃え盛る星座館を見つつ言う。 ヘリコプタ−の音「バラバラバラバラ…。」 星座館の上空を、数機のヘリコプタ−が飛び回る。 香「…あ…あ…。」 香、目に涙を溜めて上空のヘリコプタ−を眺めている。 純「火事を麓から見て、駆けつけたんだ!」 純、上空に大きく手を振る。 京子「…。」 京子、黙って燃え続け、倒壊し始めている星座館を眺めている。 蝶児「京子…。」 京子「はい…?」 蝶児「お前は平気か?」 京子「…。」 京子、黙って俯いている。 美枝子「…京子ちゃん…。」 美枝子、京子の傍に寄り添い、京子の肩を抱く。 京子「…きっと…時間が解決してくれます…私は、誰かを恨んだり、復讐したり…なんて 考えはありません。」 蝶児「…そうか…。」 蝶児、その一言を発し、ガックリと運転席から、洋風庭園に倒れこむ。 美枝子「ちょ、蝶児?蝶児!!」 美枝子、蝶児の背を擦る。 香「ちょ…どうしたの?」 純「蝶児君!!」 純、香、蝶児の傍に駆け寄る。蝶児、全く反応しない。 京子「待って下さい…。」 京子、蝶児の傷跡と出血を見て言う。 京子「傷は致命傷ではありません。ですが、一刻も早く輸血を行わないと危険です。出血 多量で気を失っています。は、早く…病院に…」 京子、蝶児の腹の傷口を押えて出血を少しでも押さえつつ言う。 美枝子「そ、そんな…蝶児…蝶児−ッ!」 美枝子、絶叫する。 宮崎県・えびの市・えびの病院(朝)、蝶児、病院の一室で眠っている。美枝子、 蝶児のベッドの傍で椅子に腰掛けつつ、壁に頭をつけて眠っている。 ドア「コンコン。」 蝶児の病室のドアがノックされ、ドアが開き、純、香、京子が入ってくる。 香「まで寝てる…まあしょうがないか…結局、明け方までヘリコプタ−で移動してたんだ からね。無理も無いか…。」 香、頭を掻きながら美枝子の隣に椅子を構えて座る。 純「でも峠を越したって先生が言っていたからもう安心だね。良かった…。」 純、窓を開き、外を眺めつつ言う。 京子「信じられない生命力だって…先生は言っておられました。」 京子、蝶児の包帯だらけの姿を見て言う。 香「プッ…ハハハハ!先生もお墨付きの変態だって事ね?ハハハ!」 香、腹を抱えて笑っている。 美枝子「ん…んん…香?」 美枝子、両目を擦って香の顔を眺める。 香「あ、起こしちゃった?悪かったわね。お昼はもう3人で食べてきちゃったわよ。」 純「美枝子ちゃん、蝶児君はもう峠を越して回復に向かって順調なんだって。」 美枝子「…本当?ハア…良かった…。」 美枝子、ガックリと肩を落としてため息をつく。 香「安心した?」 美枝子「…。」 京子「良かったですね美枝子さん。」 美枝子「逆よ…。」 京子「え?」 京子、キョトンとして美枝子の顔を覗き込む。 美枝子「こんな命知らずの馬鹿の心配をこれからもすると思うと…心臓が幾つあっても足 りないわ…。たくっ!」 美枝子、額の包帯を押えつつ呟く。 京子「そ、そうなのですか…?」 香「照れ隠しよ。」 美枝子「…。」 美枝子、目の下に出来たクマも影響して、凄まじい目で香の顔を睨む。 香「ハハッ…冗談よ冗談…。」 純「そういえば、あの事件、ニュ−スで報道されてるよ。」 美枝子「え、そうなの?」 京子「私達も色々と事情聴取の為に、警察に出頭しなくてはならないそうです。事件が事 件ですから、なかなか時間がかかりそうですが…。」 美枝子「…そうよね…はたから見たら…信じられない事ばかりだったものね…。」 純「テレビで見る?」 純、テレビのリモコンに手を伸ばす。 香「止めてよ。」 純「え?どうして?」 香「もう少しの間、事件を頭から離れさせてくれてもイイでしょう?アンタには気を使う 機能がないの?」 純「あ…。」 純、横目で京子の顔を見つつ俯く。 京子「私は平気です…いつまでもクヨクヨしていたら、姉さんもきっと怒っているでしょ うから…。私は姉さんから受け継いだモノを大事に…これからも胸を張って生きていきま す…。」 美枝子「…。」 美枝子、笑顔で京子の顔を眺めつつ、安堵のため息をつく。 蝶児「わざわざニュ−スを見なくても、手帳を見れば大半の事件の全貌は見えてくるぜ。」 香「ア、アンタ起きてたの?」 香、ギョッとして蝶児の方を振り向く。 蝶児「あんだけデカイ笑い声がすりゃ、目も覚めるわな。」 純「手帳?」 蝶児「ああ、あの探偵が色々と推理して手帳に記していたんだ。その手帳は俺の服のポケ ットに入ってる。」 純、蝶児の服がかけられたハンガ−に行き、手帳を取り出す。 純「これ?」 蝶児「ああ…。」 美枝子「私が読むわ。」 純、美枝子に手帳を手渡す。美枝子、手帳を開く。 手帳「今回の事件の全貌はこうだ。運転手に酔い止めの薬と偽りつつ、カプセルを渡し、 カプセルの中身に青酸カリを混入して、青酸カリの作用を多少遅らせる事で、即効性を取 り除く事が出来る。運転手はこの手で殺された。」 純「そうか…カプセルの外殻部分を厚めにしておけば…。」 手帳「2人目の被害者、女医、詩堂加美が殺された直接の死因は、首に打たれた青酸カリ が原因だ。だが、前日、彼女は料理人ともめ、応接室から退室し、同僚のメイド、緑川遼 子の居る乙女座の間で仮眠。その後自室に戻って殺された。彼女の体からは青酸カリの注 射針の跡が発見された。彼女の死体が屋根裏部屋から外に吊るされているのを、葵卿紅が 発見する。」 香「もう緑川遼子が狙っていたのね。2人っきりになった時には…。」 手帳「詩堂加美が殺される前に、葵卿紅と会っている事実が後になって判明した。何故に 彼女が葵卿紅と会合を交わしていたのか?それは、彼女が女医の職に就きつつ、卿紅と結 託して、5年前の事件を解くという名目があったからだ。」 純「だから病を隠していたのか…。ただ、深月さんを騙すだけではなかった。」 香「影の様に動いていたのね。」 美枝子、手帳を読み上げる。 手帳「恐らく、犯人はその事を何らかのきっかけで察知し、詩堂加美を早急に殺したもの と思われる。無論、葵卿紅にしても、仲間の詩堂加美が死んだ事によって身の危険は感じ ていたのだろう。葵卿紅は、隠し通路の先にあった『蛇使い座の間』において殺されてい た。死因は青酸カリを首に打たれた事に思われる。」 蝶児「そこら辺が1番の謎だな。」 香「結局、隠し通路を知っていたのは誰と誰なの?」 蝶児「ひょっとしたら、詩堂加美と葵卿紅は、隠し通路を使って、蛇使い座の間で会合を していたのかもしれないな…。その現場を緑川遼子が知っていたのかもしれん。アイツも 隠し通路は知っていたし、蛇使い座の間には詳しい様だったしな。」 手帳「私の失策でもあった…平島麻衣子が4人目の犠牲者になってしまった。犯人は、大 胆不敵にも、屋根裏部屋から吊るしたロ−プを使って、獅子座の間に滞在していた平島麻 衣子を窓から銃撃。その時、恐らく屋根裏部屋から隠し通路を使って何処かの部屋に移動 し、我々と同じく、渡り廊下に瞬時に現れたものと思われる。」 蝶児「…遼子は、どうやって乙女座の間から出てきたんだ?」 美枝子「いいえ、確かあの時、緑川さんは牡牛座の間の方から出てきた気がしたわ。」 香「そういえばそうだった様な…。乙女座の間は確かに2階だったけど、私達の部屋から 見ると、反対側の間から出てきたわね。」 香、首を傾げている。 蝶児「隠し通路の入り口は、屋根裏部屋と牡牛座の間のトイレ、そして厨房だったな。ま だ在ったのかもしれないが、それらの部屋からは蛇使い座の間にも通じるし、色々とアリ バイ作りに役立っていたんだな。」 手帳「5人目、1人天秤座の間に立ち篭る事が多くなっていた料理人、上原勇介が、部屋 を落下させられ、瓦礫に埋もれて圧死する。その下の間に滞在していた双子座の間の客、 岩崎蝶児、水無月美枝子、三嶋香、栗原京子、は咄嗟の判断で死を免れる。」 香「それよ…どうやって部屋を落としたのよ。」 純「…判らない…。」 京子「何か仕掛けが在ったのでしょう。きっと…あの館特有の…。」 蝶児「そういえば、蛇が沢山存在していた通路から、蛇が急に居なくなったり、硬化ガラ スの中に閉じ込められていたり…。どんな仕掛けだったんだ?」 美枝子「確か葵深月さんが、財産の大半を、死神を見つける為に費やした。と言っていた から、そういう仕掛けに主に使っていたんじゃない?」 純「だけど、逆に緑川遼子に利用されてしまった…なんて皮肉な事なんだろう。」 一同、俯いて黙っている。 手帳「6人目、メイドの緑川遼子、厨房にて爆死。恐らく、犯人があらかじめ厨房に爆弾 を仕掛けていたのだろう。傍にいた水無月美枝子と栗原京子は負傷。」 香「違うのよそれ!」 純「…だけど…誰も気が付かなかったよ。まさか詩堂さんの死体を利用しただなんて…。 それから隠し通路に逃げたなんて…。」 一同、黙っている。 手帳「7人目は執事、内藤継人、洋風庭園閲覧室にて停電の中、犯人に刺殺される。恐ら く、停電も犯人の計算の内だったのだろう。これで館の人間で生き残りは、主の娘、葵深 月だけである。」 純「それからは?」 手帳「私は考える。この状況において、お客様が犯人だとは思えない。かといってそのま ま真っ直ぐ考えて葵深月が犯人とも言い難い。何か盲点は無いのだろうか?見逃している 点は無いのだろうか?」 美枝子「あの人…洋風庭園閲覧室に1人で居ながら、こんなに冷静だったのね…。」 蝶児「…あの状況では…とても100%人を信用出来る状況じゃなかった。事件が解決し てから知るなんて…皮肉なもんだ。」 一同、静まり返っている。 手帳「1つ、小さな事かも知れないが、後半の殺人には何故か青酸カリが使われなくなっ てきている。何故なのだろうか?そこに私は目をつけ、早速やるべき事を思いついた。そ れは薬品を多く扱っている女医、詩堂加美の部屋をくまなく詮索する事だ。」 純「そういえばそうだね。でも、あの部屋には青酸カリは発見出来なかったと思うけど…。」 蝶児「黙って聞け。」 手帳「私は発見した。青酸カリ自体は蠍座の間に存在しなかったが、2つの薬品を混入す る事により、青酸カリを産出する事に気付いた。その2つの薬品はいずれも蠍座の間にあ る。しかし、犯人は女医ではない。となると、気軽にこの詩堂加美の有する蠍座の間に入 れる人物…やはり葵深月が犯人なのか?」 香「続きは?」 美枝子「ここで手帳は終わっているわ。しかも…次のペ−ジから血が付いてるの…。」 蝶児「探偵は蠍座の間で殺されていた。多分、そこまで書いた所で、緑川遼子に出くわし てしまったんだろう。だが、探偵は最後に俺にメッセ−ジを残してくれていた。犯人が判 るメッセ−ジを…。」 京子「それは?」 蝶児「指差していたんだよ。女医のベッドを…。探偵がベッドを指してくれていたお蔭で、 俺はあの偽装死体を使った緑川遼子のトリックに気付いた。」 美枝子「そこから先は、私達が経験した通りだったのね。」 純「でも…どうして僕達は水瓶座の間で眠くなったんだろう?」 香「…多分、あの時に水瓶座の間で飲んだ紅茶に睡眠薬が含まれていたんでしょう?」 純「深月さんも飲んだのに?」 香「鈍いわね…その時すでに、緑川遼子の手によって睡眠薬を混入されていたんでしょう? 事前に…。」 純「あ、そうか…で、僕達は眠っている間に縛られて『蛇使い座の間』に運ばれたんだ?」 美枝子「私も牡牛座の間のトイレに隠れていたら、急に横穴が開いて中から手が…そして 何か布の様な物で口を塞がれたら眠くなって…気が付いたら縛られてあの『蛇使い座の間』 に居たわ…。」 京子「きっと、クロロホルムを嗅がされたのでしょう…。」 蝶児「…解せないな…。どうしてその時にアイツはお前等を殺さなかったんだ?わざわざ 重い思いをして『蛇使い座の間』に運んで…。」 美枝子「深月さんに対するあてつけだったのよ。そう本人が言っていたわ。それに、あの 『蛇使い座の間』でまとめて全員殺す手筈だった様だったし。」 蝶児「俺が現れたのは計算外だった様だな。」 香「そうよ…アンタどうやってあの『蛇使い座の間』に来れたの?」 蝶児「銃声がしたんだよ。あの偽装死体のトリックに気付いて、確信を深める為に俺は、 厨房に向かった。そして犯人が緑川遼子と断定した時、冷蔵庫から銃声がしたんでな。俺 は冷蔵庫を開いてみると、通路が開いているじゃないか…。」 純「なるほどね…。」 蝶児、ベッドに背を沈めて外の風景を眺めている。 蝶児「そして深月が遼子に向かって行ってくれなかったら…俺達は全員死んでいただろう な…。」 京子「犯人が実の姉さんだったなんて…本当に…何か…霧山荘事件と似ていました…。」 美枝子「そうね…深月さんが私達に助けを求めたのも、直感で何か私達に近いものを感じ ていたからかも知れなかったわね。」 蝶児「しかし…このネックレス幾らするんだろうな?相当な値打ち物だと思うんだが…。」 香「アンタ売る気?」 香、怒りの形相で蝶児の顔を睨んでいる。 蝶児「冗談だ冗談。」 蝶児、ネックレスを暫く眺めて、ネックレスを京子に手渡す。 京子「え?」 京子、驚いた表情で両手でネックレスを預かる。 蝶児「お前が貰っておいた方が良さそうだな。」 京子「ど、どうして…。」 蝶児「何となくなんだが、お前が深月、遼子、姉妹。そしてオネ−さんの分まで生きてい く様に、そのネックレスを持っておいた方がイイと思うんだ。」 美枝子「へえ…。」 香「ヒュウ…。」 美枝子、香、呆然と蝶児の顔を眺めている。 蝶児「なんだ?お前等も欲しかったのか?」 蝶児、自分の顔を眺めている美枝子と香に言う。 美枝子「いいえ、私もそうした方が良いと思ったわ。」 香「ちょっと惜しいけど、まあいいか。」 純「京子ちゃんが1番似合いそうだしね。」 美枝子、純の顔を睨んでいる。香、純の腹に肘鉄を食わせる。 京子「ありがとう御座います…。」 京子、ネックレスを眺めて涙を浮かべている。 蝶児「俺達が持っていても猫に小判だしな。なあ?美枝子。」 衝撃音「ドン!」 美枝子、蝶児の首を殴る。蝶児、その勢いで窓の方に吹っ飛び、そのまま窓の外 に体が飛び出していく。 蝶児「あ…。」 美枝子「あら?」 京子「キャアッ!!」 衝撃音「ドスン!!」 蝶児、2階の窓から1階の庭園に落下する。 宮崎県・えびの病院・集中治療室前(夕)、集中治療室ドアの上のランプに赤い点 灯が灯っている。美枝子、純、香、京子、集中治療室前のソファ−に腰掛けている。 美枝子「私…蝶児を殺しちゃった…。」 美枝子、両肩を震わせつつ呟く。 京子「だ、大丈夫…背中から落ちていましたし…頭も少ししか打っていない筈ですから…。」 京子、美枝子の顔を心配そうに眺めつつ言う。 香「アイツ…長野でも2階から落ちなかった?」 純「運が良いのか悪いのか…これで死んだら笑い話にもならないね。」 純、集中治療室のドアをずっと眺めている。 香「しかし…変な話だけど、どうして使用人を5人も同時に雇ったのか謎のままね。」 美枝子「簡単な話なのよ…三津子さんよ。あの人が誕生日に計画を実行する為に、大勢を 呼んでおきたかっただけ…。」 香「あ、そうか。勘が冴えてるじゃないの。」 香、パチンと指を鳴らして言う。 香「じゃあさ、隠し通路を知っていたのは結局誰と誰?」 純「葵卿紅、詩堂加美、緑川遼子、の3人だろうね。葵卿紅と詩堂加美の2人の会合の場 はきっと『蛇使い座の間』だったろうし…緑川遼子はその事を事前に知っていたから、あ の2人を早めに殺しておいた。」 純、視線を集中治療室のドアから動かさずに言う。 香「1番判らないのは、最初に私達が訪れた時の夜、葵深月は水瓶座の間から何処に行っ ていたの?」 純「それは…。」 一同、黙っている。 集中治療室のドア「バタン!」 集中治療室のドアが開き、蝶児が移動式ベッドに乗せられたまま病室に運ばれる。 美枝子「せ、先生、大丈夫なのですか?」 美枝子、ベッドと共に病室に向かっている医師に問う。 医師「軽い打撲で済みました。運良く、今朝方手術した傷跡も少ししか開いていませんで したので、また暫く安静にしてもらいます。」 美枝子「そうですか…ありがとうございます…。」 美枝子、ガックリと病院の廊下に両膝を着いて崩れ落ちる。 宮崎県・えびの病院・蝶児の病室(夜)、蝶児、ベッドで手帳を読んでいる。純、 椅子に腰掛けてテレビのニュ−スを見ている。窓はキッチリと閉められている。 ニュ−ス「鬼渡り山の山頂付近にある星座館にて起こった一連の殺人事件は…。」 テレビでやっているニュ−スで、燃え尽き、倒壊した星座館に大勢の警官が配置 されている模様を映している。 純「何処もかしこも星座館の話題で持ち切りだね。ねえ蝶児君、さっき美枝子ちゃん達が 言っていたけど、『葵深月は、最初の晩、水瓶座の間から何処に行っていたんだろう?』っ て言っていたんだ。蝶児君は判る?」 純、ニュ−スを眺めつつ言う。 蝶児「魚座の間だ。」 純「え?」 純、呆然と蝶児の顔を眺めている。 蝶児「最初の晩、卿紅と女医が、『蛇使い座の間』に向かっていたのは知っているだろう? ひょっとしたら深月も薄々勘付いていたのかもしれない…。あのお嬢様の事だ。不倫だと でも思っていたならば、始めは女医を犯人だと疑っていたのだろう。魚座の間で卿紅の帰 りを待っていた可能性もある。」 純「…なるほど…。でもそうかな?」 蝶児「もうそれでいいじゃないか。どのみち、犯人はあの緑川遼子だ。あのお嬢様は無実 だったんだからな。」 純「そうだね…。」 蝶児「ところで、美枝子と香と京子は何処に行った?」 純「ご飯食べに行ったよ。心配した後だから、お腹が空いていた事を忘れてたんだって。」 蝶児「何て奴等だ!」 蝶児、ニュ−スを眺める。 11:帰路の途中で… 鹿児島県・鹿児島空港・搭乗口前(朝)、蝶児、美枝子、純、香、京子、旅行カバ ンを背負って、搭乗口に向かっている。 京子「いよいよお別れですね…長い間、警察に出頭を繰り返してしまって…私も病院の方 が心配ですので…。」 京子、トランクを走らせつつ言う。 美枝子「そうね…私達も学校の休みはすでに終わってるんだけど…。」 京子「美枝子さん…風の噂によると、そろそろ私の母の刑期が終わるそうなのです。」 香「へえ?それはおめでとう!」 美枝子「良かったね、京子ちゃん。」 京子「ええ、また白馬村の方にも顔を出して下さい。心から歓迎致します。」 京子、長野空港行きの搭乗口に体を向ける。4人、京子の方に体を向けて歩みを 止める。 京子「…さようなら…きっとまた会えますよね?」 美枝子「勿論よ。東京の方にも顔を出してね。歓迎するから。」 香「来なかったら私達からまた白馬村に行くからね。」 純「お元気で、また近い内に会おうね。」 美枝子、純、香、京子に手を振っている。 蝶児「…。」 京子「岩崎さん、このネックレス、大事に致します。さようなら。」 蝶児「ああ、元気でな。」 京子、蝶児達に背を向け、搭乗口に向かってトランクを運びつつ歩いていく。4 人、京子の姿が見えなくなるまで京子の方を眺めている。 蝶児「なんか京子の奴…逞しくなっていたな。霧山荘で見た時からは想像も出来ない位に …。」 美枝子「そうよね、京子ちゃんに命も救われたし…。」 純「真弓さんも帰ってくるっていうし…良かった良かった。」 香「これで麻衣子さんさえ無事だったら…ね。」 4人黙り込んで俯いている。 蝶児「…辛気臭くなってきたな。早く飛行機に乗ろうぜ。」 美枝子「羽田空港行きはまだ搭乗始まってないわよ。馬鹿。」 純「あそこで座って待ってようよ。」 香「そうね。」 4人、搭乗口前で席に座って搭乗が始まるのを待っている。 美枝子「ここでも星座館のニュ−スやってるわね。」 美枝子、正面のテレビに映されている星座館関連のニュ−スを見る。 純「何か飲み物買ってくるよ。」 香「私ちょっとトイレ。」 美枝子「あ、私も。」 美枝子、純、香、席から立ちあがる。 蝶児「慌しい奴等だ。」 蝶児、席に腰掛けつつテレビを眺めている。 アナウンサ−「星座館に事件当時居たのは全部で15名。その内10名が死亡するという 無惨な殺人が起きましたが…。」 蝶児「チッ!いつまでこの報道が続くんだ?」 蝶児、苛々した様子でテレビを眺めている。 アナウンサ−「しかし未だ、死体が1人分見付からない状況が続いています。」 蝶児「なんだって?」 蝶児、身を乗り出してテレビに駆け寄る。 蝶児「どういう事なんだ?」 アナウンサ−「生存者からの取り調べによると、死亡者は10名、そのうち葵卿紅氏の遺 体がまだ発見出来ません。」 蝶児「なんだと?」 アナウンサ−「葵卿紅氏は、猛毒の蛇に噛まれたのが直接の死因と思われていましたが、 星座館に大量に生息していた蛇は全て毒を持っていない無毒種の蛇だったので…。」 蝶児「そ、そんな…だが、青酸カリを打たれてアイツは…。」 アナウンサ−「警察は目下、葵卿紅氏の行方と死体発見の捜索に全力を傾けています。」 蝶児「卿紅が…生きている?」 蝶児、全身を震わせつつテレビを眺めている。 鹿児島空港・屋上(朝)、大勢の見送り客の中、1人のサングラスをかけた老紳士 が、羽田空港行きの飛行機の離陸を眺めている。 老紳士「…。」 飛行機「ゴオオオオオ−ッ!!」 飛行機が鹿児島空港滑走路から飛び立つ。 老紳士「…終わったか…。」 老紳士、屋上から空港内に入り、ロビ−を歩いていく。 老紳士「…もはや、私には何も残っていないな…。財産も娘も…まさか、この年になって 遼子と同じ境遇に立たされるとは…これも何かの運命なのか…。」 老紳士、空港入り口に向かう。その前に、1人の男が立ち尽くす。 老紳士「?」 蝶児「やあ、葵卿紅。」 蝶児、老紳士に歩み寄る。 老紳士「…よく…私がここに居ると思いましたね。」 蝶児「いや偶然だ。俺はこれから星座館に向かって、手がかりを探そうと思っていた。」 卿紅「そうですか…向かう最中に私を見付けた?」 卿紅、サングラスを取り、懐にしまう。 蝶児「生きていたとはな。」 卿紅「…立ち話もなんですから…そこのお店に入りましょう。他のお客様はどうなされま した?」 蝶児「俺だけ飛行機に乗らなかった。あいつ等は先に東京に戻った様だな。」 蝶児、卿紅、喫茶店に入り、窓際のテ−ブルに向かい合って座る。 蝶児「どうやって生き延びた?」 卿紅「青酸カリは打たれなかったのです。私は確かに『蛇使い座の間』にて遼子に拘束さ れ、大量の蛇に噛まれ、そこで遼子は私が死んだと思ったのでしょう。」 蝶児「だが、首筋には注射針の跡が…。」 卿紅「あれは蛇に噛まれた跡です。見間違えたのでしょう。私は長い間、ショックから気 を失っていました。そして『蛇使い座の間』に仕掛けられたトリックで、蛇を更なる階下 に一度落とし、そして再び硬化ガラスの中に閉じ込める仕掛けを作っておいたのですが、 遼子がそれを使った時、私は『蛇使い座の間』の階下で気を失ったまま閉じ込められてい ました。」 蝶児「…いつ脱出を?」 卿紅「館が燃え尽きた時に、私は命からがら脱出に成功しました。もっと早く脱出してい られれば…事件ももっと早く解決していましたが…。」 蝶児と卿紅のテ−ブルに、ウエイトレスがコ−ヒ−を運んでくる。 蝶児「何故、警察に出頭しない?」 卿紅「…。」 卿紅、何も言わずに黙ってコ−ヒ−を啜る。 蝶児「判っているぞ、お前がやってきた行いが世間に知れる事を恐れているんだな?」 卿紅「何の事です…。」 蝶児「子返しだ。」 卿紅「…知っていましたか…。」 蝶児、鋭い視線で卿紅の顔を眺めている。 蝶児「お前は今後の人生、決して楽なものではないだろうな。財産もない、親類もいない、 そんな中で、遼子が味わった苦しみを味わいつつ、生きていくんだ。」 卿紅「…そうですな…。まさか、こんな形で遼子の報復を受けるとは…あの時、星座館で 死んでいた方が幾分楽でした…。」 蝶児「…だが、お前に聞きたい事はまだ沢山ある…。今後、お前は何処に居る気だ?」 卿紅「老人ホ−ムのお世話になる事になりました…。」 蝶児「そうか、じゃあたまには顔を出してやる。そこでアンタに話を聞きに行ってやる。 深月に感謝するんだな。」 蝶児、椅子から立ち上がる。 卿紅「深月に…?」 蝶児「ああ、アンタの自慢の娘が、俺達の命の恩人でなかったら…アンタなんぞ軽く見放 している所だ。最後まで深月がアンタの事、アンタの妻の事、遼子の事を案じていたから、 俺もアンタに少し温情をくれてやる。義理だがな…。じゃあな。」 卿紅「ふ…深月…う…うう…。」 卿紅、左手を自分の顔にやって、押えられない涙を必死に拭っている。蝶児、卿 紅を残して喫茶店を出る。 鹿児島空港・搭乗口前(朝)、蝶児、ニュ−スを見ていた時に腰掛けていた席に座 ってテレビを眺めている。 蝶児「…深月…か…。」 蝶児、呆然とテレビを見ながら呟いている。 物音「ポン。」 蝶児の肩に誰かが手を乗せる。 蝶児「ん?」 蝶児、背後を振り返る。そこに美枝子、純、香、が居る。 蝶児「お、お前等…。」 美枝子「見てたわよ?さっきの事も全部。」 蝶児「飛行機に乗って先に帰ってたんじゃ…。」 香「美枝子がどうしても置いて行けないって駄々をこねちゃってね…。」 純「さっきの人は…。」 蝶児「…もういいんだ。また判らない事があったら、ここに来れば判る。しかしお前等本 当に馬鹿だな?」 蝶児、首を振って言う。 美枝子「馬鹿にならないとアンタと行動出来ないわよ。まだ判ってないの?」 蝶児「ハハハ…帰ろうぜ。搭乗が始まったぞ。」 蝶児、美枝子、純、香、旅行カバンを持って、羽田空港行きの飛行機が待つ搭乗 口に入る。 終わり 著者・大牟田 浩一 著者のあとがき 今回の作品『星座館の人々』…苦情は幾らでも受けましょう!かかって来なさい! というのが著者の感想でした。完成が近づく度に、どうやって終われば良いんだ?この疑 問が頭から離れませんでした。挙句、言い訳として『財産の大半を仕掛けに費やしました。』 と添えておきましたが、それでも…。納得はしてもらえませんよね? 今回はスト−リ−重視には出来ない大きな理由がありました。それは前作に登場 した人物が再登場する事により、犯人枠が激減するのであまりスト−リ−を重視してしま うと全貌がすぐに明らかになってしまうという盲点に気が付いたからです。やはり、登場 人物を多くしたいのであれば、前作から引き続いて登場させる人物はあまりお勧め出来な いのですね。正直言って探偵役(?)が多すぎました。 著者の好きなラストにどんでん返し!も今回は卿紅の生存。にしましたが、これ はあまりに突拍子も無い事にしてしまったので、『大牟田!!やりやがったな!!』と反感 を買ってしまうでしょうね…。ですが、これにも言い訳はちゃんと添えておきます。それ までの話の流れで、現実味が無い。というのはよくお判り頂いていると思いますが、そこ で半端はいけない。だからこそ最後の最後で止めを!!と…。 『星座館の人々』のお目玉キャラクタ−は葵深月だったのですが、モチ−フはあ まりにも口外出来ない所から引っ張ってきたのでここには記載出来ませんが、自分として まだまだ甘かったなぁ〜。と思っています。また次回作に向けての抱負が出来ました…。 葵深月、彼女は精神錯乱状態に見せておいて、実は誰よりもまともな正義感の持ち主であ った。と表現したかったのですが、難しかった。薙刀を持たせたのは、『大和撫子』のイメ −ジが出れば?と思いましたが、『星座館の娘が薙刀ぁ〜?』と突っ込まれたら何も反論出 来ませんからあしからず…。 最後に来ての謎解きが、いつもワンパタ−ンなので、これも上手く改良出来たら なぁ〜といつも思うんですよね…。推理物から1歩秀でた作品を仕上げる気でやっていま すが、どうもこの辺はいつも推理物の定番通りになってしまうのが苦悩の種です。本来な らば、『零の手帳から…』ではなく、『遼子の口から…』という設定にしたかったのですが、 深月との決闘と炎が迫り倒壊しつつある星座館をかいている内に『あっ!やばい!死んじ ゃう!死んじゃう!あ−っ!死んじゃった…。』となってしまったのです。あの死に方では もう『生きていたよ?』という設定は不可でしたから、『零の手帳から…』を使いました。 そして禁断の手『爺さんも生きてたんだよ?』もやってしまいました…。この禁断の手を 使った事により『そこまで引っ張っておいてそれは…』と思われるでしょうが、今回はお 許し下さい。 正直、今回の『星座館の人々』に費やした日数は約1ヶ月位でしたので、多少目 に余る点が浮上しても、仕方ありませんね。苦情でも好感を得た事でも何でも構いません。 私に訴えかけて下さい。今の所この路線を続けていますが、もっと別の路線を攻めるなり してもいいかもしれませんし…。まあ当分は『知識の泉』たるものを習得するまでは、思 い切った変更は難しいのですが…。ですが締めとして、『星座館の人々』を時間をかけて読 んで下さった皆様、ありがとう御座います。私は今後も暇を見つけてタ−ボがかかってい た時に次回作に筆をのばします。